ラグビーの全国大学選手権は10日、東京・味の素スタジアムで決勝が行われ、帝京大が筑波大を50−7で破り、6連覇を達成して前人未到の記録を更新した。帝京大は2年続けて対大学の公式戦を無敗で締めくくり、連勝を39に伸ばした。帝京は前半、SH流大の先制トライから、3トライを奪って21−0とリードして試合を折り返す。後半もWTB磯田泰成が2トライをあげる活躍で突き放した。2年ぶりに決勝に進出した筑波大は日本代表候補WTB福岡堅樹の1トライのみに抑えられ、初優勝はならなかった。
(写真:前半25分、磯田が左を抜け出してトライを決め、19−0に)
 50点と43点差。51回目を数えた大学選手権の決勝では、いずれも最多得点、最多得失点差だ。帝京大が圧倒的な強さを見せ、赤いジャージに優勝回数を示す6つ目の星を加えた。

 キャプテンの流が文字通り、流れを呼び込んだ。
 前半7分、敵陣での相手ボールスクラム。体格で上回るFWを見て、「スクラムで押してくれると確信していた。こぼれ球を拾うことに集中していた」と、筑波大が圧力に負けてボールをキープしきれなかったところを逃さなかった。素早く、こぼれたボールを拾って、そのままトライ。先制点が帝京大に入る。
(写真:流は「FWのトライ」とチームメイトに感謝した)

 帝京大は「チャンスを与えずに、向こうからチャンスをいただけるゲームに」との岩出雅之監督の狙い通り、筑波大の反撃をことごとく激しいタックルで止め、ターンオーバーしていく。21分にも敵陣でのターンオーバーからゴールに迫り、右へ大きく展開。FB森谷圭介が右隅に飛び込んで14−0と点差を広げた。

 さらに25分にはスキルでもレベルの違いをみせる。No.8河口駿が一旦、ボールを味方に預け、外に回り込んでパスを受ける。ループと呼ばれるBKの戦術をFWの選手がみせ、完全に筑波大の守りを翻弄する。スペースができた左サイドを最後は磯田が駆け抜け、スコアは21−0となった。

「筑波は21点獲られるとほとんど勝っていない。前半で勝負が決まった」
 この時点で岩出監督は勝利への手応えをつかんでいた。ロースコアの接戦に持ち込みたかった相手の望みを打ち砕き、帝京大が主導権を握った。

 後半に入り、筑波大はようやく一矢を報いる。7分、敵陣でボールを奪って、左へ展開。福岡が俊足を飛ばして帝京大の守りを振り切り、トライを決める。岩出監督が「中盤の時間帯は休んでしまった」と指摘したように帝京大は点差が広がったことにより、少し気の緩みが出かけていた。

 これをギュッと引き締め、流れを取り戻したのが流だ。PGで3点を追加した直後の14分、反則を犯した筑波大の選手たちの動きが一瞬、止まる。そのスキを突いてクイックスタートを仕掛けた。

 一気に中央を突破して、WTB尾崎晟也にパスを出す。1年生の尾崎は巧みなステップで、ラインの整わない筑波の守備陣を切り裂き、インゴールにスライディングした。ゴールも決まって31−7。これでほぼ勝負はついた。
(写真:岩出監督が「本当に勝利を確信した」と振り返った尾崎のトライ)

 帝京大は選手層の厚さも際立っていた。リザーブのメンバーは指揮官曰く、「ちょっと古いが、野球の江夏(豊)さん」。控えもスタメンの選手たちと力量が変わらず、「後半に出したメンバーの方がピシャッと抑えてくれると確信していた」と“クローザー”の役割で、きっちりと試合を締めくくる。35分には途中で入ったFB重一生がダメ押しトライ。残り15分から、さらに3トライをあげて突き放した。 

 既に大学では向かうところ敵なしの赤いジャージの軍団にとって、目指すは「打倒トップリーグ」。昨年も日本選手権では1回戦でトヨタ自動車に13−38と力の差を見せられた。この日、3トライをあげた磯田は「トップリーグの基準で練習してきた。例年よりトップリーグのチームとの練習試合や合同練習を増やし、いい経験を積み重ねてきた」とチームの進化を語る。帝京大を大学で頭一つ抜けた存在たらしめているのは、この高い意識だ。

「1年1年の積み重ねで、V1、V2の頃とは違う」
 岩出監督も年々、選手たちの成長を実感している。試合後、報道陣から早くも7連覇の話題を振られると、「今度入ってくる高校生は“オレたちの代で10連覇だ”と言っていた」と苦笑いした。
(写真:両手で「6」をつくり、喜びを爆発させる選手たち)

 いったい連覇はどこまで伸びるのか。毎年、選手が入れ替わる中で強さを増す王者を脅かす存在は今のところ見当たらない。 

(石田洋之)