(写真:新横浜駅の出口。スタジアムへ向かう観客を誘っている。10月30日以降は決勝仕様にモデルチェンジ)

 約1カ月半の熱狂が幕を閉じる。11月1日の3位決定戦、2日の決勝戦でラグビーW杯日本大会が全日程を終了する。神奈川・日産スタジアムで行われる決勝は、世界ランキング1位のイングランド代表と同2位の南アフリカ代表(スプリングボクス)が対戦する。イングランドが勝てば地元開催の2003年大会以来、2度目の優勝。スプリングボクスが勝利すれば3大会ぶり3度目の戴冠となる。

 

 イングランドvs.南アフリカは07年大会の決勝と同一カードだ。両チームの対戦成績はスプリングボクスの25勝15敗2分け。W杯に限っても3勝1敗と分がある。12年前の決勝では、両チームノートライの末、スプリングボクスが15-6で2度目のウェブ・エリスカップを手にしている。

 

 共通点は多い。イングランドはエディー・ジョーンズ、スプリングボクスはラッシー・エラスラマスという現在のHC就任により復活を遂げた点だ。2人はワールドラグビー(WR)が選ぶコーチ・オブ・ザ・イヤーの候補に名を連ねている。

 

(写真:決勝に向けて「エキサイティングな気持ち」と試合が待ち遠しい様子のエディーHC。指揮官として初のW杯制覇に挑む)

 イングランドは15年イングランド大会で1次リーグ敗退の憂き目に遭った。ホストカントリーが決勝進出できなかったのはW杯史上初という屈辱である。大会後、日本代表(ジャパン)を率いたジョーンズHCが着任。最初のミーティングで「世界最高のチームになろう」と掲げ、そこからラグビーの母国は上昇気流に乗った。16年から欧州6カ国対抗シックスネーションズは2連覇。今大会は準決勝でニュージーランド代表(オールブラックス)を倒したことにより、15年ぶりの世界ランキング1位に立った。

 

 スプリングボクスは15年イングランド大会を3位で終えたものの、その後は低迷していた。W杯2度の優勝を誇る強豪は17年、オールブラックスに0-57で大敗を喫するなど、世界ランキングも7位まで下降していった。エラスマスHCは「ポテンシャルは持っていた」と18年の就任当時を振り返る。その言葉通り、彼の就任後は徐々に上向きとなった。「選手たちのプロ意識。評価していい」(エラスマスHC)今年の南半球4カ国対抗ザ・ラグビー・チャンピオンシップを制するなど結果を残し、準決勝でウェールズを破ると世界ランキング2位まで押し上げた。

 

(写真:準決勝同様に決勝でも両チームの武器である激しい肉弾戦が予想される Photo by David Ramos-World Rugby via Getty Images)

 もう1点は守備の堅さだ。ここまでスプリングボクスは6試合、イングランドは実質5試合(1試合は中止による引き分け扱い)戦ってきたが、前者が総失点55で後者は43である。1試合平均では9.2点と8.6点。被トライはいずれも4と1試合平均は1トライを切る。

 

 スプリングボクスのNo.8ドゥエイン・フェルミューレンは「南アフリカはディフェンスのチームで、それぞれが助け合う」とチームカラーは守備だと言う。イングランドのFLサム・アンダーヒルも「ディフェンスがチームの状態を示す指標となる」と、守りの重要性を説いていた。

 

 さらに両チームはセットプレーの強さも光る。スプリングボクスは準々決勝までマイボールラインアウトの成功率が100%。準決勝のウェールズ戦で1度スティールを許したものの、身長2mを超える選手を複数擁し、空中戦には絶対的な自信を持っている。

 

(写真:イングランドはメイ<中央>らがスタメン入り。準決勝と同じメンバーで臨む Photo by Richard Heathcote-World Rugby via Getty Images)

 対するイングランドもマロ・イトジェ、コートニー・ローズという両LOの活躍が際立つ。15年イングランド大会で“ブライトンの奇蹟”に貢献したスティーブ・ボーズウィックコーチの存在も大きい。地上戦となるスクラムはもちろんのこと、空中戦の勝敗がカギを握りそうだ。

 

 ガチガチの肉弾戦で拮抗した展開となれば、優れたキッカーの有無が勝敗を分ける。イングランドにはSOジョージ・フォード、CTBオーウェン・ファレルという二枚看板がいる。

 

 2人はダブル司令塔として攻撃を組み立てる役割も担う。準決勝はフォードがPG、ファレルがコンバージョンキックを担当し、正確なキックで得点を重ねた。決勝もこのコンビがスタメン起用。得点ランキング上位につける2人の出来がイングランドの浮沈を左右するだろう。

 

(写真:準決勝を欠場したコルビも先発復帰。“ポケット・ロケット”の復活は大きなプラス Photo by Francois Nell-World Rugby via Getty Images)

 スプリングボクスはSOハンドレ・ポラードの右足とSHファフ・デクラークの左足にかかっている。ポラードはプレースキックを担当。準決勝でウェールズとの"蹴り合い”を制したのは彼の正確なキックに依るものだ。47得点はファレル、フォードを上回るランキング2位。1位のジャパンSO田村優の51得点も射程圏だ。

 

 加えてインプレー中にキックを多用するのがスプリングボクスの戦術である。これまでポラードとデクラークのキックから猛烈なプレッシャーで相手を苦しめてきた。その標的となるであろうイングランドのWTBアンソニー・ワトソンも「ポラードとデクラークは速くてスナイパー。ディフェンスが重要となる。彼らの脅威を無にしないといけない」と警戒する。

 

 スプリングボクスは準々決勝、準決勝に続きリザーブにFW6人を登録。フィジカル勝負を仕掛けることが予想される。ジョーンズHCは真っ向勝負で挑む構えだ。

「4年間、この試合のために準備してきた。何も恐れずにプレーしたい。南アフリカは簡単ではない。フィジカルで勝負してくる。それと戦い、圧倒していく」

 

 パワーvs.パワー。白熱の肉弾戦が横浜で見られるだろう。骨と骨がぶつかり合う音がスタジアムに響き渡る。彼らが奏でるド迫力のメロディーに、ラグビーの魅力が詰まっている。果たして勝利の凱歌を上げ、トロフィーを天高く掲げるのは、どちらになるのか――。

 

(文・プレー以外の写真/杉浦泰介)