(写真:B・バレットを中心に華麗な攻撃を展開。一方で激しい守備も見せるオールブラックス Photo by Warren Little-World Rugby-Handout/World Rugby via Getty Images)

 ラグビーW杯日本大会は、残すところあと4試合となった。26、27日の準決勝はファイナルと同じ会場の神奈川・日産スタジアムで行われる。26日は3連覇を狙うニュージーランド代表(オールブラックス)と16年ぶりの優勝を目指すイングランド代表が対戦。27日は今年のシックスネーションズ王者ウェールズ代表が同ザ・ラグビー・チャンピオンシップ(TRC)を制した南アフリカ代表(スプリングボクス)と対決する。

 

 王国vs .母国。日本のみならず世界中のラグビーファンも注目の一戦だ。

 

 準々決勝でオールブラックスに敗れた直後、アイルランド代表のジョー・シュミットHCは、こう言った。

「オールブラックスはこちらがいいプレーをしていても強い。息が詰まるようだった。スーパーなチーム」

 昨年のワールドラグビー年間最優秀コーチ賞を受賞した名将も舌を巻く「スーパーなチーム」。それがオールブラックスである。

 

 攻守に総合力の高いオールブラックスの象徴がFBボーデン・バレットだ。スティーブ・ハンセンHCも「チームの戦術のキーパーソン」と絶大な信頼を寄せる。パス、キック、ランどれをとっても一級品。SHアーロン・スミス、SOリッチー・モウンガらと織り成す魅惑のアタックは観衆を魅了する。今大会通算203得点、29トライはスプリングボクスに次ぐもの。イタリア戦が台風19号の影響で中止になったため、実質4試合での成績である。No.8キーラン・リードらFWにも突破力も兼ね備えた選手を擁するため、分厚い攻撃で敵陣に侵入する。

 

 FW、BKが一体となったアタックはもちろんのこと守備の堅さもオールブラックスの売りだ。大会通算36失点はイングランドと並ぶ出場チーム最少。LOサム・ホワイトロックは「オールブラックスはディフェンスに誇りを持っている」と語る。ハンセンHCも「我々にとってディフェンスは50%を占めている。精神的にはそれ以上。規律を保ち、自分たちのタックルをすることが大事だ。相手のエラーを誘う必要がある」と守備の重要性を説いていた。攻守に隙がないオールブラックス。優勝候補の大本命は揺るぎない。

 

(写真:厳しい指導で知られるジョーンズHCに鍛え上げられた選手たちが王国に挑む Photo by David Ramos-World Rugby via Getty Images)

 4年前のイングランド大会で日本代表(ジャパン)の指揮を執ったエディー・ジョーンズHCはイングランドを3大会ぶりの4強へと導いた。南アフリカを破る“ブライトンの奇蹟”を演出した策士が、オールブラックス相手にどんな手を打つのかにも注目が集まる。

 

 自身の母国であるオーストラリアを準々決勝で下した際には、「我々にとっては挑戦になるが、オールブラックスと戦うのが楽しみ」だと不敵に笑った。その後の会見などでもオールブラックスに対するコメントが目立つ。指揮官が試合前から揺さぶりを掛けている可能性は大いにある。前哨戦は既に始まっているのだ。

 

 キープレーヤーにはキャプテンのオーウェン・ファレルを挙げたい。キック、パス、ランと総合力の高いSOだが、SOジョージ・フォードの好調もあり、今大会は主にCTBでの起用だ。本調子ではないと言われながらも試合に起用されるのは、強烈なタックルとキャプテンシーからだろう。闘志剥き出しのプレーに闘将という呼び名がふさわしい。準決勝でもCTBで起用される。オールブラックスのアタックに母国の闘将が立ちふさがる。

 

(写真:松島らと並ぶ5トライを挙げているマピンピ<右>のトライ王争いにも注目だ Photo by Warren Little-World Rugby via Getty Images)

 もうひとつのヤマは北半球の欧州王者・ウェールズと南半球のTRC覇者・スプリングボクスがぶつかり合う。粘り強い守備が持ち味のウェールズと、高さと強さを生かしたスプリングボクス。どちらも堅い試合運びを得意とする。今大会最多の得点数、トライ数を誇るスプリングボクスだが、この試合はロースコアの展開が予想される。

 

 共通点は優れたキッカーがいる点だ。ウェールズはダン・ビガー、スプリングボクスはハンドレ・ポラード。プレースキックだけではなくDGも狙えるSOである。互いに“飛び道具”を有するため、迂闊に敵陣でペナルティーを犯せば点差を広げられてしまう。チームの規律も勝敗のカギを握ることなるだろう。

 

 キックという点ではこの男も忘れてはいけない。ブロンドの長髪をなびかせ攻撃のタクトを振るうSHフェフ・デクラークだ。彼がボックスキックを多用し、プレッシャーをかける。テンポの速いパス回し、自らも切り込む俊敏性も持ち合わせている。鋭い出足からのタックル、守備面での貢献も光る。ウェールズのガレス・デービスは突破力のあるSH。彼への厳しいチェックも任されているはずだ。日本代表(ジャパン)を苦しめた背番号9がレッドドラゴン(ウェールズ代表の愛称)退治に臨む。

 

(写真:粘り強い守備が持ち味のウェールズ<赤>。強力な相手のセットプレーに耐え凌ぎたい Photo by Francois Nell-World Rugby via Getty Images)

 準決勝に進んだチームの中で唯一W杯での優勝経験がないウェールズは、2011年イングランド大会以来3度目のベスト4進出だ。最高成績の3位を超え、初の決勝進出を果たしたい。キャプテンのLOアルウィン・ジョーンズらFW陣がスプリングボクスのセットプレーをどれだけ耐えられるかにかかっている。

 

 またトライゲッターのWTBジョシュ・アダムズはジャパンのWTB松島幸太朗、スプリングボクスのWTBマカゾレ・マピンピと並ぶ5トライを挙げている。レッドドラゴンの翼がトライ王争いでマピンピらを突き放すことができれば、初の決勝進出も見えてくる。

 

 1987年に第1回を迎えたW杯は過去8大会中、北半球のチームが優勝したのはイングランドの1度のみだ。後はニュージーランド3度、南アフリカとオーストラリアの2度と南半球が占めている。果たして週末の横浜決戦は北半球が意地を見せるか、南半球がそれをはねのけるか。

 

(文/杉浦泰介)