ラグビー日本代表は、11月に王国・ニュージランドの先住民マオリ族で構成されたマオリ・オールブラックスを迎え、強化試合(1日・神戸、8日・秩父宮)を実施する。その後はヨーロッパに遠征し、ルーマニア代表、グルジア代表とアウェーで試合を行う予定だ。イングランドW杯まで残り1年弱。日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は「これまでにない成功を収めるチームをつくりたい」と、目標に掲げるベスト8入りへさらなるレベルアップを図る。そんなジャパンで欠かせない存在となっているのが、最年長36歳のLO大野均だ。初代表から10年、積み重ねたキャップ数85は日本最多。この先もテストマッチに出続け、イングランドW杯にも出場すれば前人未到の100キャップが見えてくる。チームのため、常に体を張り続ける“キンちゃん”にジャパンの進化を語ってもらった。
(写真:好きな言葉は「灰になっても、まだ燃える」。闘志あふれるプレーでチームメイトを背中で引っ張る)
二宮: エディー・ジャパンは昨年、強豪・ウェールズ代表にも勝利し、ここにきてテストマッチ10連勝中です。エディー・イズムが浸透してきた結果と言えるでしょうか。
大野: 試合中にパニックになることが少なくなりましたね。仮に自分たちのミスでトライを獲られて劣勢になったとしても、立ち返る場所がある。全員が同じ方向を向いて試合ができています。

二宮: 立ち返る場所とは具体的には?
大野: 今のジャパンはセットプレー、つまりスクラム、ラインアウトでは自信があります。そこから、しっかりとしたシェイプをつくる。BKとFWがしっかりリンクしてアタッキングするかたちをつくるんです。そして外国人がついてこられないスピードで球出しをして、どんどんパスを回しながらスペースを突いていく。このスタイルを全員が共有しているので、6月のカナダ戦のような逆転勝ち(前半の9−25から34−25)ができるようになりました。

二宮: 戦術面はもちろん、エディー・ジャパンになってからはフィットネスも改善されたように映ります。これまでのジャパンは強豪相手に前半は健闘しても、後半は体力負けして大差をつけられることが多かった。エディーさんは早朝トレーニングを取り入れたり、かなり練習もハードにやっていますよね。
大野: もちろん、それも大きいです。エディーさんの目指すラグビーはフィットネスが強くないとできない。かといって、単に走るだけといったメニューは練習ではやりません。試合と同じようなプレッシャーの中で鍛えていく。たとえば動きの中でミスがあったらポーンとボールを出して、「それを拾って、次」という感じで練習を進める。試合と似た状況に追い込んでいくので、1日の練習が終わると結構、達成感があるんです。「今日も、やっと終わった」って(笑)。

二宮: 達成感があるということは、その分、心身が鍛えられている証拠でしょうね。
大野: 日々、レベルアップしている実感が全員にあります。僕も36歳ですけど、成長していると思いますから。

二宮: もし来年のW杯に出場すれば、3大会連続出場になります。日本は1991年大会に1勝して以降、本番で勝っていません。今度こそ、という思いは人一倍強いのでは?
大野: 前回の2011年の大会でW杯は最後と思っていましたから、今、エディーさんから代表に呼んでいただいて、また出場することになれば他の選手とは違う責任があると感じています。

二宮: 前回のジョン・カーワンHCが率いたジャパンも、「1勝はできる」と期待を集めながら、結果は1分3敗。W杯は甘い舞台ではないことを改めて思い知らされました。
大野: 特にトンガには直近の試合で5連勝していて、勝つ自信がありました。実際、日本のゲームプランは完璧だったと思います。でも、勝てなかった。やはり、どのチームもW杯になると気合が入って別物のチームになる。ジャパンも、それに負けないくらいのメンタルの強さを身につけないと勝つのは難しい。

二宮: オールブラックスにも大敗(7−83)しました。大野さんはスタメン出場しています。初めて対戦する世界一のチームはいかがでしたか?
大野: 確かに大差で負けはしましたが、率直に「点差ほどの実力差はない」との感想を持ちました。大敗したのはオールブラックス相手に、こちらがヘンに構えてしまったから。普段はできたことができないまま、ミスからトライを獲られて、点差を広げられてしまったんです。もし、2年に1度でもオールブラックスと対戦していれば相手との差が測れたはずなので、W杯でも、もう少し落ち着いて試合ができたはずです。エディーさんがHCになって、昨年はオールブラックス、今年はマオリ・オールブラックスとコンスタントに強い相手と試合を組んでもらえるようになりました。それこそが世界と対等に戦う近道だと思っていたので、こんなに早く実現してうれしいですね。昨年、オールブラックスと対戦した時には確実に差は縮まっていると実感しましたから、今回のマオリ・オールブラックス戦でも今のジャパンの立ち位置がわかるかなと楽しみにしています。

二宮: 強豪と戦う中で、昨年、ウェールズ相手にあげた金星はチームにとって大きかったのではないでしょうか。あの勝利から一段とジャパンのラグビーが進歩した印象を受けます。
大野: 確かにあの試合は大きかったですね。僅差ではなく、明確な差をつけて勝てた(23−8)。ジャパンが自分たちのラグビーをして勝った点でも手応えをつかんだ1勝でした。ウェールズとは僕が初めて代表に選ばれた04年の欧州遠征で、0−98となすすべなくやられました。スタジアムには観客が6万人ほど入っていて雰囲気にも圧倒されましたね。そのウェールズに勝てたのは個人的にも感慨深かったです。

二宮: ジャパンの苦しい時期を知っているからこそ、勝利の喜びも大きいと?
大野: あの欧州遠征ではスコットランドにも100点ゲーム(8−100)で敗れて、僕たちはジャパンの評価を落としてしまいました。その前年、03年のW杯ではスコットランド、フランスと2試合連続で好ゲームをして、勝てなかったけど“ブレイブ・ブロッサム”と称えられていたんです。以来、ヨーロッパには呼ばれず、“僕たちがジャパンの価値をぶち壊した”という負い目をずっと抱いていました。それだけに一昨年、昨年とヨーロッパ遠征で結果を出せたことはうれしかったです。これを継続することで、世界のジャパンを見る目も変わっていくと思っています。

二宮: 世界と戦う上で、大野さんがこれだけは負けたくないという点は?
大野: ブレイクダウンでガツガツいくところですね。相手にしっかりプレッシャーをかけて、たとえボールが奪えなくても、時間をかけさせる。そこで味方のディフェンスを整備させて、ボールを取り返す起点をつくりたいと考えています。エディーさんのラグビーはシンプルですけど、ひとりひとりが求められている役割を100%遂行しないとゲームにならない。その自覚と責任は忘れないようにしています。
(写真:ベテランでも「ラグビーはゲームの前に格闘技。若い選手ともバチバチやりあいたい」と練習から手は抜かない)

二宮: 当面は来年のイングランド大会が目標でしょうが、その先の19年はW杯が日本で開かれます。5年後を目指す意思は?
大野: アハハハ。まずは1シーズン1シーズンですから、そこまで先は考えられません。ただ、この年齢になっても明確な衰えは感じない。昔は見えなかったものが見えてきて、選手としてはやりがいが増したように思います。代表に選ばれるかどうかはともかく、プレーヤーとして19年を迎えたい気持ちは持っていますよ。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(11月5日号)に大野選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>