全部真っすぐの回転をして、バッターの手元で勝手に変化するボールを投げたい――昨季の沢村賞投手、オリックス・金子千尋が目指す究極のピッチングだ。多彩な球種をカウント球、ウイニングショットの両方で使い、打者を翻弄する。昨季は12球団で唯一の防御率1点台をマークし、チームの2位躍進の原動力となった。オフには国内FA権を行使したものの、残留。悲願の優勝に向けて今季もチームを引っ張るエースに、キャンプ地の宮崎で二宮清純がインタビューした。
(写真:「1人1球でアウトにするのが一番」と独自の投球論を明かしてくれた)
二宮: 金子さんは書籍や雑誌で変化球の握りやコツを詳細に明かしています。こんなに手のうちを明かして大丈夫ですか(笑)。
金子: バッターはそこまでわからないと思いますよ。それに同じ握りで同じように投げたからといって、同じ変化をするとは限らない。その時の体調やマウンドの状態などで、微妙に変わってくる。僕はその方がバッターは打ちづらいと考えています。

二宮: オフには右ヒジの手術を受けました。状態はいかがですか。
金子: まだ違和感は若干残っています。ヒジを手術したのは2回目で、そんなにすぐ違和感はなくならないものだと自分でも分かっています。だから、その中でいかに感覚をなじませていくかを考えていますね。

二宮: オリックスと新たに4年契約を結びました。最終的には、このチームで優勝したいという思いが強かったと?
金子: 結局はそうですね。FA宣言をしたのは、もしかしたら僕にとって他球団の話を聞ける最後のチャンスかもしれないと考えたんです。悔いは残したくないので権利を行使しました。

二宮: 複数球団からオファーがあって、かなり迷ったようですね。
金子: 全部、話を聞いた上で、素直な気持ちをプラスした時に、一番に出てきたのが「オリックスで優勝したい」という思いでした。やはり、「ここでやり残したことが多い」と感じたんです。

二宮: 我々が外から見ていて意外だったのは、メジャーリーグ移籍も視野に入れていたのに、海外FA権の取得を待たずして権利を行使したことです。もう1年待つ選択もあったのでは?
金子: ただ、権利を取るには1年間1軍に居続けることが条件になります。結果的に手術することになってしまいましたが、ケガをしてしまったら、どうなるかわからない。もしメジャーに挑戦するとしても、2年連続で結果を残した今の状態で行きたい気持ちがありました。

二宮: なるほど。それではポスティングシステムでの移籍を考えていたと。
金子: そうですね。でも、こればかりは自分の意思だけではどうにもなりませんから。

二宮: 今季も最大のライバルは昨季、最後まで優勝を争った福岡ソフトバンクになるでしょう。昨季、金子さんはソフトバンクから4勝(2敗)をあげているものの、中軸の内川聖一選手には23打数10安打、打率.435とよく打たれています。
金子: 去年も結構打たれましたね。正直、できれば対戦したくない(苦笑)。何を投げても、ちゃんと芯に当てられるんです。打ち取ったと思ってもヒットソーンに飛ばす技術があります。

二宮: それは裏を返せば、勝負しがいがあるのでは?
金子: う〜ん。余計に困るのが、たまに予想外の空振りをすることです。「なんで、そんなボールで空振りするの?」という時がある。どう投げたら、打ち取れるのか悩んでしまうんです。僕のイメージでは、内川さんは「打てなくて当たり前」という感覚で打席に入っている気がします。それはちょっと困りますね(苦笑)。

二宮: 打ち気満々でスイングしてきたところを微妙に変化させて凡打させる。バッターに「なんで打てなかったのか」と思わせるのが金子さんのピッチングの真骨頂です。それが通用しなくなるというわけですね。
金子: だから、相手バッターが自分のことをどう考えているのか、コメントは結構、参考にしています。内川さんは「開き直って打席に入っている」とどこかで読みました。そうやって割り切られるのはイヤですね。

二宮: 割り切って球種を絞り込んでくるタイプも困りますか。
金子: そうですね。この打席はストレートだけ狙うといったスタイルのバッターも厄介ですね。割り切るとバッターもリラックスしてしまう。それだと、こっちのペースにならないですから……。

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