(写真:“レインボーネーション”と呼ばれる多民族国家の南アフリカ。その象徴であるスプリングボクスが大会を制覇 Photo by Clive Rose-World Rugby via Getty Images)

 ラグビーW杯日本大会決勝が2日、神奈川・日産スタジアムで行われ、南アフリカ代表(スプリングボクス)がイングランド代表を32-12で破り、3大会ぶり3度目の優勝を果たした。大会3度の戴冠はニュージーランド代表(オールブラックス)の持つ最多記録に並んだ。序盤からスクラムで優位に立ったスプリングボクスは、PGで得点を重ねた。イングランドもPGで追いすがったが、スプリングボクスが後半26分と34分にトライを奪い、突き放した。

 

 2007年大会以来のイングランドとの頂上決戦、スプリングボクスが再び制した。他民族国家の象徴、チーム初の黒人キャプテンとなったFLシヤ・コリシが3度目のウェブ・エリスカップを天に掲げた。

 

 スプリングボクスのスタメンにWTBチェスリン・コルビが復帰。“ポケット・ロケット”の異名を持つ男が戦場に帰ってきたのは好材料だ。また“ボム・スコッド”と呼ばれるリザーブは準々決勝、準決勝に続き8人中FW6人を登録した。

 

 イングランドはオールブラックスに快勝した準決勝からスタメンを変えずに臨んだ。リザーブのSHはケガで離脱したウィリー・ハインズに代わり、急遽召集を受けたベン・スペンサーが入った。

 

(写真:鋭いタックルの連続。序盤から互いの持ち味を発揮した激しいぶつかり合いが展開された Photo by Clive Rose-World Rugby via Getty Images)

 大方の予想通り、激しい肉弾戦、そしてキッキングゲームとなった。開始早々に得たPGをSOハンドレ・ポラードが外したものの、10分のPGは着実に決めた。イングランドも23分にCTBオーウェン・ファレルのPGで追いついた。

 

 この日もスプリングボクスはパワーで相手を圧倒した。プレッシャーに押されてか、イングランドのミスや反則を犯す場面が目立つ。スプリングボクスは負傷でHOムボンゲニ・ムボナンビとLOルード・デヤハーの交代を余儀なくされても押し勝った。24分、スクラムでペナルティーを誘った。35m以上のPGをポラードが成功し、再びリードを奪った。

 

 イングランドも意地を見せ、敵陣に攻め込んだ。30分にマイボールラインアウトからインゴール目前まで迫る。しかし、スプリングボクスの堅い守りに最後の一押しが届かない。トライを取るまでには至らず、PGで同点に追いつくのが精一杯だった。

 

(写真:この日も正確なキックでゲームをつくり、強烈なタックルでチームを牽引したデクラーク Photo by Francois Nel-World Rugby via Getty Images)

 39分と前半終了間際にPGで加点したスプリングボクス。ポラードのキックは準決勝に続き、冴えていた。12-6と前半をリードで終えた。ボールポゼッションはイングランドが58%、敵陣でプレーする機会も多かったが、試合を支配していたのはスプリングボクスだった。

 

 イングランドの“フィニッシャー”vs.スプリングボクスの“ボム・スコッド”。両軍はリザーブを含めた総力戦で勝ち上がってきた。後半開始直後に交代カードを切ったのはイングランド。ラインアウトのキーマンでもあるLOコートニー・ローズを下げ、ジョージ・クルーズを投入した。スプリングボクスは4分にPR2枚を入れ替えた。

 

 昨年から呼び始めたという“ボム・スコッド”について、キャプテンのコリシは言う。

「試合に出ていない選手が奮起するためにできた。違いを生み出すことを考えた。スタメンはすべて出し切ることで、互いのモチベーションを引き出し合える。責任感を持たせる意味もあった」

 その言葉通り、後半のチームの後押しとなったのは“ボム・スコッド”の方だった。

 

 5分、スプリングボクスボールのスクラムで押し込んで、ペナルティーを誘発した。ここからはポラードの出番。ゴールまで50m以上のロングレンジも確実に仕留めた。15-9と9点差にリードを広げた。

 

(写真:南アフリカがW杯決勝でトライを挙げたのはマピンピが初。テストマッチを含め日本で9トライも稼いだ Photo by Francois Nel-World Rugby via Getty Images)

 10分にイングランド、18分にスプリングボクスがPGを決めた。点差はそのままで時間が経過。26分、試合が大きく動いた。FWの圧力がイングランドの守備ラインに歪を生んだ。SHファフ・デクラークが左に展開すると素早いパスで大外のWTBマカゾレ・マピンピがタッチライン際でボールを持った。

 

「“キックした方がいい”という合図をもらった」というマピンピは縦にショートパントを蹴り出す。バウンドしたボールはマピンピを追い越したCTBルカニョ・アムに向かった。キャッチしたアムは、併走するマピンピにパスを送った。フリーのマピンピが悠々トライ。ポラードのコンバージョンキックも決まり、突き放した。

 

 トドメを刺したのは、もうひとりのWTBだ。34分、途中出場のHOマルコム・マークスが強烈なタックルを浴びせ、ターンオーバーに成功した。そこからのカウンターでボールを持ったのがコルビ。右サイドのタッチライン際で一気に加速。ロケットのごとく相手を切り離し、インゴールまで到達した。ポラードのコンバージョンキックが決まり、20点差が付いた。

 

 最後は時間をうまく使い、後半40分経過のホーンが鳴るのを待った。最後はポラードを外に大きく蹴り出し、ノーサイド。スプリングボクスが堅守でイングランドをノートライに封じ、3度目のウェブ・エリスカップを手にした。

 

(写真:優勝セレモニーを見守るイングランド。開始早々にシンクラーが負傷交代するなど不運もあった Photo by Clive Rose-World Rugby via Getty Images)

 準優勝のイングランドはラグビーの母国としてのプライドを示した。前回大会は地元開催ながら1次リーグで敗れる屈辱。今大会はアルゼンチン、オーストラリア、オールブラックスという南半球の強豪国をなぎ倒したが、頂点には惜しくも届かなかった。

 

 ラッシー・エラスマスHCは「選手たちが自分たちを信じた結果」と称えた。No.8ドゥエイン・フェルミューレンも「互いを信じて戦うことができた」と口にする。キャプテンのコリシは「力を合わせればひとつの目的を達成できることをお見せできた」と胸を張る。12年ぶりの戴冠は、多民族国家・南アフリカの象徴スプリングボクスが一丸となって手にした勲章だった。

 

(文/杉浦泰介)