(写真:タイプの違う2人のヘビー級スターは13日の会見でも激しい舌戦を繰り広げた Photo By Scott Kirkland/FOX Sports)

2月22日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ

 

王者

デオンテイ・ワイルダー(アメリカ/34歳/42勝(41KO)1分)

Vs.

挑戦者/元3団体統一王者

タイソン・フューリー(イギリス/31歳/27勝(19KO)1分)

 

 

 トップ2の対戦

 

 元統一王者のフューリーと、WBCタイトルを10度防衛してきたワイルダーが、第1戦から約14カ月の時を経て再戦する。ともにカラフルな無敗選手同士とあって、因縁のリマッチが盛り上がることは確実だ。米英対決の趣もあるだけに、“2002年のレノックス・ルイス(イギリス)対マイク・タイソン(アメリカ)戦以来最大のヘビー級戦”、という一部の見方も大袈裟ではないはずだ。

 

 両者は2018年12月にロサンゼルスで第1戦を行い、その際は三者三様のドロー。快調にアウトボクシングでポイントを稼いだフューリーを、2度のダウンを奪ったワイルダーが追い上げるというドラマチックな展開はファンを喜ばせた。その反響の大きさから、当初は即座の決着戦が話題になったが、新たにフューリーと契約したトップランクがさらなる盛り上げのために挙行を遅らせたという経緯がある。

 

 以降、ともに2戦2勝。多くの主要媒体の評価でもWBA、IBF、WBO王座を保持するアンソニー・ジョシュア(イギリス)を追い抜き、この両雄が現代ヘビー級のトップ2と目されるようにもなった(リングマガジンのランキングではフューリーが1位、ワイルダーが2位)。だとすれば、決着戦は良いタイミングで行われるのだろう。 

 

 ワイルダー有利なのか

 

(写真:技術面で欠点はあっても、圧倒的なパワーで豪快KOを連発するワイルダーの評価は徐々に高まっている Photo By Scott Kirkland/FOX Sports)

 現時点で、一般的にはワイルダー優位の予想が多いように思える。フューリーは昨年9月に無名のオットー・ワリン(スウェーデン)に判定勝ちしたものの、意外に苦戦。右目を激しくカットし、試合後に47針も縫うことを余儀なくされた。次戦に向けても古傷をかばいながらの調整が必要になりそうで、その面で不安があるのは確かだろう。

 

 一方、ワイルダーは昨年11月、実力者のルイス・オルティス(キューバ)との再戦で豪快な7回KO勝ちを飾っている。バーメイン・スティバーン(アメリカ)戦に続き、リマッチでの強さを見せつけたのはフューリー再戦に向けても好材料。右一発の破壊力は史上最高級と評されるようにもなり、今回もどこかでワイルダーの必殺パンチが炸裂すると考えるファン、関係者が多いのも理解できる。

 

 もっとも、ワイルダー対フューリーの第1戦では、フューリーがダウンを喫した9、12回以外、大半のラウンドで綺麗にアウトボクシングしていた。筆者も含め、フューリーが勝っていたと見たメディアがリングサイドに多かったことも忘れるべきではない。

 

 フューリーのサイズ、スキル、スピードはやはり脅威。ブランク明け3戦目で無理やり間に合わせた感があった第1戦時より、今回の方が体調も良好のはずだ。トレーナーをベン・デイビソンから名匠エマニュエル・スチュワードの甥でもあるジャバン・“シュガーヒル”・スチュワードに変更したことの影響が未知数だが、好調ならフューリーがワイルダーを再び空転させても不思議はない。他の多くのビッグファイトとは一線を画し、このように予想が難しいことも、この試合の魅力になっているのだろう。

 

 史上3度目のジョイントPPV

 

(写真:フューリーの流麗なアウトボクシングの攻略は容易ではない Photo By Scott Kirkland/FOX Sports)

 ボクシング界の範疇を超えた話題を呼びそうなリマッチでは、興行成績の行方にも注目が集まる。今戦はフューリーを抱えるトップランク、ワイルダーを傘下に置くPBCの共同プロモートで行われ、ケーブル局としては最大級の影響力を持つESPNと地上波FOXのジョイントPPVという形で放送される。

 

 2社共同でのPPV興行は、HBOとShowtimeが手を組んで開催されたルイス対タイソン、フロイド・メイウェザー(アメリカ)対マニー・パッキャオ(フィリピン)戦以来3度目。今回のヘビー級戦は米最大のスポーツイベントであるNFLスーパーボウルの2週間後に挙行され、FOX、ESPNはNFL中継の途中にも大々的なプロモーションを挟み込むとみられる。おかげで今戦の興行的な成功は有望。トップランクのボブ・アラム・プロモーターは「PPV売り上げ200万件も狙える」と豪語している。

 

 付け加えると、この試合にはリマッチ(=第3戦)条項があり、敗れた側が望めば、報酬分配こそ40/60と不利になるが、年内にも即座のラバーマッチが可能になるのだという。だとすれば、ワイルダー対フューリーはボクシング史上に残る人気ヘビー級シリーズの1つになる可能性を秘めているのだろう。

 

 今後への影響

 

(写真:ロサンゼルスのステイプルスセンターで行われた第1戦も大盛況だった。今回はベガスが舞台)

 ライバル社が手を組んで挙行するビッグイベントの成否は、未来にも影響を及ぼしかねない。トップランクとPBCがこれ以上親密になることはあり得ないとしても、2020年はDAZNが勝負をかけてくることが確実なだけに、対抗策として必要に応じて手を組むことは考えられる。

 

 ワイルダー対フューリーの2試合、テレンス・クロフォード(アメリカ)対PBC傘下のウェルター級選手であるショーン・ポーター、エロール・スペンス・ジュニア(ともにアメリカ)、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)対ジャーボンテ・デービス(アメリカ)戦など、トップランクとPBCの垣根を超えた魅力的なファイトは枚挙に暇がない。それらのマッチアップを可能にするには、ビジネス面で両サイドにメリットがなければならない。そういった意味で、FOXとESPNが初めて手を組む2月のリマッチは大事な試金石なのだ。

 

 ワイルダー、フューリーのスター性ゆえに、今回は興行面の成功にも楽観論が多いのは上記した通り。ただ、ワイルダー対オルティス戦のPPV購買数が20万台の売り上げという期待外れの数値に終わった後で、今戦の購買数も60~70万件あたりに止まっても不思議はないという声もちらほら聞こえてくる。そうした不安論を吹き飛ばし、サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)対ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)戦以来、久々にPPV100万件の壁を破って中継局を喜ばせられるか。それが叶えば、ファンをさらに喜ばせる提携ファイトが後に続く可能性がより大きくなるはずだ。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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