21日、IBSAブラインドサッカー世界選手権準々決勝が行なわれ、日本はアジアの強豪、中国と対戦。前半から果敢に攻める中国に対し、日本は鉄壁の守りで無失点に抑えるも、自分たちもゴールを奪うことができず0−0のままPK戦へ。そのPK戦で日本は1−2で敗れ、目標としていたベスト4進出にはあと一歩のところで届かなかった。

 堅固の守備で無失点も得点奪えず(代々木)
日本代表 0−0 中国代表
(PK 1−
「無失点でPK戦」――。これは日本にとっては想定内の展開だった。
「昨日のミーティングの段階で、PK戦まで引っ張るかもしれない、という話はしていた」と魚住監督。しかし、そのPK戦で日本は得点を伸ばすことができず、ベスト4進出を目の前にして涙をのんだ。

 この試合、魚住監督がスターティングメンバーに起用したのは、DF田中章仁、MF加藤健人、MF川村怜、そしてDF佐々木ロベルト泉。MF黒田智成やFW落合啓士ではなく、ロベルトを起用したところに、守備を重視した布陣をしき、まずは中国の攻撃を無失点に抑えることから自分たちのリズムをつくり出そうという戦略がはっきりと映し出されていた。

 引き気味に守る日本に対し、中国は巧みなドリブルで右へ左へと日本のディフェンスラインを動かしながら、徐々にゴールへと近づいてくる。しかし、日本の守備はGK佐藤大介からの指示に的確に動き、シュートコースを開けさせない。中国は何度もシュートを放つも、決定的なチャンスを生み出すことができない。コーナーキック(CK)も多く、一見、中国が押しているように見えるものの、日本の守備の連携がうまくいっていることは明らかだった。

 一方、中国の守備はトップの選手ががセンターライン付近の高い位置からプレッシャーをかけてきた。そのため、日本はなかなか敵陣に乗り込むことができない。ルーズボールを奪われては、守備の時間が長く続くというパターンが続いた。

 流れが変わったのは、前半13分。中国が選手交代をすると同時に、日本も川村に代えて黒田を投入した。実はここが試合前から魚住監督が考えていた、日本にとっては一番の勝負どころだった。実際、この黒田の投入によって、それまで守りの時間が長かった日本は、少しずつ攻撃の時間を増やしていった。

 前半16分、日本はこの試合初めてコーナーキックを得た。このチャンスに黒田が巧みなボールコントロールで中国の4枚の壁を抜き、ゴール前でシュート。しかし、これは足にミートせず、空振りとなった。さらに前半21分には、黒田がシュートを狙える位置でファウルを受け、フリーキックを得た。黒田は鋭いシュートを放つも、惜しくもボール1個分外れ、ゴールネットを揺らすことができなかった。

 終盤には中国が何度もコーナーキックを得るも、日本は体を張ってゴールを死守。結局、ともに無得点のまま、前半を終えた。

 後半に入ると、中国は攻撃にかける人数を前半の1、2人から、2、3人へと増やし、得点を取りにきた。しかし、それでもゴールを奪うことができない。一方の日本はカウンターで手薄となった中国のゴールを狙いにいく。後半11分には自陣でボールを奪った黒田がドリブルでゴール前へ運び、シュートを放った。その2分後にも黒田がカウンターで攻め上がると、ゴールのほぼ正面で中国のファウルを受ける。いい位置でフリーキックを得るも、黒田のシュートは中国の壁に阻まれた。

 後半18分には、黒田に代わってキャプテンの落合が投入される。落合は積極的に攻撃をしかけようとするも、なかなかシュートまでもっていくことができない。0−0のまま、刻々と時間は進んでいった。

 残り時間が1分を切ったところで、中国はフィールドプレーヤー4人全員が前線に上がり、得点を狙いにきた。それでも、日本は最後まで集中を切らすことなく守り抜き、0−0のまま、勝負の行方はPK戦へともちこまれた。

「ここまでよく頑張った。最後は気持ちだぞ!」。魚住監督がそう言って選手たちに発破をかけると、チーム全員が円陣を組み、「ニッポン! ニッポン! 絶対勝つぞ!」と気合いを入れ、PK戦に臨んだ。

 まずは中国の1人目のキックを、後半の途中で交代したGK安部尚哉が左足で止め、スタンドからは大歓声が沸き起こった。しかし、日本の1人目に抜擢された落合が失敗。すると、中国の2人目が成功。日本はロベルトが失敗に終わり、中国が1−0とリードを奪った。そして3人目。中国に決められれば終わりというプレッシャーの中、安倍が勢いよく伸ばした左手で止める好セーブを見せ、凌ぎ切る。そして、日本は川村のキックが相手GKの右手をはね返し、ゴール。これで1−1のタイとなり、ここからはサドンデスとなる。中国の4人目が成功し、MF佐々木康裕にすべての視線が注がれた。詰めかけたファンが祈るように見つめる中、佐々木は右足でキック。ボールは相手GKのほぼ真正面に飛び、弾き返された。この瞬間、日本のベスト4への道が閉ざされた。

 負けたとはいえ、初の決勝トーナメント進出を経て、つかんだ手応えもある。グループリーグをあわせて4試合、日本の失点はフランス戦での1点のみ。それもセットプレーからのゴールで、世界の強豪を相手に、未だ流れからの失点はない。アジアを代表する強豪の中国相手にも、10月のアジアパラに続いてこの試合も無失点に抑えてみせた。「ディフェンス面では、どんな強豪相手にも通用する」と魚住監督も自信を露わにした。

 一方で、グループリーグの第2戦以降は、日本の得点がペナルティーキックからの1点のみに抑えられていることも事実だ。そのことについて魚住監督は「サッカーは点を取らなければ勝てない。もう1歩、ディフェンスラインを上げて、攻撃とディフェンスを混ぜ合わせた展開にもちこみ、攻撃にも厚みをもたせたい」と語った。

 日本の戦いはまだ終わってはいない。明日には準々決勝で敗れたチーム同士て争う5位トーナメントが控えている。試合後、落合は自身に言い聞かせるようにこう言った。
「目標のベスト4には届かず、まだまだ世界の壁は厚いなと実感している。負けたことは悔しいが、この後、5位になるか、8位になるかで、リオへの道は変わってくる」
果たして日本は、しっかりと気持ちを切り替え、今大会の成果を見せることができるか。魚住ジャパンの戦いはまだ続く。

(文・写真/斎藤寿子)