今秋のプロ野球ドラフト会議は高校生の大船渡高(岩手)の佐々木朗希投手、星稜高(石川)の奥川恭伸投手が注目を集めました。結果は佐々木投手が北海道日本ハム、東北楽天、埼玉西武、千葉ロッテと4球団が競合し、ロッテ・井口資仁監督が交渉権を引き当てました。奥川投手は阪神、巨人、東京ヤクルトの3球団が競合し、ヤクルトの高津臣吾新監督が交渉権を獲得しました。


 高津監督は当たりくじを引いた後、喜びをこう語りました。
「新監督としての大仕事でした。チームとしてピッチャーを強化したいと言っていた手前、絶対に当てなきゃいけないと思っていた。奥川君がスワローズのユニホームを着ているところをもう想像している。一緒に頑張りましょう」

 

 奥川投手も高津監督のラブコールにこう答えています。
「東京ヤクルトというチームはファンの一体になっていて温かみのある印象です。早くチームに溶け込み活躍したい」

 

 高校野球史上最速163キロを投げた佐々木投手は、大船渡市内の公民館で会見を行い、こう抱負を述べました。
「どこの球団になるのかと思っていたので、決まってホッとしています。ロッテの印象は応援がすごいチーム。井口(資仁)監督についてはメジャーでも活躍された方という印象があります。プロに入っての目標は、日本一のピッチャーになってチームを優勝に導きたい」

 

 井口監督は育成方針も含めて、こう語りました。
「映像を見て、けた外れにすごい投手だなと感じたし、日本で一番、そして世界に羽ばたける選手だと思っています。是非一緒に早くプレーがしたい。球団の中でもしっかりと育成プランがありますので、それに沿ってチーム全体でバックアップしながら育てていきたい」

 

 ドラフト前後に会った多くの球界OBは口を揃え、「発展途上で163キロを出すのだから佐々木投手の潜在能力は相当。自分なら当然、佐々木を1位指名する。その分、とった後、育てるプレッシャーはハンパじゃないでしょうけど」と語っています。

 

 佐々木投手や奥川投手に限らず高卒ルーキー、特にドラフト1位指名される選手は「金の卵」と呼ばれます。きちんと羽化させて、大きく育てることが球団には求められるのは当然です。日本ハムの名スカウトとして鳴らじ、編成部長も務めた三澤今朝治さん(現BCリーグ信濃会長)は、「ルーキー、特に高卒選手にはスカウトを含めて球団に発掘した責任と育成する責任があります」と以前、語っていました。

 

 三澤さんは東映/日拓/日本ハムで1963年から12年間、現役として過ごし、引退後、スカウトになりました。スカウトになったばかりの頃のこんな逸話を披露してくれました。

 

「現役を引退し、まだ新人スカウトだった頃、"この子、素質があるぞ"と思って指名した高卒の選手が、全然、試合に出てこない。見に行ったら高校時代とまったく違う感じになっていた。何があったのか、とコーチに聞いたらキャンプでフォームを変えさせた、と。こっちも駆け出しですから、強くは言えません。でも、その後も何度もそういうことがあった。そうなると指名したスカウトにも責任が出てくる。交渉にあたったのはこちらですから。とって終わりじゃない。それからスカウト、編成の担当者と現場との間で話し合いの場を持つことにしたんです」

 

 こうしたことがきっかけで、日本ハムにおいては「高卒選手は最初のキャンプでフォームをいじらない」という暗黙の約束事が成立したというのです。

 

 三澤さんは続けます。
「高卒ルーキーを最初からなぜイジっちゃいけないか? それは野球から離れていた期間があるからですよ。入団して最初のキャンプといえば、高卒ルーキーにとっては半年ぶりの本格的な練習になるんです。前年の夏に野球部を引退し、そこから多少のトレーニングをしていたとしても、体はなまったままです。毎日、部活で練習していたときと同じようにはいきません。野球勘も鈍っているし、調子が悪くて当たり前なんですよ。その"半年のブランク"を全く頭に入れずに、"ああしろ、こうしろ"なんて言うと将来の芽を摘んでしまうことになりかねません」

 

 ルーキーのプロ野球生活は来年1月の新人合同自主トレから始まります。佐々木投手、奥川投手だけでなく多くの高卒ルーキーがじっくりと育てられ、プロ野球で大きく羽ばたいてもらいたいものです。

 

(文/SC編集部・西崎)


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