(写真:前半は空中戦、肉弾戦でリードしたイングランド Photo by Richard Heathcote-World Rugby via Getty Images)

 26日、ラグビーW杯日本大会準決勝が神奈川・日産スタジアムで行われ、イングランド代表がニュージーランド代表(オールブラックス)を19-7で破った。前半2分に先制したイングランドは、激しいディフェンスでオールブラックスの出足を止めた。PGで着実に加点し、オールブラックスの追撃をかわした。27日の準決勝(ウェールズ代表vs.南アフリカ代表)の勝者と4大会ぶり2度目の優勝をかけ、11月2日に対戦する。

 

 現世界ランキング1位と2位、勝者がランキングトップに立つ頂上決戦は2位のイングランドに軍配が上がった。イングランドの世界ランキング1位は2004年6月以来。2連覇中の王者を撃破し、16年ぶりのW杯制覇へ王手をかけた。一方のオールブラックスは王座陥落。11年イングランド大会から引き分けを挟み18連勝中だったW杯連勝記録もストップした。

 

 両チームの過去の対戦成績は33勝7敗1分とオールブラックスが大きく勝ち越していた。イングランドにとっては2012年に勝って以降、6連敗中だった。エディー・ジョーンズHC体制となった直近の対戦では昨年11月に15-16で惜敗していた。

 

「(組み合わせ決定後から)2年半準備をしてきた」

 エディー・ジョーンズHCが試合前に語っていたように、オールブラックス相手に仕掛けたのはイングランドだった。まずはハカをV字の陣形で迎える。時折笑みを見せていたキャプテンのCTBオーウェン・ファレルは「私たちはただ立っているだけで受けたくはなかった」とその理由を明かした。さらにFLサム・アンダーヒルが「オールブラックスと戦う準備ができてるぞ、と示したかった」と補足する。

 

 そしてキックオフはSOジョージ・フォードから始めると見せかけ、直前でファレルに渡した。それらを含め、出だしに仕掛けたことをジョーンズHCは「オールブラックスはラグビーの神様のようなチーム。できるだけ勢いを殺そうとした」と説明した。それが相手にどれだけの影響を与えたかは分からないが、違いを生み出したイングランドの“奇襲”は功を奏したと言っていいだろう。

 

(写真:リード<左>とファレル、両キャプテンによるコイントス Photo by David Ramos-World Rugby via Getty Images)

 なぜなら機先を制したのはイングランドだったからだ。2分、フォードとファレルの展開から敵陣に攻め込む。最後はラックからボールを拾ったCTBマヌ・ツイランギがインゴールに飛び込んだ。コンバージョンキックをファレルが成功し、7点のリードを奪った。

 

 イングランドはボール争奪戦をも制した。特にブレイクダウン(球際の攻防戦)で激しいプレッシャーをかけた。オールブラックスの攻撃を分断し、リズムに乗せなかった。前半終了間際、激しいプレッシャーからオールブラックスのペナルティーを誘う。ゴールまで40m以上あるPGをフォードがきっちり決め、10-0で試合を折り返した。

 

 前半のスタッツを振り返ると、ボール支配率はイングランドが62%と上回り、7割近くを敵陣でプレーした。マイボールラインアウトは90%と安定し、オールブラックスボールのラインアウトも2つ奪った。セットプレーで後手に回ったオールブラックス。FLに本来LOの身長197cmのスコット・バレットを起用したが、実らなかった。

 

 後半もイングランドがペースを握っているように映った。6分にSHベン・ヤングスがモールから抜け出してトライを奪った。だがTMO(ビデオ判定)の結果、モール中のペナルティーにより、取り消しとなった。この日、2度目のTMOでのトライ取り消しになったものの、9分にはフォードがPGを決め、13点差に突き放した。

 

 オールブラックスは選手交代などで流れを変えようとした。17分に自陣でのイングランドボールのラインアウトをFLアーディー・サベアがスティールし、そのままインゴール右に飛び込んだ。SOリッチー・モウンガのコンバージョンキックが決まり、6点差に迫る。

 

(写真:涙に暮れるJ・バレット。3連覇の道は途絶えた Photo by Francois Nel-World Rugby via Getty Images)

 ジョーンズHCにとって重要視するのは試合の終わらせ方だ。「最後の20分間が重要。フィニッシュの15人から決めた」。イングランドは後半33分までにリザーブ8人全員をピッチに送り込み、試合を締めにかかった。22分、29分にはフォードのPGで加点。その後も激しいディフェンスでオールブラックスの反撃をせき止めた。

 

 マロ・イトジェ、コートニー・ローズの両LOは空中戦のみならず地上戦でも力を発揮。何度もターンオーバーを繰り返した。勇敢な騎士たちの戦いぶりにイングランドファンの野太い歌声が響き渡る。攻守で身体を張っていたアンダーヒルも堅い守りに自信を見せる。

「ディフェンスがチームの状態を示す指標となる。オールブラックスは攻撃が強い。いいディフェンスをしないといけないと話していた。今日はそれが80分間できていた」

 

 7年ぶりにイングランドに敗れたオールブラックスのスティーブ・ハンセンHCは、大会後の退任を明らかにしている。3連覇という花道は途絶えたが、「イングランドが素晴らしいチームだった。何の後悔もない。今日は自分たちよりいいチームに負けた。痛みはあるが恥ずかしくはない」と選手たちと相手チームを称えた。

 

「来週はもっといい試合ができる」

 ジョーンズHCは不敵に笑った。王者を倒し、視線は3大会ぶりの決勝へ向けられている。「1週間準備をする」。策士はHCとして初のウェブ・エリスカップ獲得に王手をかけた。

 

(文/杉浦泰介)