日本シリーズ終了後に巨人・原辰徳監督の発した「セ・リーグにもDH制の導入を」との発言は随分と話題になりました。「セ・リーグにはDH制がない。DH制は使うべきだろう。(パ・リーグに)相当、差をつけられている感じがある」。4連敗の喫した指揮官の言葉には危機感と悔しさが感じられました。


 DH、指名打者制度はメジャーリーグのアメリカン・リーグで1973年に採用されました。日本ではそれから遅れること2年、75年にパ・リーグが採用しました。人気面でセ・リーグに差をつけられていたパ・リーグにとって、ハデな打撃戦を展開することで集客を狙う意図がありました。

 

 日本シリーズでDH制をパ・リーグのホームゲームで採用するようになったのは87年から。それ以降に限れば日本一はパ・リーグが21度、セ・リーグは12度とパが圧倒しています。しかも、この10年はパ・リーグが9度、日本一に輝きました。まさにパ高セ低です。

 

 原監督の発言をきっかけに多くの球界OBが「DH制」について持論を展開しました。在京球団の編成も担当した球界OBは、「DHの有無でドラフト戦略に差が出る」といいます。
「今季、パ・リーグ本塁打王の山川穂高(埼玉西武)は体重108キロの巨漢です。また打点王に輝いた中村剛也(埼玉西武)も102キロ。その他、千葉ロッテには114キロの井上晴哉がいます。彼らのようにアマチュア時代から飛距離に定評のあるバッターは、当然、どの球団もリストアップします。ただし、セ・リーグの場合には"守備ができる"という前提条件がつきます。打てるけど守れない、これだとセ・リーグでは厳しい。その点、パ・リーグはDH制を採用しています。”打てるけど、守れないんです”とスカウトから報告があっても、最終的には指名打者にすればいい、と判断できる。まあ山川や中村は守備もレベルが高いのでこれには当てはまりませんが、パ・リーグなら"長打力"にフォーカスしてスカウティングできるのは事実です」

 

 では、プレーヤーの立場からはどうなのでしょう。打者が9人並ぶパ・リーグではピッチャーは厳しい戦いを強いられるというのが常套ですが、「いや、DHありの打線相手の方が楽でしたよ」というのは牛島和彦さんです。牛島さんは中日から86年オフ、トレードでロッテへ移籍しました。DHの有無を経験した一線級のピッチャーの証言です。

 

「パ・リーグで初めてプレーしたとき、DH制は楽だなと思いましたよ。何よりも攻撃のサインを覚えなくていいんですから(笑)。牽制やバントシフトなどの守備のサインだけで済む、労力は半分ですから楽でしたよ。あと、打者9人が並ぶというのもやりやすく感じました。意外に思われるかもしれませんが、打者が9人ならずっと同じテンションで相手と対峙できる。ピッチャーが打席に立つと、どこか気を抜く部分が出る。しかも『打たれたらどうしよう』という余計なことを考えることもある。ずっと気を張って投げられたのでDH制はやりやすかったですね」

 

 アメリカのメジャーリーグでDH制を採用するアメリカン・リーグと、採用していないナショナル・リーグ。ワールドシリーズのここ10年の対戦成績はア・リーグが4勝、ナ・リーグが6勝と、DH制のないナ・リーグが上回っています。DH制採用の可否など意見が活発に戦わされるのはプロ野球の将来のためにも必要です。ただ、セの野球、パの野球--。違う野球が存在するのもプロ野球の魅力のひとつでしょう。

 

(文/SC編集部・西崎)


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