(写真:東芝の重戦車ぶりは健在。愚直な押しでインゴールに何度も迫った)

 12日、ジャパンラグビートップリーグ2020シーズンが各地で開幕した。東京・秩父宮ラグビー場では2試合が行われ、東芝ブレイブルーパスがサントリーサンゴリアスを26-19、NTTコミュニケーションズシャイニングアークスが日野レッドドルフィンズを29-20で下した。昨年の王者・神戸製鋼コベルコスティーラーズは地元でキヤノンイーグルスを50-16で破った。

 

 その他の会場では、静岡・ヤマハスタジアムでヤマハ発動機ジュビロがトヨタ自動車ヴェルブリッツに競り勝ち、埼玉・熊谷ラグビー場ではパナソニック ワイルドナイツがクボタスピアーズに快勝した。

 

 府中ダービー制し、復活の第一歩

 

 全国6会場で8試合が行われた開幕節。W杯日本大会後のシーズン初戦とあって、観客動員数は5試合が1万人を超え、そのうち2試合は2万人以上だった。延べ11万6737人。秩父宮での府中ダービーには2万1564人が詰め掛けた。

 

(写真:W杯同様にリーチがボールを持つと場内から「リーチコール」があがった)

 東京・府中に本拠を置く東芝とサントリー。TLの優勝経験も豊富な名門同士の対決である。W杯日本大会の代表スコッドも多数在籍。東芝はジャパンのFLリーチ・マイケル、FL徳永祥尭とニュージーランド代表(オールブラックス)のFLマット・トッドだ。サントリーはジャパン勢がSH流大、FB松島幸太朗ら5人、加えてオーストラリア代表(ワラビーズ)のCTBサム・ケレビがいる。

 

 この日のスターティングメンバーには東芝のトッドがFL、リーチがNo.8で起用された。サントリーは流がSH、松島がFB、ケレビがCTB。そのほかにも東芝は元オールブラックスのCTBリチャード・カフイ、サントリーはワラビーズで100キャップを超えるSOマット・ギタウが出場。ナショナルレベルの選手が名を連ねた。

 

(写真:素早いパス出しで勝利に貢献した小川。HCも名前を挙げ、称えた)

 先制したのは東芝。前半8分、敵陣深くに攻め込んだ。PR三上正貴が身体を当て、前方にそびえる壁をはがす。そのスキを突き、FLシオネ・ラベマイがインゴールに潜り込んだ。SH小川高廣がコンバージョンキックを成功し、7点のリードを奪った。

 

 サントリーは20分にFL西川征克がトライを挙げた。ギタウのコンバージョンキックが決まり、追いついた。しかし西川はトライから9分後にピッチを去ることになる。敵陣で相手のディフェンスをはがそうとタックルを仕掛けるが、ラベマイの頭部をヒット。TMO(ビデオ判定)の結果、レフェリーから危険なプレーとしてレッドカードを掲示された。

 

 ボール奪取能力に優れた西川を失うこと、そして数的不利に陥るというサントリーには痛恨のペナルティーとなった。スクラムは7人で押し込まれる場面が目立つとWTBテビタ・リーを参加させるスクランブル体制を敷いた。しかし、東芝の圧力に耐えきれず、前半終了間際に小川にトライされた。

 

(写真:馬力のある突破など持ち味を遺憾なく発揮したケレビ)

 東芝5点リードで迎えた後半早々、サントリーはNo.8ショーン・マクマーンをピッチに送り出すため、ギタウを田村煕に代えた。ミルトン・ヘイグ監督は外国人枠を踏まえての策だったと説明。ワラビーズで26キャップを持つ男に「ボールキャリーもでき、ディフェンスにエナジーを与えてくれる」との役割を期待した。

 

 その効果は表れ、敵陣でプレーする時間が増えた。そして21分、流のパスを松島が「咄嗟の判断」で自らの股下を通すトリッキーなパスで繋ぐ。大外でボールを受けたリーがインゴール左隅を駆け抜けた。田村のコンバージョンキックは外れたものの、再びスコアをタイに戻した。

 

(写真:スクラム、ラインアウトと安定したセットプレーがチームを支えた)

 1人少ないサントリーの反撃を受けた東芝だったが、自慢の力勝負では負けなかった。FW陣が前線で身体をぶつけ、道を切り拓く。BK陣はテンポ良くパスを回し、インゴールへ突き進んだ。21分は敵陣でのスクラムから小川が左に展開。途中出場のCTB中尾隼太が飛ばしパスで大外へ送る。最後はWTB松岡久膳がインゴール左隅に飛び込んだ。小川のコンバージョンキックが決まり、リードを奪った。

 

 30分にはFWがじわりじわりと敵陣へと押し込む。リーチがインゴールへ飛び込もうと試みるも、ここは寸でのところで防がれた。それでも最後はボールを拾った三上がゴールポストの内側に滑り込むようにトライを奪った。小川のゴールで14点差に広げ、勝利を大きく手繰り寄せた。

 

 東芝はサントリーのケレビにトライを奪われ、田村のゴールで7点差に迫られたものの、26-19で勝利した。TL最多5度の優勝を誇る名門は2009-2010シーズン以来、頂点から遠ざかっている。近年は後塵を拝してきたサントリーとの府中ダービーを制したことは大きい。キャプテンの小川は「準備してきたことをチーム全員が信じ、23人が実行できた。今日がいいスタート。自分たちを信じて、次の試合も戦いたい」と語った。

 

(写真:厳しいマークに遭い、肩を痛めた流は後半途中でベンチに)

 サントリーは約50分もの間、14人で戦い抜いた。敗れはしたものの、7点差負けはボーナスポイント1点を獲得した。流は「満足はしていないが、1ポイント獲れたことは誇りに思う」と言う。1人少ないチームにおいて新加入のケレビは存在感が絶大だった。アタックでは大きくゲインし、守備では相手のトライを防ぐ好タックルを見せた。

 

 TLは今季15節120試合で観客動員60万人を目標に掲げている。W杯フィーバーを受けての開幕節は1試合平均1万4592人の“大入り”。素晴らしいスタートを切ったと言えよう。次週の第2節は東芝がNTTドコモレッドハリケーンズ、サントリーはNTTコミュニケーションズと対戦する。

 

(文・写真/杉浦泰介)