四国アイランドリーグplusは今年で創設から丸10年となる。若手の育成を大きな柱に掲げたリーグからは、これまで44名の選手がドラフト会議で指名を受け、NPB入りを果たした。今季は8選手が1軍でシーズン開幕を迎える。
 中でも、プロ4年目にして初の開幕1軍を勝ち取ったのが中日の内野手・亀澤恭平だ。2012年、香川から福岡ソフトバンクに育成選手として入団。3年間の在籍時に支配下昇格はならなかったが、俊足好守が認められ、中日で支配下選手として契約を結んだ。ついにスタートラインに立った26歳の今を追った。
(写真:オープン戦では同学年の楽天・入野(元徳島)からヒット。アイランドリーグ対決を制した)
自分色に染めて1軍定着――亀澤恭平

「気持ちはいつもと変わらないです。でも、ワクワクしていますね」
 開幕を目前に控え、背番号53は率直な心境を口にした。

 キャンプは2軍スタートも、アンダーソン・エルナンデスが腰を痛め、途中から1軍の練習に合流。オープン戦でも限られた出場機会ながら、ショート、セカンドをそつなくこなし、代走でも起用された。打撃も16打数4安打と1軍で通用するところを示した。内野の控え、代走要員としての開幕1軍入りだ。

「1軍のピッチャーのボールも見られましたし、緊張感のある中で代走にも出られました。1軍の雰囲気をつかめたことが大きいですね。シーズンに入っても、この経験を生かして頑張りたいです」
 
 ソフトバンクでは育成選手ながら、2年目には1軍のオープン戦でも出場。2軍では打率.310を残した。昨季はウエスタンリーグ最多の106試合に出て、2軍ではチームに欠かせない内野の要だった。

 だが、ソフトバンクは言わずと知れた選手層の厚い球団である。特に内野はセカンドに本多雄一、サードに松田宣浩、ショートに今宮健太と押しも押されもせぬレギュラーがどっかりと座っていた。控えにも明石健志、金子圭輔と走れて守れるタイプがいる。 

「2年目くらいから支配下登録は難しいと感じていました」
 どうすることもできない高い壁……普通なら心が折れそうな状況を支えたものは何だったのか。
「ソフトバンクの2軍戦は他チームの編成が多く視察に来る。僕を見ているかどうかは別にして、アピールしなきゃいけないと思っていました」

 育成選手は入団から3年経つと規定により、自由契約となる。そのタイミングで獲得に乗り出す球団が現れることを信じ、174センチと決して大きくはない体で目いっぱいハッスルした。

 目立つためだったら、何だってやった。セカンド、サード、ショート、守れるところはどこでも守った。走塁面でもヘッドスライディングを連発。それはいつしか、“亀ヘッド”と名付けられるほどになった。

「本当はホークスのファームではケガ防止で、ヘッドスライディングは禁止という決まりがあったんです。でも、それでは僕の取り柄がなくなる。監督に直訴して、僕だけは特別にOKをもらいました(笑)」

 内野手を補強したい中日から声がかかったのは秋のみやざきフェニックスリーグ後だった。宮崎での巨人2軍との練習試合中、いきなりベンチ裏に呼び出された。
「中日から話が来ている。オマエとは(育成で)再契約するつもりだったが、行くか?」
「ちょっと待ってください。今、試合中ですよ。明日にできませんか」
「向こうも都合があるんだ。今、ここで決めてくれ」

 オファーを断る理由は何もない。
「わかりました。行きます」
 荷物をまとめ、名古屋へ。中日の秋季キャンプにテスト生として参加し、正式に契約を結んだ。

 新天地でもスタイルは変えていない。亀澤曰く「まじめな印象」というチームを「お祭りみたいに盛り上げたい」と意気込む。入団会見では「野獣のような走塁を見てほしい」と言葉でアピール。サインはトレードマークの亀のイラスト入りだ。北谷キャンプ中の練習試合でもヘッドスライディングをみせ、内野安打をもぎとった。

「誰かのコピーをしても自分とは違うから、結局は合わない。プロとして自分の色をつくりたいんです。誰かを目指したり、誰かに似ていると言われるのではなく、自分のスタイルをつくりたいと考えています」

 色を出すといっても、1軍実績は全くのゼロだ。言動で目立っても、プレーで目立たなくては文字通りの“色物”で終わってしまう。走攻守をいずれも1軍クラスに高めていくことが次のステップになる。

 打撃は名古屋に来て、フォーム改造に着手した。ソフトバンク時代は足を生かすべく、三遊間にゴロを転がすことを意識していた。だが、谷繁元信兼任監督や佐伯貴弘2軍監督から「サードゴロやショートゴロでもアウトになる時はアウトになる。もっと振り切る練習をしたほうがいい」と指摘を受けた。当てに行くのではなく、インパクトからフォロースルーを大きくとり、一、二塁間も鋭く破る。フェアグラウンドの90度の中へ広角に打ち返せるバッターを目指している。

 内野守備も8度のゴールデングラブ賞を誇る辻発彦内野守備走塁コーチより、捕球の仕方から手ほどきを受けた。また名手の荒木雅博にもアドバイスを求め、極意を吸収している。走塁も「塁に出たら盗塁を狙いたい」と貪欲だ。
 
 試合に出れば、何かやってくれる――ファンの視線を釘付けにする存在を26歳は理想に掲げる。
「まずはベンチに置いておきたいと思われることが大切。与えられたポジションで役割を果たすことで、1軍に残っていけるのではないかと思っています」
 
 セットアッパーで侍ジャパンにも選ばれた又吉克樹(元香川)は環太平洋大時代の後輩だ。実は進路を迷っていたサイド右腕に、アイランドリーグ入りを勧めたのが亀澤だった。
「1年でプロに行きたいなら、独立リーグだと話をしました。まさか、また一緒のチームになれるとは思いませんでしたけどね(笑)」

 又吉のように1年で鮮やかな色彩を放つ選手もいれば、徐々に色みを増していく選手もいる。果たして亀澤は何色を出せるのか。グラウンドは縦横無尽に描ける大きなキャンバスである。

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(石田洋之)