サントリーサンゴリアスに所属するラグビー日本代表(ジャパン)のHO北出卓也が12日、都内クラブハウスでの共同取材に応じた。ゼロキャップでW杯日本大会最終スコッドにサプライズ選出。出場機会こそなかったが、ジャパンがベスト8に進出した本大会を振り返った。
 

 8月29日、ジェイミー・ジョセフHCが読み上げた31人の中に北出の名前はあった。唯一キャップ数なしでの選出。サプライズと言っていいだろう。HOとしては堀江翔太、坂手淳史に次ぐ3番手の扱い。当落線上の男がW杯出場権を獲得できたのは、指揮官が評価するスローイング技術だった。

「やはりスペシャリストのポジションでラインアウトのスローイングというところを見ると北出の方が堀越(康介)よりも上だと判断しました。チームには堀江や坂手といった経験値の高いHOがいます。バックアップとしてプレッシャーがかかった中、非常に難しいスキルを遂行できるのはどちらか。それで北出を選びました」

 

 3歳で始めたラグビー。ボールを扱うのは昔から好きだった。中学時代は自宅で寝転がり、天井に向かってボールを投げる練習もしていた。「一番大事なのはフォロースルー。両手でしっかり投げると真っすぐ飛ぶ。きちんと送り出せないとダメ」。正確なスローイングは日々の積み重ねで培ってきた。スローイングの前に息を吐き出す。邪念を出すイメージで投げるのがコツだという。

 

 HOというポジションはセットプレーのキーマンである。スクラムは最前列の中心に位置し、ラインアウトはスローワーを任される。求められるのは安定感。大会直前のテストマッチで初キャップを獲得した北出は、自らが試合に出た際のイメージをこう描いていた。

「セットプレーの安定がHOの大事な役割です。そこが崩れてしまうと試合が崩れてしまう。まずはセットプレーを安定させる。そしてタックルの部分でチームにいい影響を与えたいと思っていました」

 

 ジャパンはアイルランド、スコットランドといった強豪を撃破し、プール戦4連勝を果たした。目標としていたベスト8に到達。しかし、全5試合のメンバーリストに北出の名前は1度も載らなかった。

「W杯独特の雰囲気だったり、日本がひとつになっていくことを経験できた。ただベスト8になった喜びより試合に出られなかった悔しさの方が大きかったです。絶対次を目指したい。4年後は主力として」

 

 大会期間中は通常、試合がある週の頭に試合のメンバーが発表される。北出はその度に肩を落としていた。ノンメンバーという役割に納得するプレーヤーはいないだろう。だが試合に出られなくてもやるべきことがある。「メンバーの力になるように」と対戦相手の分析をし、対策を練るのだ。トレーニングでは敵のコピーを演じる。北出は主にスクラム、ラインアウトのセットプレーを担当した。「試合でイメージ通りのスクラムを組めると、報われる」。ジャパンの躍進の陰には、陽の当たらない北出らの下支えがあった。

 

 ピッチの外で貢献した自負はあるものの、充足感は得られない。間近で見ていた分、「テストマッチ、W杯レベルで活躍したい」という思いは膨らんだ。そのために身体づくりから見直す。現在、北出の体重は102kg前後。「世界のHOを見ても105kg~110kgはある。走れる状態は維持しつつ、体重を増やしていきたい」。チームのために分析してきたことは自らの成長にも繋げられる。「自分に必要なことがわかった。W杯の舞台で80分間戦うためにはもっとレベルアップしなければいけないと感じました」。一回り、二回りも大きくなり、今度はピッチで存在感を示す。

 
北出卓也(きたで・たくや)プロフィール>
1992年9月14日、京都府生まれ。ポジションはHO。3歳からラグビーを始める。東海大仰星高校2、3年時に花園出場。高校日本代表にも選ばれた。11年に東海大学に入学。東海大では全国大学選手権で2度のベスト4入りを経験。15年、サントリー入社。1年目の開幕戦でトップリーグデビューを果たす。16-17シーズンからの2年連続2冠にも貢献した。今年8月、ゼロキャップながらW杯日本大会の最終スコッドに選出された。大会直前のテストマッチで初キャップを獲得。本大会5試合での出場は叶わなかったものの、相手チームの分析や対策で史上初のベスト8入りを支えた。通算1キャップ。身長180cm、体重102kg。
 
(文・写真/杉浦泰介)