ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカのクラブチームによる世界最高峰のリーグ「スーパーラグビー」を主催するSANZARは、同リーグへの日本チームの参戦について、日本ラグビー協会と最終的な合意に達した。契約は2016年から20年シーズンまでの5年間。21日に都内の協会内で開かれた会見には、12年から日本人で初めてスーパーリーグでプレーしているSH田中史朗も同席し、「これからが日本のラグビーのスタート。苦しい戦いになると思うが、これを乗り越えて世界と対等に戦えるチームをつくっていきたい」と抱負を語った。
(写真:「世界のラグビー界にイノベーションを起こす」と意気込む協会の矢部専務理事(右)と田中)
 2019年のW杯日本開催へ代表を強化し、ラグビー熱を高める上では大きな決定だ。
 スーパーラグビーは現在、ラグビー強豪3カ国の15クラブでリーグ戦を展開している。徐々にエクスパンションを繰り返して参加クラブを増やしており、今回は2016年から18クラブにリーグを拡大することに伴い、日本が8月に参加立候補を行っていた。その他には南アフリカとアルゼンチンのチームが新たに参戦する。

 北半球では初めてで唯一の参加となる日本チームは、協会の矢部達三専務理事が「ジャパンドリームチーム」と呼ぶメンバー編成になる見込みだ。日本代表はもとより、代表候補やトップリーグでプレーする外国人選手も交えてチームをつくる。日本では田中を皮切りに、HO堀江翔太、CTBマレ・サウがスーパーラグビーに参戦し、それがジャパンのレベルアップにもつながってきた。協会としてはチームを代表と連動させ、スーパーラグビー参戦をジャパンの強化につなげたい意向だ。

 スーパーラグビーのハイランダーズで2シーズン戦った田中は日本のレベルを「正直に言うと15チームの中では下の方」と明かす。しかし、「力では世界が上だが、速いテンポは日本人の良さ。速さで対抗していけばいい」と強豪に立ち向かう上のでポイントを指摘した。

 スーパーラグビーは3月からレギュラーシーズン15試合を戦う。ホーム開催は半分の7〜8試合になり、日本はうち3試合をシンガポールで実施する。残りの4〜5試合を東京・秩父宮ラグビー場を中心に国内で行う予定だ。世界トップクラスのゲームを日本で定期的に開くことは、5年後のW杯へラグビー人気のアップに寄与する。

 とはいえ、実際に参戦となると、クリアしなければならない問題は山積だ。ひとつは日程の問題。来年はW杯イングランド大会開催のため、トップリーグの開幕が10月末にずれこむことが予想される。日本選手権も含めると、ほぼ休む間もなく、3月のスーパーリーグ開幕に突入する流れになる。スーパーリーグのレギュラーシーズンは7月までで、参戦した選手たちはすぐに所属チームに戻って、トップリーグ開幕に向けた準備を余儀なくされる。

 矢部専務理事はチームスコッドの人数を40人以上と多くした上で、試合によってメンバーをローテーションするプランを披露したが、参加選手の負担が大きくなることは間違いない。「トップリーグも含めて今のフォーマットを変更しないといけない」と語ったように、トップリーグや日本選手権の方式、試合数を見直さなくてはならないだろう。

 加えて代表やセブンズの活動と、どう折り合いをつけるかも難問だ。スーパーリーグのシーズンは代表の春の活動期間と重複するため、どのようにメンバーを振り分け、強化体制をつくるかが問われる。また、16年はリオデジャネイロ五輪が開催され、セブンズが正式競技に採用される。日本は6年後の東京五輪でメダル獲得を狙っており、こちらも軽視できない。

 もうひとつはチーム運営の問題だ。日本が今回、振り分けられるのはスーパーリーグの南アフリカグループ。日本の他にはアルゼンチンのチームが1つ入る以外は、すべて南アフリカのチームだ。つまり、アウェー戦のため、南アフリカへ何度も渡航する必要がある。

 また、協会では「相手チームも日本に来るのはコスト、コンディション面でもデメリットになる」(矢部理事)との課題を解消するため、立候補に際し、3試合をシンガポールで行うことを申し出ていた。相手チームの負担は軽減される半面、日本にとっては中間地に渡って試合を行うマイナス面が生じる。

 協会では1シーズンのチーム運営費を6〜7億円と試算しており、スポンサーや入場料収入で賄う計算だ。移動の費用はもちろんのこと、参加選手への報酬やケガの補償など条件面も整備が求められ、しっかりとした財政基盤をつくることが重要になる。田中は「日本の場合、寄せ集めのチームになり、ホテル住まいになる可能性が高い。家族に来てもらって一緒に過ごす時間をつくったりしないと理解を得られない」と参加選手へのケアも大切との認識を示した。

「2019年にはグッドチャンス。それが終わってからも日本ラグビーを世界水準にしていくことは夢。ずっと参戦を続けていきたい」
 矢部理事は日本がスーパーラグビーの常連になることを望んでいる。最高峰リーグへの参戦は日本のラグビー界を大転換させるプロジェクトになる。