来年はJ1でMF中村俊輔(横浜FC)のプレーが見られることになる。今季、J2だった横浜FCは13年ぶりにJ1昇格を決めた。7月、ジュビロ磐田から横浜FCに移籍した中村に与えられたポジションは得意のトップ下ではなくボランチだった。移籍当初はボランチでのプレーに苦戦したものの、第38節対東京ヴェルディ戦では左足から豪快なミドルシュートを決めるなど、J1昇格に貢献した。このレフティーついて書いた原稿がある。2年前の原稿で、彼の左足の凄さを再度、確認しよう。

 

 <この原稿は2017年9月11号『金融財政ビジネスに掲載されたものです>

 

 昨季、J2降格の危機にさらされたジュビロ磐田が今季は好調を維持している。23節を終えた時点での勝ち点は39。6位につけ、アジアチャンピオンズリーグに出場できる3位以内を虎視眈々と窺う。

 

 昨季とどう変わったのか。今季から加わったMF中村俊輔の存在を抜きにして、それは語れない。

 

 言うまでもなく中村といえば39歳となった今も日本屈指の司令塔だ。左足の精度は他の追随を許さない。

 

 世界がその左足に注目したのは2006-07年のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)だった。セルティックに所属していた中村はマンチェスターユナイテッドとの2試合で芸術的なフリーキックを2本も決めたのだ。

 

 その中村は2010年に古巣である横浜F・マリノスに復帰したが、チームの若返りにより、出場機会を失った。

 

 そんな時に声をかけたのがジュビロの名波浩監督だ。レフティーの先輩として、まだまだやれると判断したのだろう。

 

 ジュビロ移籍を巡っては、二人の間でこんなやり取りがかわされた。

「チームのラストパスの精度は上がると思う。それは全然、変わるでしょう」と名波。これを受けて中村は言った。「グラウンドで示すのが一番だと思っている」

 

 中村の加入効果はスルーパスからの得点率、セットプレーからの得点率に、はっきりと表れている。それを『Football LAB』の数値をもとに探ってみよう。

 

 まずはスルーパスからの得点率。昨季、ジュビロの総得点数は37(リーグ戦34試合)。このうち、スルーパスからの得点は、わずか1。割合にすると、わずか2.7%である。

 

 その原因は長身FWジェイ・ボスロイド(現・北海道コンサドーレ札幌)にあった。190センチの長身をいかすため、サイドからのクロスを放り込むことが多かったのだ。雑な戦法を選択せざるを得なかった指揮官の悩みは深かった。

 

 名波は語っている。「(昨季は)年間でスルーパスからのシュート本数が4本。決まったのは、わずか1本。(パスの)受け手が動き出さないことも原因だが、出し手にも問題はあった。だが、それにしても4本とは……」

 

 現役時代、スルーパスの名手として鳴らした名波にとってスルーパス4本というのは屈辱的な数字だった。

 

 中村が入った今季、23節終了時点での総得点は35。スルーパスからの得点は7。割合にすると20%だ。空中戦から地上戦へと戦法の変更が手に取るようにわかる。

 

 続いてセットプレーからの得点率。昨季、ジュビロのセットプレーからの得点は8で21.6%。今季は既に15点を記録し、得点率は42.9%と倍近くに上る。

 

 中村の左足が敵地を沈黙させた試合がある。22節、吹田スタジアムでのガンバ大阪戦だ。

 

 試合は終始、ガンバペースだった。ボール支配率はジュビロが38.4%であるのに対し、ガンバは61.6%。だが先制したのはジュビロだった。前半19分、敵陣左サイドから放たれた中村のフリーキックは、鋭い弧を描いてニアへ。これをDF大井健太郎が頭で合わせた。

 

 2点目は後半28分。敵陣右サイドでフリーキックを得た中村は緩いボールをゴール中央に放り込んだ。中村の計算どおり、これをMFアダイウトンがヘッドで押し込んだ。

 

 結果は2対0でジュビロ。2アシストを決めた中村の活躍が光った。

「ジュビロのメンバーは上(頭)のゾーンが強い。こういうプレーをコツコツやっていけたら……」

 

 選手の特徴を把握した上でのピンポイントのフリーキック。かつて世界が恐れた中村ならではの名人芸だった。

 

 体力は衰えても技術はそう簡単にはさびない。39歳の奮闘がJリーグをおもしろくしている。


◎バックナンバーはこちらから