5日、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)のバンタム級決勝を兼ねたWBA・IBF世界バンタム級王座統一戦の調印式と記者会見が都内ホテルで行われた。WBA・IBFバンタム級王者の井上尚弥(大橋)はWBA同級スーパー王者のノニト・ドネア(フィリピン)と対戦し、“バンタム級世界最強”を決める。記者会見に出席した井上尚は「プロになる前からずっと見てきた憧れの1人。決勝で戦えて誇りに思う。世代交代を確実に成し遂げるだけです」と勝利宣言した。

 

 WBSSのカレ・ザワーランドプロモーターは“バンタム級世界最強決定戦”で「どんなファイトを期待するか?」と問われるとこう答えた。

「もちろんベストが勝つ。素晴らしいパンチャーであるドネア選手はKOオブ・ザ・イヤーにも輝いたことがあります。どんな試合になるか想像に容易い。井上は階級にかかわらず、この2年で世界を一番震撼させたボクサーだと思っている。対戦相手はすべて強豪でした。私は(ワシル・)ロマンチェンコ、カネロ(サウル・“カネロ”・アルバレス)に並ぶパウンド・フォー・パウンド(階級を超えた最強選手)だと思っている。本当に期待しかありません」

 ロマチェンコはウクライナ出身の3階級制覇の現世界ミドル級3団体王者。カネロは先日4階級制覇を成し遂げたばかりのメキシカンだ。いずれも世界にその名を轟かせるスーパースターである。

 

 ここまでの勝ち上がりを見ても“モンスター”ぶりを遺憾なく発揮している。昨年10月の初戦はフアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)にわずか1分10秒でKO勝ち。今年5月の準決勝では無敗のIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2ラウンド1分19秒TKOで片付けた。そして2日後にさいたまスーパーアリーナで迎えるのはドネア。井上尚が「自分としては一番理想の決勝」と口にする相手だ。ドネアは初戦でWBA世界スーパー王者のライアン・バーネット(イギリス)を、準決勝ではステフォン・ヤング(アメリカ)をKOで下してきた。

 

 世代交代に意欲を燃やす26歳の井上尚に対し、36歳のドネアは「これまで数多くのファイターと戦ってきたが、その中でもトップに位置する。パウンド・フォー・パウンド」と高く評価する。だからといって、そう易々と軍門を下るつもりはない。

「井上尚弥選手との対戦は大きなモチベーション。彼は『世代交代』という言葉を使っているが、自分がその前に立ちはだかる大きな壁だと思っている」

 完全アウェイの状況で決勝に臨むことになるが、「リングが自分のホーム」と意に介す様子はない。前日の予備検診、この日の記者会見も笑顔が目立つなど非常にリラックスしているように映った。“フィリピンの閃光”と呼ばれる男の強烈な左フックに井上尚は要警戒である。

 

 またセミファイナルで、WBC世界バンタム級暫定王者の弟・拓真がWBC王座統一戦に臨む。正規王者のノルディーヌ・ウバーリ(フランス)と対戦。初の兄弟による世界戦に井上拓は「しっかり勝って兄にバトンを渡したい」と意気込む。父である真吾トレーナーは「充実した最高の練習を積んできた。自分も楽しみで仕方がありません」と語った。

 

 ザワーランドプロモーターとドネアに「パウンド・フォー・パウンド」と称えられた井上は、「それは周りの評価。自分が試合をしていく中で上がっていくもの」と、“最強の称号”よりも一戦一戦に集中しているようだ。無敗のチャンピオンロードを走り続けている。「日本代表を背負うつもりでやっています。突破口として自分が優勝したい。見てみたい景色が山ほどある」。バンタム級の頂点に駆け上がれば、目標のひとつであるラスベガス進出や、更なるビッグマッチなどが転がり込んでくるだろう。ゴングは2日後、これまで同様に自らの拳で掴み取る。

 

(文・写真/杉浦泰介)