(写真:勝利の雄叫びをあげるキャプテンのコリシ。 Photo by Richard Heathcote-World Rugby via Getty Images)

 27日、ラグビーW杯日本大会準決勝が神奈川・日産スタジアムで行われ、南アフリカ代表(スプリングボクス)がウェールズ代表を19-16で下した。スプリングボクスは3大会ぶりの決勝進出。11月2日に日産スタジアムでイングランド代表と優勝をかけた一戦に臨む。ウェールズは11月1日に東京・味の素スタジアムで3位決定戦をニュージーランド代表(オールブラックス)と行う。

 

 北と南の王者対決は、今年南半球4カ国対抗のザ・ラグビー・チャンピオンシップ優勝のスプリングボクスが制した。

 

 堅実なラグビーを展開する両チームだが、過去の対戦成績はスプリングボクスの28勝6敗1分けと大きく差がついている。その一方で近年好調のウェールズが4連勝中である。ウェールズは欧州6カ国対抗のシックスネーションズをグランドスラム(全勝優勝)で制し、今年8月に世界ランキング1位に立った昇り龍だ。

 

 スプリングボクスのラッシー・エラスマスHCは試合後、こう説明した。

「ウェールズは相手を絞め殺すようなチーム。今日もそうなると思っていた。私たちは相手と合わせないといけない。観ていて興奮するような試合ではなかったかもしれないが、選手たちは照準を定めてゲームプランを実行した」

 それが両チームによるキッキングゲームに繋がった。

 

 スプリングボクスはハンドレ・ポラード、ウェールズはダン・ビガー。優れたプレースキッカーを擁する両チームの“蹴り合い”となった。前半15分にポラードがPGを決め、スプリングボクスが3点を先制した。するとウェールズも3分後にPGで追いついた。インプレー中もボックスキック、パントキック、キックパスを多用した。

 

 スプリングボクスの武器はキックだけにあらず。強力FW陣のフィジカルバトルでペナルティーを獲得した。19分はスクラム、35分にはモールで相手のペナルティーを誘った。ここで得たPGをポラードはいずれも成功させ、リードを6点に広げた。

 

 ウェールズの背番号10も前半終了間際にPGを決め、3点差で前半を終えた。大会公式HPのスタッツによると前半は両チーム合わせ、インプレー中に40本のキックを蹴った。蹴り合いはスプリングボクスが一歩リード。ウェールズが不運だったのは前半だけで2人がケガで交代を強いられたことか。

 

 キッキングゲームは後半も継続。6分にビガーがこの日3本目のPGでウェールズが再び追いついた。粘るウェールズをスプリングボクスは力強く振り払おうとした。7分にフロントロー(PR2人とHO)を一挙に交代。最前列をフレッシュにし、フィジカルバトルに備えた。

 

 それが生きたのが18分のトライだ。15分、左サイドで獲得したラインアウトでモールを組み、前進した。近場近場で繋ぎ、身体をぶつけ合う。徐々にインゴールへ迫ると、左サイドでボールを持ったCTBダミアン・デアレンデがハンドオフで2人を振り切り、トライを挙げた。ポラードのコンバージョンキックも決まり、7点のリードを得た。

 

(写真:キャプテンのA・ジョーンズを中心に粘り強い守備をこの日も披露した Photo by Richard Heathcote-World Rugby via Getty Images)

 またしても追いかける展開となったウェールズは粘りを見せる。ラインアウトモールからインゴールへにじり寄り、敵陣深くでプレーを継続した。ゴール前でペナルティーを獲得してもスクラムを選択。フィジカルバトルで勝負を挑み、そこからトライに繋げた。25分、途中出場のSHトモス・ウィリアムズが左に展開し、最後は大外のWTBジョシュ・アダムズが快速を生かし、フィニッシュ。FBリー・ハーフペニーがコンバージョンキックに成功した。

 

 3度同点に追いついたウェールズは33分に途中出場のSOリース・パッチェルがDGを狙ったが、ゴールに届かなかった。35分にはスプリングボクスのポラードがDGを狙ったが、わずかにゴールバーの下。しかし、ポラードはアドバンテージ中にDG選択。改めてPGでゴールを狙い、着実に仕留めた。

 

 両軍合わせて80本以上のキックを蹴り合った陣取り合戦。フィジカルバトルを制したのはスプリングボクスだった。再三再四ボックスキックやパントキックを繰り出したSHファレ・デクラークが絶妙なタッチキックを披露した。さらに相手ボールのラインアウトでミスを誘い、マイボールのスクラムを獲得。そのスクラムでウェールズがペナルティーを犯し、勝敗が決した。

 

 デクラークは「気持ちの入った試合だった」と振り返る。自らも闘志剥き出しのプレーでチームを牽引。また強みであるFWをうまく操った。「ウェールズはフィジカルで勝負してきた。それに対応しようとFWが良いプレーをした。今日はFWがよくやったことに尽きる」。No.8ドゥエイン・フェルミューレンは「守備でうまくいったのを誇りに思っている。南アフリカはディフェンスのチームで助け合うチーム」と胸を張った。

 

 スプリングボクスはフランスを中心に開催された2007年大会以来の決勝進出だ。対戦相手は11年大会で煮え湯を飲まされたエディー・ジョーンズHC率いるイングランドだ。「とにかく堂々と戦いたい」とエラスマスHC。オールブラックスと並ぶ3度目の戴冠まであとひとつとした。

 

(文/杉浦泰介)