キャンプインが近づき、プロ野球は来たるべきシーズンに向け本格的に動き始めました。年明け早々には新人選手の入寮や自主トレがニュースになりました。中でも高校生史上最速163キロの右腕・佐々木朗希投手(千葉ロッテドラフト1位)の注目度は桁違いです。1月上旬、マリーンズ寮に入った佐々木投手、新聞記者とのやり取りから彼のマジメな性格がうかがえました。当サイト編集長・二宮清純は連載コラム「スポーツの嵐」(週刊漫画ゴラク)でこう書いています。


<高校生史上最速の163キロを誇るドラフト1位ルーキー佐々木朗希(大船渡・岩手)が1月8日、さいたま市内のマリーンズ寮に入寮した。
 --年末年始は?
 との記者の質問に「毎日家にいて、練習していました」と詰襟の学生服姿で答えたという。絵に描いたような優等生だ。
「もう“門限破り”なんて言葉は死語なんだろうね。昔は寮を抜け出すヤツばっかりだったんだけど……」
 旧知の記者がボソッとつぶやいた。ヤンチャな選手はどこへ行ってしまったのか。>(週刊漫画ゴラク20年2月7日号)

 

 まさか佐々木投手に門限破りを勧めるわけではありませんが、振り返れば昭和の時代は今よりも豪放磊落、型破りの選手が多かった印象です。今回はそんな昭和プロ野球のエピソードを紹介しましょう。

 

 まずはデーブこと大久保博元さんです。デーブさんは1985年、水戸商(茨城)からドラフト1位で西武に入団しました。当時の西武の監督は広岡達朗さん。管理野球で知られ、当然、門限にも厳しい指揮官でした。デーブさんはこう振り返ります。

 

「西武はめちゃくちゃ門限も含めていろいろと規律が厳しかった。チームで刑務所に慰問にいったときに誰かがつぶやきましたよ。『もしかしてここにいる人たちより、オレたちの方が厳しいんじゃないのか?』って(笑)」

 

 デーブさんは続けます。
「あるときギリギリに宿舎に帰ったら、入り口の前にタクシーが止まっていたんです。『門限だからみんな帰ってきてるなー』と思っていたら、そのタクシーから広岡達朗監督以下、首脳陣がゾロゾロと出てきた。門限は過ぎていないから正面から僕らも入ればいいのに、先輩選手たちが監督と顔を合わせたくないのか『裏から入ろう』って。それで裏から入ったら階段のところで見つかった。コーチに『なにしとるんだ、コラ!』と言われて、パッと時計を見たら門限を過ぎていた。それで外出禁止ですよ。こんなことなら正面から入っておけばよかったなー、って(笑)」

 

 門限破りのペナルティは外出禁止の他にも、各チーム様々なものがありました。巨人、西武、中日などでユーティリティプレーヤーとして活躍した鈴木康友さんは、巨人時代のペナルティについてこう語っていました。

 

「門限破りが見つかると寮長室に呼び出されてお説教でした。当時の寮長・武宮敏明さんがそれは厳しい人で、竹刀でバチーンとぶっ叩かれるんですよ。それプラス、外出禁止や草むしり、さらに反省文も書かされました。『私は巨人軍選手として恥ずかしくない行動をとることを誓います。東京読売巨人軍・鈴木康友』と。これをノートに毎日100回書かされるんです。でも慣れてくるとこっちも手を抜くことを覚えるから、『私は私は私は』ってバーっと書いて、次に『巨人軍巨人軍巨人軍』とバーっと書く。一文一文マジメに書くよりも楽なんです。でも武宮さんもお見通しですよ。あるとき『途中でいいから見せろ』と言われて、『私は巨人軍』とだけいっぱい書いてあるノートを見せたら、武宮さんも苦笑いしてましたね(笑)」

 

 さて再びデーブさんです。

「僕が2軍の試合で4番を任されたのに不甲斐ないバッティングをしたことがあった。つまんない内野ゴロとか打っちゃって……。そうしたら当時の打撃コーチ・土井正博さんにめちゃくちゃ怒られて、そのまま練習場に連れていかれ、マシン相手に10時間とか練習させられました。飯も抜きだから、もうフラフラですよ。それで寮に帰ってぶっ倒れていたら、土井さんがやって来て『あんだけ練習したのに、なんで部屋にいるんだ! どっか遊びに行ってこい』って」

 

 まさかの夜遊びの勧めです。デーブさんの話は続きます。
「こっちはクタクタですけど、土井さんは真剣です。『次に見回って部屋にいたら罰金だ。門限とか気にせず遊んで来い!』って。もうメチャクチャですよね(笑)」

 

 さて、コーチに言われるまま遊びに出たデーブさん、その後どうなったのでしょう?
「何軒か知っているスナックがあったから、まず食事のうまいお店でゴハンを食べさせてもらって、その後は歌ったり。それで息抜きできたのか、生き返った気分になりました。翌日、練習に行ったら、土井さんがこう言うんですよ。『お前、昨日遊びに行っただろ! 今日は死ぬ気で練習せい、覚悟しとけよ」って。いやいや、行けって言ったの土井さんでしょー、って(笑)。これウソのようなホントの話ですからね」

 

 プロ野球の世界でも昭和は遠くになりにけり、です。

 

 

 

(文/SC編集部・西崎)


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