東京都調布市は2019年ラグビーワールドカップ日本大会、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会の競技会場を有する唯一の自治体だ。調布市はこれらの大会を契機として<スポーツ・健康づくり><産業・観光振興><まちづくり><文化・国際交流・平和><教育・青少年の健全育成>という5つのテーマに取り組んでいる。調布市生活文化スポーツ部の東京オリンピック・パラリンピック担当部長を務める小林達哉氏に話を訊いた。

 

二宮清純: 9月から11月にかけて開催されたラグビーワールドカップ日本大会は、日本代表の活躍もあり、大変な盛り上がりでした。調布市の味の素スタジアムでは開会式と開幕戦の日本対ロシアが行われました。

小林達哉: ありがたいことに、想像以上の盛り上がりでした。実はラグビーのワールドカップ、それから来年のオリンピックとパラリンピックという3つの大きなイベントをやるのは、全国にある1741の基礎自治体の中で調布だけなんです。

 

二宮: へえー、それは知りませんでした。確かにラグビーワールドカップとオリンピック、オリンピックとパラリンピックと2大会を開催する自治体は複数ありますが、3大会はありませんね。

小林: オリンピック・パラリンピックを招致している段階では、味の素スタジアムで近代五種(フェンシングは調布市・武蔵の森総合スポーツプラザ)とサッカーの予選をやるだけだったんですが、どんどん増えていき、バドミントンが市内にある武蔵野の森総合スポーツプラザで開催することが決定し、車いすバスケットボールも同会場で行うことが決まりました。7人制ラグビー、自転車ロードレース(スタート地点)も市内で開催されます。ラグビーワールドカップに関しては、当初は新しくできる国立競技場で開催予定でしたが、2015年に建設計画が見直され、大会まで完成が間に合わないということで味の素スタジアムが会場となりました。

 

伊藤数子: ラグビーワールドカップでは日本対ロシアの開幕戦を含め8試合が行われたんですね。

小林: 全部が素晴らしいカードばかりで、優勝候補のニュージーランドやイングランド、オーストラリアの試合もありました。新国立競技場で開催されていれば、今よりワールドカップが遠い存在になっていたかもしれません。今回のワールドカップのおかげで、調布という地名も多く取り上げていただきました。調布は味の素スタジアムがあるまちなんだと広く認知されました。来年はオリンピック・パラリンピックが開催されます。ラグビーワールドカップを経験できたことは、まちの財産でもあります。いくつか問題はありましたが、それを乗り越えて成功できたというのは、まちや市民にシビックプライドとして残っていくと思いますね。

 

二宮: それは得難い経験でしたし、市民の方たちの誇りになりますよね。

小林: すべてが終わり、しみじみと振り返った時に"これはすごいことなんだな"と思っていただけるのではないでしょうか。

 

 ボランティアのレガシー

 

二宮: その意味では、ラグビーのレガシー、オリンピックとパラリンピックのレガシー。調布にはいっぱい財産が残りますね。

小林: そうですね。なんとかいいかたちで残していきたいと思っています。

 

伊藤: 今年1月にスタートした「調布市おもてなしボランティア」の募集も最初からラグビーワールドカップと東京2020年大会をやりましょうと募集されたんですよね。

小林: はい。募集人数は200人に設定しましたが、実際には約400人に応募していただきました。中には東京都のオリンピック・パラリンピックのボランティアと掛け持ちで応募された方もいるそうです。今回のラグビーワールドカップでは延べ300人ぐらいの方に活躍していただきました。そこは間違いなく、まちのレガシーになっていると思います。

 

二宮: ラグビーワールドカップ日本大会のボランティアは非常に評判が良かった。私もロシアとの開幕戦を取材しに行った際、スタジアムに行く先々で皆さんの笑顔とハイタッチで出迎えていただきました。"これは成功するな"と感じましたね。

小林: ボランティアの方々の意識も高く大変助かりました。"こうした方がいい"という意見もいただきました。来年のオリンピック・パラリンピックに向け、既に研修をスタートしています。先日も会場がいっぱいになるくらいの方に来ていただきました。今年の夏から、ボランティアの方々には調布市の様々なイベントにも参加していただいています。

 

伊藤: スポーツボランティアの経験をきっかけに福祉や災害のボランティアに参加する方もいらっしゃいます。ボランティアの方たちの存在は地域にとって大きな力になりますよね。

小林: ええ。ボランティアを業務の中で抱えているセクションのメンバーとも話し合いを重ねながら、2020年の後もボランティアの方々に活躍してもらえるかを考えています。そのためのラグビーワールドカップであり、オリンピック・パラリンピックであるという位置付けで、我々は取り組んでいます。2013年の国民体育大会は東京で開催された際に調布市内でボランティアを募集し、スポーツボランティアというかたちで活動していただきました。当時は400人ぐらいに集まっていただきましたが、現在は40人ぐらいに減ってしまった。せっかく気持ちがあって参加していただいたのに、それを継続させることができなかった。その反省を、どう生かしていくかを今は考えています。

 

(後編につづく)

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小林達哉(こばやし・たつや)プロフィール>

調布市生活文化スポーツ部オリンピック・パラリンピック担当部長。1964年、群馬県出身。1987年3月、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。同年4月に旭硝子株式会社入社した。1992年4月に学校法人桐蔭学園で12年間教員として勤務。2005年4月に調布市役所入庁した。教育委員会指導室、行政経営部秘書課を経て、2013年4月から2年間、東京都市長会へ出向。企画政策室室長を務めた。2015年4月に調布市生活文化スポーツ部次長に就き、2016年4月から現職。2019年ラグビーワールドカップ日本大会、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした「調布市アクション&レガシープラン」の取り組みに尽力している。

 

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