Honda、『夢を力に』打ち勝つ ~女子ソフトボール~
日本一を決める横浜決戦が迫っている。第52回日本女子ソフトボールリーグは11月16日、リーグ戦上位4チームによる決勝トーナメントがスタート。連覇を狙うトヨタ自動車レッドテリアーズ、2年前の女王ビックカメラ高崎BEE QUEEN、12年ぶりの優勝がかかる豊田自動織機シャイニングベガの3チームが昨年に続き出場する。もう1チームは昨季10位Honda Reverta。リーグ戦2位で4年ぶりに、この舞台に戻ってきた。就任2年目の鈴木幸司監督と、今季からキャプテンを務める森山遥菜に躍進の理由を訊いた。
――今季はリーグ戦でチーム史上最高の2位に入り、昨季の10位から大きく順位を上げました。
鈴木幸司: ひとつは守備の安定です。昨季、エラーが22試合で20個以上ありましたが、今季は2桁を切りました。前半戦は8勝3敗といいかたちで終わり、チームも波に乗ることができました。後半戦は7勝4敗。目標としていた15勝に達することができました。正直、2位になれるとは思ってもいませんでした。
――完封勝ちは7試合。総失点は38と昨季に比べて4割以上も減らしました。守備が安定してきましたね。
鈴木: とはいえ、今季は守備の練習時間を増やしたわけではありません。どちらかと言えば、守備における確認事項や気持ちの部分に力を入れました。また昨年8月に移籍してきた長谷川優理の存在も大きかった。昨季はリーグ規定により、試合には出られませんでしたが、今季からショートで全22試合に出場しました。彼女は内野の要として、この1年よく働いてくれました。他に今季は巽麗菜も移籍してきました。こうした移籍選手に刺激されたのか。今季はレギュラー陣が押し並べて好成績を残しました。
――昨季からの反省点は?
鈴木: 昨季の前半戦は2勝9敗。打力を生かしたいために攻撃的なオーダーを組んでしまったのが原因です。選手たちは本来のポジションと違う守備位置につくことで、戸惑いがあったようです。これではいけないと思い、後半戦からは選手が得意とするポジションに戻すことで安定した試合運びができるようになってきた。それを今季も継続することで、失点は少なくすみました。
――エースのジェイリン・フォード投手は12勝で最多勝、防御率も1.04で3位でした。
鈴木: 間違いなく彼女の活躍が躍進に繋がりました。昨季、ジェイは7勝7敗。過去に手首を手術した後遺症もあり、前半戦はなかなか球威が戻らなかった。それが後半戦からジェイ本来が持っている力を発揮できるようなりました。今季は真っすぐとチェンジアップの緩急を使うピッチングに磨きがかかった。後半戦からは現役アメリカ代表のアリー・カーダが加入し、投手陣の土台ができあがりました。
Honda旋風を
――フォード投手の復調など、昨季の後半戦で得た手応えが今季に生きた部分もあると?
鈴木: ええ。昨季の後半戦で6勝5敗と勝ち越すことができ、選手たちも自信を持ったのだと思います。後半戦からメンタルトレーニングのために福島正伸さんを呼んだことで、選手たちは物事をポジティブに考えられるようになってきました。
――今季から指導面で変えたことはありますか?
鈴木: 昨年1年間は怒ることも多く、1人の選手を全員の前で叱ることもありました。今年はそれを一切していません。あとは選手主導型のトレーニングに変えました。練習メニューもそれまでは私が全部決めていましたが、今年からは選手の意見を採り入れるようにしました。
――キャプテンが森山選手に代わりました。
鈴木: 彼女は前キャプテンの胡子(路代)の下で副キャプテンをしていました。森山は選手にきちんと言える子なので、“任せても大丈夫だな”と思って見ていました。彼女には「森山のチームにしてくれ」と言いました。「自分がやりやすいようにしてくれ。その代りクリーンアップとして結果を出さなければいけない」とも。前半戦は大事なところでホームランを打つなど、チームの好調を牽引してくれました。
――監督が考えるチームの長所は?
鈴木: ウチはバッティングが大好きなチームです。もちろん根本のバッテリー、守備は欠かせませんが、打って勝つ魅力のあるソフトボールを披露したい。お客さんが見ていて楽しく、自分たちも楽しいチームにしたい、と考えています。
――決勝トーナメント1回戦は強豪ビックカメラ高崎と対戦します。その攻撃重視のスタイルは決勝トーナメントに入っても継続すると?
鈴木: 変えるつもりはないですね。決勝トーナメント進出したからとか。相手がビックカメラだとかは関係ない。自分たちがやってきたことをシーズン最後まで貫くだけです。
――キープレーヤーは?
