「男女合わせたら40%近くいくんじゃないの」

 

 

 9月15日に都内で行なわれた東京五輪のマラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の関東地区平均視聴率(ビデオリサーチ調べ)は男子(TBS系)が16.4%、女子(NHK)が13.5%だった。2つ合わせて29.9%。

 

 冒頭のコメントは瀬古利彦・マラソン強化戦略プロジェクトリーダーが口にしたものだが、残念ながら数字は期待された程には伸びなかった。

 

 近年、マラソンは男女ともに低調である。男子は1992年バルセロナ五輪の森下広一(銀)、女子は2004年アテネ五輪の野口みずき(金)を最後にメダルから遠ざかっている。「マラソン王国」と呼ばれたのも今は昔だ。

 

 前回のリオデジャネイロ五輪は男子は佐々木悟の16位、女子は福士加代子の14位が最高だった。

 

 それを考えれば、男女合わせて30%近い数字は「大健闘」(陸連関係者)と言っていいのかもしれない。

 

 さて、このMGCに対し、お茶の間から最も多く寄せられた疑問は「なぜ一発選考ではないのか?」というものだったという。

 

 東京五輪の代表枠は男女ともに3人。MGCでは上位2人が確定し、残りの1枠は12月から3月にかけて行われる選考レース(男子=福岡国際、東京、びわ湖毎日。女子=さいたま国際、大阪国際、名古屋ウィメンズ)の結果に持ち越された。

 

 もし、MGCが一発選考で、上位3人がすんなり代表に選ばれていたら、冬から春にかけてのレースは意味をなさなくなる。運営に深く関わる新聞社やテレビ局の“無言の意向”を陸連が忖度したと言えば言い過ぎか。

 

 もっとも選考レースには高いハードルが用意されている。男子は2時間5分49秒、女子は2時間22分22秒という陸連が設けた設定タイムを上回らなければならないのだ。

 

 男子の設定タイムは日本記録を1秒上回るもの。日本記録保持者はMGCで3位になった大迫傑。女子は松田瑞生がマークした日本歴代9位の記録を1秒上回る。これを破る者が現れなければ、MGCの3位選手、すなわち男子は大迫、女子は小原怜に五輪出場切符が自動的に手渡される。

 

 大迫と小原には「果報は寝て待て」という作戦もあるが、もし3つの選考レースで誰かが設定タイムを破った場合、「戦わずして敗れる」ということになる。

 

 出るのか出ないのか。出るとしたら、どのレースか。もう既に水面下では心理戦が始まっている。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2019年10月18日号に掲載されたものです>

 


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