愛媛FCレディースは今季、プレナスなでしこリーグ2部で初優勝を成し遂げ、来季の1部昇格を決めた。チーム創設9年目で初の快挙だ。今季リーグ戦で得点ランキング5位タイの7得点を挙げ、優勝&昇格に貢献したFW大矢歩。普段は伊予トータルサービス株式会社で働くアタッカーに話を訊いた。

 

 

 

 

 今季のなでしこリーグ2部は最後まで、3チームに優勝の可能性がある大混戦だった。17節終了時点で1位・愛媛FCレディースは勝ち点35、2位のセレッソ大阪堺レディースと3位のオルカ鴨川FCが同32。最終節の結果次第で順位は入れ替わる。運命が決まる10月26日、愛媛FCレディースはホームの愛媛県総合運動公園球技場でオルカ鴨川と対戦した。

 

 前半の45分間はスコアが動かなかった。愛媛FCレディースはボールを保持し、チャンスも作った。それでも焦りはなかったという。

「ハーフタイムはそんなに悪い雰囲気ではなく、自分たちがボールを持てていた。たぶん後半は相手が落ちてくるだろう、と。焦れずにボールを動かし、最後のチャンスを決めようと考えていました」

 ボールポゼッションを重視したパスサッカーは愛媛FCレディースが、こだわってきたスタイルだ。

 

 そして後半13分。ついに均衡を破った。中央でボールを持ったFW上野真実がペナルティーエリア内左のMF山口千尋にパス。山口が放ったシュートは右に外れたが、結果的にこぼれ球を狙っていた大矢への絶好のパスとなった。「当てるだけでした」。右足で落ち着いて流し込んだ。

 

 ゴールネットが揺れ、大きく沸くスタンド。振り返って、大矢は語る。

「相手にもプレッシャーを与えられたと思いますし、得点という部分でサポーター全員とひとつになれたんです。点を決めた時、皆さんが、立ち上がって喜んでくれた。この試合は1200人以上のお客さんが来てくれました。自分たちがプレーしていて味方の声が聞こえないと感じたのは初めて。それほど声援が大きく、すごく力になりましたね」

 

 5分後に追いつかれたものの、逆転は許さなかった。オルカ鴨川に攻め込まれ、苦しい場面も少なくなかった。「本当にディフェンスのみんなが身体を張ってくれました。自分たちも、退かずに攻めて“もう1点”という気持ちでした。結構危ないシーンもあったのですが、運良くシュートが外れるなど本当に何かが味方してくれたような感じでした」

 1-1でタイムアップ。大矢も歓喜の瞬間をピッチで迎えた。

 

 今季、愛媛FCレディースは開幕5試合を4勝1敗と好スタートを切った。チームの好調とは裏腹に大矢は2戦目で先発落ち。なかなか波に乗り切れない部分もあったが、4試合目で初ゴールを奪うと徐々に調子を上げていった。

「前半戦はあまり試合に出られない時間もありました。悔しい気持ちをバネにし、“次に”という思いでした。昨季はうまくいかない1年だったので、同じことを繰り返さないようにしたかった。自分が試合に出た時は“得点でチームに貢献したい”と思っていました。後半戦はプレータイムも増え、自分自身も得点という形で少しはチームに貢献できたんじゃないかな、と」

 昨季はリーグ戦18試合2得点に終わった。全試合に出場したものの、スタメン落ちをすることも少なくなかった。

 

 昨季の反省を生かし、今季の活躍に繋げた。17試合7得点でシュート成功率は35%。3本シュートを打てば1本はゴールになる計算である。この数字は18本以上のシュートを打った選手の中でリーグNo.1だ。

「シュート練習はしましたが、特に変えたことはあまりありません。力まないことを意識したぐらいです。自分だけのゴールではないんです。味方が繋いでくれたのを最後決めるだけというシーンが多かった。その意味ではチームみんなの得点かなと思います」

 

 伊予トータルサービスに就職し、4年目となる。「いろいろな部分で配慮していただいています。仕事も少しずつではありますが、できるようになってきました」。上司や同僚たちには感謝してもしきれないという。社内で「頑張ってね」と声を掛けられることもあれば、会場に足を運び応援に来てくれる人もいる。「皆さんの応援は本当に力になります」。周囲のサポート抜きには今季の優勝&昇格は語れない。

 

 今季の公式戦は皇后杯を残すのみとなった。11月24日の初戦(2回戦)はチャレンジリーグWESTのスペランツァ大阪高槻にPK戦で勝利。12月1日に行われる3回戦は、今季1部7位のノジマステラ神奈川相模原と対戦する。来季に向けた試金石となる。大矢は「今の自分たちのレベルが分かると思う。どれだけ通用するかを試したい」と意気込む。

 

 年を跨げば、1部での戦いが待っている。

「自分たちの色を変えずに、どれだけ1部で通用するか挑戦したい。ボールを大切にし、チーム全員で戦うということを今まで築き上げてきました。その持ち味をなくさず戦いたい。1戦1戦、苦しい戦いになると思います。来年に向け、もっとレベルアップしなきゃいけないです」

 大矢の言うように1戦1戦、苦戦を強いられるかもしれない。だが、その経験が成長の糧となるはずだ。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年。愛媛のスポーツにとっても大きな1年となる。

 

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