四国アイランドリーグplusは今年で創設から丸10年となる。若手の育成を大きな柱に掲げたリーグからは、これまで44名の選手がドラフト会議で指名を受け、NPB入りを果たした。
 そんな中、昨季、独立リーグ史上最高位となるドラフト2位で中日入りした又吉克樹(元香川)はリーグ2位の65試合に登板。9勝(1敗2セーブ)をあげ、新人王を争う活躍をみせた。この3月にはリーグ出身者では角中勝也(千葉ロッテ)に続いて2人目となる侍ジャパン選出も果たした。今季はセットアッパーとしてフル回転が期待されるサイド右腕の今を追った。
(写真:ピッチングのみならず、昨季は打っても4打数3安打だった)
 9勝よりも1敗の悔しさを糧に――又吉克樹

 少し大きめのユニホームが初々しさを物語っていた。
 3月10日の侍ジャパン−欧州代表。初めて代表に選ばれた又吉は8回に4番手でマウンドに上がった。スコアは1−3と2点のビハインド。だが、ゆったりとしたモーションからユニホームをなびかせながら右腕を鋭く振り抜き、わずか9球で相手の中軸を三者凡退に切ってとる。

 この好投に刺激されたのか、侍ジャパンはその裏、チャンスに3連打で3点を奪い、試合をひっくり返す。逆転勝ちで代表デビュー戦での白星が転がり込んできた。
「又吉が完璧に抑えて流れが日本に来た」
 小久保裕紀監督も絶賛する内容で、翌日のスポーツ紙には“勝利を呼ぶ男”との見出しが躍った。

 ルーキーイヤーの昨季は中継ぎながら9勝。又吉が投げるとチームが勝つ。そんなムードができていた。白星を次々とかっさらっていくことから、友利結投手コーチに「怪盗ルパン」とニックネームをつけられた。

「勝ち運があるとか周りが言っているだけで、僕は何も持っていませんよ(笑)。ただ、そう思って使ってもらえるなら、ありがたいですね」
  
“怪盗”といっても、先発や前に投げていた投手の白星を盗んだことは1度もない。9勝はすべてビハインドか同点の場面で投げ、味方が得点をあげて手にしたものだ。それだけに、この勝ち星には価値がある。

 だが、背番号16の胸の中には、9勝をあげたことより、1敗を喫した悔しさのほうが強く残っている。
 それは7月5日、東京ドームでの巨人戦だった。6−6のタイスコアで迎えた延長10回のマウンドを託されたものの、先頭の鈴木尚広をストレートの四球で歩かせてしまう。

「完全にボールが抜けていた。いつもと感覚が全然違ったんです」
 送りバントで二塁に進められ、続く長野久義にも3ボール。ストライクを取りにいったスライダーを左中間に弾き返された。あっけない幕切れのサヨナラ負けだった。

「調子が悪い時に何をすべきか。それを考えないままに投げ続けてチームに迷惑をかけてしまいました……」
 あの場面、一塁は空いていた。長野が積極的なバッターであることを考慮すれば無理に勝負する必要はなかった。次のバッターは阿部慎之助だったとはいえ、最悪の場合、もう1人歩かせて満塁策をとっても良かった。その間にピッチングの修正点を見つけ、局面を打開できたかもしれない。

「やることをやった上でのサヨナラ負けなら仕方ない。でも、なんで、あそこで勝負にこだわったのか。全く状況を整理して投げられていなかった。この試合は昨年、一番反省しています」
 
 サイドから繰り出す速球、スライダーを武器に中継ぎで開幕1軍を勝ちとり、4月17日の横浜DeNA戦では味方の逆転サヨナラ勝ちで早くもウイニングボールを手にした。ただ、4月、5月は制球に苦しむ登板もあり、2度の2軍落ちを経験する。
「そこで、もう一度、又吉を上げようと首脳陣の方が思っていただいたことに感謝したいです。そして、這い上がってチャンスをモノにできたことは大きかったと考えています」

 2度目のファーム行きで、右腕は自分の武器をもう一度見つめ直した。「少々、荒れ球でも大胆に行くのが持ち味」。結果を恐れず、腕をしっかり振って投げることに集中した。腕が振れれば、いいボールは自ずといく。いいボールがいけば、結果は自ずとついてくる。結果が出れば、それが自信となり、一層、腕が振れる。

「それまでは変化球の曲がりとかコントロールとか、いろいろ考えすぎていました。シンプルに強いボールを投げる。それだけに集中しました」
 再々昇格を果たした6月以降、徐々に又吉のサイドスローは凄みを増していった。

 7月から8月にかけては17試合連続無失点。9月には11試合連続で相手に得点を与えなかった。課題とされてきた左バッターに対しても、インコースをズバッと突き、空振りや凡打に仕留めるシーンが増えた。奪三振率はリーグトップ(投球回50イニング以上)の11.51(104個)。浅尾拓也の不調、抑えの岩瀬仁紀の故障でチームの台所事情が苦しい中、同学年の福谷浩司とともにブルペンを支えた。