鈴木: 打つ方は森山ですね。彼女が打つと打たないとではチームの雰囲気が全然違います。森山がホームランを打った時は勝っていることが多い。その長打力は魅力です。ピッチャーはジェイですね。投打の柱に期待しています。
――最後に決勝トーナメントに向け、意気込みを。
鈴木: 今季のスローガンは『夢を力に~Honda旋風~』です。これは選手が考えました。夢とは日本一。優勝を目指すことを力にしてHonda旋風を巻き起こそう、と。だから選手にはプレッシャーを与えないようにしたい。「オマエらはノビノビやれ」と。私たちは楽しいソフトボールを心掛けているので、緊張するのは監督だけでいいと思っています。
チームを引っ張るスラッガー
指揮官が「今年は森山のチームでいく」と心中覚悟で臨んだのは、それほど彼女への信頼が厚いからだ。2年前のホームラン王は昨季、1割7分2厘と打撃不振に陥った。今季からキャプテンを任されたスラッガーはどんな思いで試合に臨んでいたのか――。
――まずは今季のリーグ戦を振り返ってください。
森山遥菜: 前半戦はバッティングの調子が良く、打ち勝つ試合が多かった。後半戦は得意のバッティングが落ちてきましたが、今度はピッチャーが踏ん張ってくれた。粘り強く守り、チャンスで打った1点や2点を守り切れたことが大きかったと思います。
――キャプテンとして今季から新たに試みたことはありますか?
森山: 私自身がバッティングの人なので、打ち勝つチームをつくりたかった。スタッフとも話し合い、バッティングに力を入れてやってきました。
――2年前は打率3割3分3厘、8本塁打、14打点と活躍し、ホームラン女王のタイトルでベストナインにも輝きました。しかし昨季は打率1割台と低迷。ホームランも3本でした。自分のプレーに集中したかったのでは?
森山: 私は東京オリンピックを見据え、自分のプレーに集中したいとも考えました。でもキャプテンとしてチームづくりに関わることで自分の成長が実感できると思ったんです。だからキャプテンを任されることは全然苦ではなく、「頑張ります」と引き受けさせていただきました。監督には「オマエに任せる」と言っていただき、“自分がやれることをやろう”という日々でした。
――この1年間で特に苦労したことは?
森山: みんなにどういう言葉を掛ければ伝わるだろうか、とすごく考えました。モチベーションの上がるような言葉を探しながら、自分が思っていることもちゃんと伝えなくてはならない。それに怒る時は怒らないといけない。チームとしては今季波が少なかったと感じています。それは前キャプテンの胡子さんが自分の見えないところで周りに声を掛けてくれていたからです。すごく助かりました。胡子さんに助けられて乗り切った1年だったなと思います。
“まぐれじゃない”と証明する
――10位から大きくジャンプアップしての2位。昨季の悔しさをバネにできましたね。
森山: それはありますね。“見てろよ”という思いもありました。チームには「自分たちは10位のチーム。怖いものなんてないじゃん。やるべきことをやっていこう」と声を掛け続けました。
――個人としては打率2割8分1厘、5本塁打、11打点でした。
森山: 全然ダメですね。やっぱりホームランをもっと打ちたかった。ミスショットが多いので、今後は確実性をもっと上げていかなければいけません。チャンスの場面での一打が求められる。甘い球をファウルにしている場面もありました。
――それだけホームランへのこだわりは強い?
森山: そうですね。逆に私はそこしかない。ホームランを打つことが仕事だと思っています。
――森山選手が考えるチームの魅力とは?
森山: 誰よりも楽しんでソフトボールをしているところですかね。プレッシャーを楽しめる人たちが一番強いと思います。私たちもその強さを目指しています。
――チームとしては4年ぶりの決勝トーナメントが近付いてきています。4年前は森山さんもその舞台に立ちました。
森山: 4位で進出した決勝トーナメントで豊田自動織機に完封負けしました。緊張もしましたが、とても楽しかった。たくさんの応援の中でソフトボールができたことは貴重な体験でした。私は見てくれる人が多ければ多いほど燃えるタイプです。だから何もできなかったことが悔しかったですね。
――余計に“今年こそ”の思いは強いわけですね。
森山: そうですね。4年前に決勝トーナメントに行った時に「まぐれだろ」と言われたこともあります。日本リーグは決勝トーナメントの舞台に立ってナンボの世界。日本一になってこそ、私たちのやってきたことが報われる。Hondaをもっと強くし、常勝チームにしたいと考えています。
BS11では今シーズンも日本女子ソフトボールリーグ決勝トーナメントを中継します。11月16日(土)のビックカメラ高崎BEE QUEENvs.Honda Revertaは20時に放送。翌日の決勝は19時オンエアです。今シーズンの総決算をぜひお楽しみください!
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