日本シリーズで巨人をスイープ(4連勝)で退けた福岡ソフトバンク工藤公康監督が2年連続4度目の正力松太郎賞を受賞した。

 

 

 選手として1回、監督として3回。計4度目の受賞は、王貞治ソフトバンク球団会長と並ぶ最多タイだ。

 

 言うまでもなく「正力賞」は、“プロ野球の父”と呼ばれる正力松太郎(元読売新聞社社主)の業績を称えるため、1977年に創設されたもの。

 

<その年のプロ野球の発展に最も貢献した人物(監督、コーチ、選手、審判)に贈られる賞>(『知恵蔵』)

 

 過去の受賞者を見ると、のべ46人(94年と03年と12年は2人授賞)中31人が、日本一やリーグ優勝を達成した監督だ。授賞対象者であるコーチや審判は、ひとりもいない。

 

 選考委員会の座長を務める王会長は、「できにくいことも心を鬼にしてやっている。それを貫いたのは素晴らしかった」と工藤選出の理由を明かした。

 

 確かに、今年の工藤采配には「鬼」と形容したくなるシーンが目立った。

 

 その象徴が埼玉西武とのCSファイナルステージ第1戦だ。1点を追う8回、指揮官はセ・パ両リーグで首位打者経験を持つ内川聖一に代え、長谷川勇也を打席に送った。

 

 今季、ファーム暮らしの長かった長谷川はショートオーバーの同点タイムリーを放ち、指揮官の期待に見事に応えてみせた。

 

 紙一重の打球だった。もし、あとほんの少し低かったら……。しかし、それが野球である。指揮官の執念が、勝利をたぐり寄せたのである。

 

 試合後、工藤は「内川は今日、少しタイミングが合っていなかった」と代打の理由を説明した。投手の視点が生きたのである。

 

 それを受け、王会長は、「あの内川にねぇ……。監督の勘、采配が光っているね」と、感心した口ぶりで語ったものだ。

 

 かつて、「投手出身者は監督に向かない」と喝破した御仁がいる。南海とヤクルトで5度のリーグ優勝、3度の日本一を達成した知将・野村克也だ。

 

「投手には自己中心のエゴイストが多い。だからチーム全体のことを考えなければならない監督には向いていないんです」

 

 そこで調べてみると2リーグ分立以降チームを日本一に導いた投手出身監督は、工藤がソフトバンクの指揮を執るまで湯浅禎夫、金田正一、藤田元司、権藤博、渡辺久信、星野仙一と6人いた。だが、藤田は2回、他5人は1回限りだった。

 

 工藤は既に日本一4回である。ノムさん、どう出る!?

 

<この原稿は2019年12月13日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものを一部再構成したものです>

 


◎バックナンバーはこちらから