「特に9月はやりたいことと実際にやっていることとが近づいてきて、腕を振り切れていたと思います」
 9月11日のマツダスタジアムでの広島戦では、1点リードの7回1死満塁という窮地で登場し、連続三振。見事な火消しをみせた。最初の代打・松山竜平に対しては「勢いで行こう」と追い込んで即勝負で3球三振に仕留めた。続く梵英心にはボールが先行してカウントは不利だったが、ファウルを打たせて、フルカウントに持ち込む。「2ストライク3ボールまで自分が持ってきた感覚だったので大丈夫」と動じることなく、アウトコースの直球でバットに空を切らせた。

 その瞬間、フィギュアスケーターなみにジャンプしてクルリと一回転しながらのガッツポーズ。派手なアクションが話題になった。
「自然と出てしまいましたね。7月の(1敗の)反省を生かせたことがうれしかったんです」
 敗戦を糧に成長したルーキーの姿がそこにはあった。

 もうひとつ、本人が印象に残っているのは9月21日、甲子園での阪神戦。同点の7回、1死一、二塁の場面でリリーフした又吉は最初の新井貴浩から三振でアウトを奪ったものの、続く西岡剛には四球を与える。一見すれば、満塁の大ピンチ。しかし、ここには冷静な計算があった。
「次は(代打の)関本(賢太郎)さんが出てきて右(バッター)になる。敢えて勝負する必要はないと思っていました」
 落ち着いて関本をフルカウントから緩いスライダーで空振り三振。虎党で埋まったスタンドに大きな溜息をつかせた。 

 登板を重ねるごとに安定感を増し、チームを勝利に導く快投を可能にした要因はどこにあるのか。先述したように「僕は何も持っていないですよ」と笑う又吉だが、確実に持っているものがある。それは人一倍のハングリー精神だ。

 1軍で結果が出ても試行錯誤を重ね、長いシーズンの間にフォームをマイナーチェンジしてきた。たとえば、8月中頃からはセットに入る前にスッと腕を上げて回す動作を取り入れた。
「思いつきで始めたんですけど、腕の位置を戻して次の1球を投げようというイメージでやっています。このルーティンにしてうまくいくようになったので続けることにしました」

 投げ切った後も、当初は「しっかり体を回転させて腕を振ろう」と意識していたため、一塁側に跳ねていた。だが、「一瞬で力を爆発させる」ことを考え、三塁側前方へポン、ポンと躍動するようにした。

「これができている時は、しっかり我慢して、ボールを弾けている状態ですね。自然とそうなるので体にも負担がかからない投げ方だと思っています。実際、前半は体の左側が張ったりすることもありましたが、それが一切なくなりましたから」

 さらにオフにはドミニカ共和国でのウインターリーグにも参加。17試合に登板して腕を磨いた。現地ではマニー・ラミレス、ペドロ・マルチネスら元メジャーリーガーの大物に会った。レベルアップを図る同世代の若手選手からも刺激を受けた。
「アイランドリーグ時代の気持ちを思い出させてくれました。同年代にも100マイル(160キロ)以上投げるピッチャーがたくさんいました」
 
 日本とは異なり、1球1球、質も異なる試合球に適応しながら、コンスタントに強いボールを投げるにはどうすればよいか。これをテーマに投げていくうちに、自身の伸びしろも実感した。
「自分の目で確かめたわけではないのですが、ある試合で“(自己最速の)152キロが出てたぞ”と言われました。球速なんてもう伸びないと諦めてしまうのは間違いかもしれないと気づかされましたね」

 オフの年俸は840万円から4000万円に大幅アップ。四国で投げていた2年前と比較すれば、給料は約50倍だ。今季はセットアッパーとして開幕から勝利の方程式の一角を担う。オープン戦では登板7試合すべてでゼロを連ね、順調な仕上がりだ。
「去年の成績以上を求められている。プロとして評価されている分の働きはしっかりしたい」
 2年目の開幕を前に、きっぱりと決意を口にした。

 大学やアイランドリーグでは先発がメインだったが、中日では「中継ぎを極めたい」と明かす。現在の理想は東京ヤクルトに在籍した林昌勇だ。サイドから150キロ超の速球と、キレのあるスライダーを投げ込み、日本でも5年で128セーブをあげた。

「ああいうタイプは日本ではなかなかいない。欲を言えば、プラスしてオリックスの比嘉(幹貴)さんみたいなシュートが投げられるのが理想ですね。右バッターの懐を突くだけでなく、左にも外へ逃げていくボールとして有効だと思っています」

 ただし、「新しいボールを覚えて、肝心のストレートの速度が落ちたり、スライダーが今までよりキレがなくなるなら意味がない。岩瀬さんならスライダー、浅尾さんならフォークがあるように、“これ”という球種を突き詰めていくことも必要になってくる」と自らの軸はブレていない。

「中日にはいい先輩のピッチャーが多い。去年はたまたま任されただけ。岩瀬さん、浅尾さんを追いかけて、1年目と同じようにアピールしないといけない立場だと思っています。2年、3年続けて結果を出さないと意味がない。今年こそ勝負の1年になると考えています」

 貪欲――それが今季のテーマだ。侍ジャパンでも「他チームの選手がどんなことに意識して準備しているかヒントにしたい」と積極的に交流を図った。白星のみならず、一流選手からさまざまなものを盗み出した“怪盗ルパン”が、颯爽と他球団の包囲網をくぐり抜け、今季も勝利につながる場面でアウトを重ねていく。

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(石田洋之)