日本サッカー協会は13日、前日の理事会で日本代表監督として承認したヴァイッド・ハリルホジッチ氏と正式に契約を結んだ。この日、自宅のあるフランスから来日したハリルホジッチ新監督は都内ホテルで会見に臨み、「ここに来ることができてうれしい」と第一声を発した。目標は2018年ロシアW杯出場と、決勝トーナメント進出に設定。「日本代表で大きなことを成し遂げようと思っている」と意気込みを示した。
(写真:「コンニチハ」「アリガトウ」と日本語の挨拶も披露したハリルホジッチ新監督)
 会見の途中、新しい指揮官はA4サイズのノートを取り出した。
「このノートにはこれからやるべきことがたくさん書いてある」

 代表監督として打診を受けて2週間、ブラジルW杯、アジア杯の試合映像をすべてチェックし、日本サッカーを分析した。
「私は人物的にかなり要求が高い」
 ハリルホジッチ新監督の妥協を許さない姿勢が垣間見えたひとコマだった。

 代表ではコートジボワール、アルジェリアを率い、数々のクラブで実績をあげてきた。昨年11月、トルコのトラブゾンスポルの監督を辞任後、日本以外にも代表やクラブからいくつものオファーがあった。その中から、フランスから遠く離れた極東の国を選んだのはなぜか。

 それは日本人に「私のメンタリティに似たものを感じたから」と新監督は明かす。
「私がやってきたような同じような気持ちで働くことができる。厳しさ、規律、他人を尊敬すること、真面目さ、フットボール界において大事なものを兼ね備えている」

 昨年のブラジルW杯、ハリルホジッチ監督はアルジェリア代表を初のベスト16に導いた。一方、日本はグループリーグを1分2敗で敗退した。1月のアジア杯もべスト8止まりで、FIFAランキングは53位に下がっている。

 だが、新指揮官は「彼らは復活するのに十分なクオリティを持っている」とみる。
「私がアルジェリアに来た時は(FIFAランキングが)52位だった。アルジェリア代表では3年、仕事をして17位になった。私は確信している。日本代表もそれと同じことができると」

 日本を再び上昇気流に乗せる上で、まず必要なもの。それは「自信」とハリルホジッチ監督はとらえている。
「何人かの選手は自信を失っているように見える。数年前はもっといい選手だと思っていた。そのためには、勇気づけることが必要だ。私の仕事は彼を勇気づけること、自信をつけること、喜びを持つことだ。彼らがいいプレーをしたということを忘れてはいけない」
 
 新監督は選手たちと個別に対話をしたい意向だ。就任後、初采配を振るう月末のチュニジア戦(27日、大分)、ウズベキスタン戦(31日、東京)では「ケガをしている選手もいるが、その選手とも会って私の哲学、仕事の仕方を伝えたい」と負傷離脱しているDF内田篤人(シャルケ)やDF長友佑都(インテル)も招集する。

 元ストライカーだったこともあり、志向するスタイルは攻撃的だ。
「どんどんビルドアップして前に行ってほしいし、オフェンスにたくさんの選手をかけていきたい」
 理想を体現するためのポイントとして指揮官は「スピードアップの向上」をあげる。「ボールタッチ数を制限していきたい。ワンタッチ、ツータッチを多く使っていきたい」と、その具体的な方法論も提示した。
 
「私がまず口にする一言目は“勝利”だ」
 新しいリーダーは会見中、「勝利」という言葉を何度も発した。初陣となる3月の2試合は「絶対に勝利しないといけない」と言い切った。

 注目のメンバー選考は「まだ、それほど代表のこと知っているわけではない」と前置きし、「リストは、これまでと同じようになるかもしれない」と語った。ただ、「メンバーは毎回変わってしまうかもしれない。今のところ確定しているメンバーはいない。スターティングメンバーも決まっていない。まずはプレーしてもらう。国内にいる選手も国外にいる選手もそう」と強調したように、独自色が徐々に出てきそうだ。

 ロシアW杯予選のスタートまでは3カ月。会見に同席した日本サッカー協会の大仁邦彌会長が「あまり時間のない中でのスタート」と認めるように、チームづくりの期間は長くとれない。指揮を執るには決して良い状況ではないことを踏まえ、ハリルホジッチ新監督は「少し時間がほしい」とメディアやファンに要望した。
(写真:大仁会長(左)は「勇将の下に弱卒なし」と期待を寄せる。右は霜田技術委員長)

「私も初めて(コートジボワールで)代表チームを持ったときに同じようなシチュエーションで仕事をしていた。すぐに成功したわけではない。ただ時間をもらって、辛抱強く見ていただければ良い仕事をして良い結果を出したい」

 週末は早速、Jリーグを視察し、初仕事を行う。
「能力が高い若い選手がたくさんいると聞いている。できるだけたくさんの選手に可能性を与えたい」
 手にしたノートには、これからどんな内容が書き加えられていくのか。そして、指揮官の指摘する「やるべきこと」をどこまで選手たちが実践できるのか。身振り手振りを交えながら1時間にわたって所信表明した新しい指導者に日本の命運は託された。

(石田洋之)