戦後間もない頃、プロ野球の試合を対象とした「野球くじ」が日本勧業銀行から発売されていたことは、あまり知られていない。

 

 

 ウィキペディアによると発売されていたのは<1946年~1950年ごろにかけて>で、<対象となる試合の得点合計の下一桁の数字と勝利チームを予想するものであった。正解者には売上金の中から50%を配当金として配分した>という。

 

 少年の頃、この「野球くじ」に熱中したのが、さる9月2日、急性肺炎のため死去した作家の安部譲二さんだった。

 

 安部さんとはプロ野球や競馬、ボクシングをテーマに何度かお話しする機会があったが、いつ会っても、その引き出しの多さと話の面白さに圧倒されたものである。

 

 安部さんから「野球くじ」の話を聞かされても、正直言ってピンとこなかった。私が生まれる前の話だからである。

 

 そこで安部さんの著作から引用する。

<野球場に出かけていくと、試合開始三十分前には、両軍の先発ピッチャーが発表されます。すると、私たちは球場にある野球クジの売り場に駆けつけて張るのです。

 

 張り方は、勝利チームと合計点でした。クジは、一-六、二-七、三-八、四-九、五-〇の五種類で、「阪神五-〇」と買えば、阪神が勝って三-二とか一〇-〇とかならば当たりです。

 

 プレイボール十五分前に売り場は閉まり、配当が発表されます。今ならさしずめ、YG戦で、「Yの五-○」などというのが高配当となるわけです。

 

 いくら無頼な私でも、当時はまだ小学生でしたから、好きな野球を見て、時にはカレーパンを三つも頬ばっていれば大満足だったのです>(『全日本パ・リーグ党宣言』・純パ

の会・角川書店)

 

 この「野球くじ」、復活の動きがあるのを、ご存知か。目下、スポーツ振興くじの対象競技はサッカーのみ。これを国民的スポーツであるプロ野球にまで拡大し、スポーツ振興の原資にしたいというのがスポーツ議員連盟の狙いだ。

 

 プロ野球にとってもメリットはある。競技人口の減少に悩むプロ野球にとって、くじによる助成金は、喉から手が出るほど欲しいに違いない。

 

 しかし、なかなか合意に至らないのは売上金の配分を巡り、スポーツ議連とNPBの溝が埋まらないためだ。

 

 この案件については、事の表も裏も知る安部さんに、ぜひとも意見を伺いたかった。豊富な経験に根差したドスのきいた直言を聞けないのは寂しい限りである。

 

<この原稿は2019年10月11日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 


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