あの話は、どこへ行ったのか。昨年10月、日本シリーズで福岡ソフトバンクにスイープをくらった際の巨人・原辰徳監督の「セにもDH制を」発言である。「セ・リーグにはDH制がない。(セも)DH制を使うべきだろう。(パ・リーグに)相当、差をつけられている感じがある」。

 

 この発言に対する意見は賛否相半ばしたが、現場からの問題提起としてとらえるなら、一石を投じた意味は小さくなかったように思われる。

 

 ただしタイミングが悪かった。いや、悪過ぎた。スイープの直後だけに「負け犬の遠吠え」のような印象を抱いた者もいたのではないか。

 

 この10年に限っていえば、日本シリーズの戦績はパが9勝1敗とセを圧倒している。原監督が“パ高セ低”の原因をパにのみ存在するDH制に求めるのもわからないではない。

 

 しかし、海の向こうに目を向けると、ワールドシリーズのここ10年の戦績は、DH制のないナショナル・リーグがDH制のあるアメリカン・リーグに6勝4敗と勝ち越している。これを、どう説明するのか。

 

 私見を述べれば、せっかく2つのリーグが存在するのだから、2つの制度が併存してもいいような気がする。言うなればプロ野球版“一国二制度”である。

 

 豪快な野球という点ではDH制のあるパに軍配が上がるが、セには継投の妙に代表されるような緻密な野球が、まだ残っている。

 

 確かに世界の潮流を見ていると五輪にしろWBCにしろプレミア12にしろ、国際大会のほとんどでDH制が採用されている。しかし、だからと言って全て世界に“右に倣え”する必要はない。

 

 原監督の問題提起は前向きに受け止めるとして、ひとつ気になったのが、ファンの意見、世間の声である。「セにもDH制を」の支持率は、どうなのか。

 

 プロ野球には、国内にサッカーという強力なライバルがあり、昨年のW杯の成功により、ラグビーも上昇気流に乗りつつある。インドアではBリーグの進境が著しい

 つまり、DH制導入により、セの野球はこれだけ面白くなる。その際の最大の受益者は6球団のファン、そして観客ですよ、ということを具体的に説明し、支持を広げる必要がある。「パ・リーグに勝てない」だけでは、“自己都合改革”の域を出ない。次なるメッセージを待ちたい。

 

<この原稿は20年1月15日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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