第289回 吉田豊彦監督(高知)「ドッグスの活躍で高知の野球熱をさらに高めたい」
今季の四国アイランドリーグplusは3チームで新監督が指揮を執る。高知ファイティングドッグスを率いるのは投手コーチから”昇格”した吉田豊彦監督だ。コーチとして8年間、高知投手陣の指導と育成を担った。その経験を基に2009年以来のリーグ優勝と独立リーグ日本一を目指す。NPBで多くの名将・智将の下でプレーした吉田新監督が目指す野球とは? シーズンインを前に話を聞いた。
全員が同じ方向を見る
監督に就任してから頭も胃も痛いオフを過ごしました(笑)。高知で投手コーチを8年間務めましたが、やはりそのときとは違うプレッシャーを感じています。当然、職務に違いはあるのですがそこはあえて意識しないようにしています。コーチと違って全権を持つわけですから、とてもやりがいを感じているのは確かです。これまでの経験をいかし、いい意味で好きにやっていこうと思っています。
最初、コーチとしてアイランドリーグに来たときには、それまで漠然と思っていた独立リーグのイメージとの間にギャップがあり驚きました。外から見ているときは野球に対する取り組み方がシビアだと思っていましたが、意外とゆるいんだな、と。これは独立には「上を目指す選手」から「野球が好きで続けている選手」までいろいろなタイプがいるのが要因でしょう。高卒1年目、大卒1年目というルーキーから、卒業後1年や2年のブランクを挟んで入った選手、さらに一度挫折して野球をやめたものの再始動した選手もいる。
各自がいろんな方向を向いているのが独立リーグなのですが、それを同じ方向に向かせるのが指導者の役目です。そのために新監督としてコミュニケーションを密にとり、選手個々のことを把握することが重要です。今季、選手の大半が入れ替わっているのでチーム力の把握という意味でもコミュニケーションは重要ですね。
高知という土地は福岡ダイエー(現ソフトバンク)や阪神の時代にキャンプなどで来ていたので馴染みの場所です。環境も気候も良いし、何よりも野球熱が高い。高校野球やプロ野球のキャンプを長年見ているから目の肥えたファンが多い印象です。そういうファンの方々がファイティングドッグスを応援してくれるのはとても心強いですね。
2009年から優勝から遠ざかり、そこで引き受けた新監督ですからある意味で開き直っています。「やるしかない」という感じですよ。今季は定岡智秋さんが、ヘッドコーチとして高知に復帰するのも朗報です。13年以来、7年ぶりですか。定岡ヘッドからアドバイスを受けながら、勝てるチームにしたい。そして高知らしい「高知カラー」を出していきたいですね。うちの選手は気持ちの優しい子が多いので、それをいかに発奮させるか。それもこちらの腕の見せ所です。
私は現役時代、南海の杉浦忠さんから始まって、ダイエーで田淵幸一さん、根本陸夫さん、王貞治さん。阪神では吉田義男さん、野村克也さん。近鉄で梨田昌孝さん。東北楽天で田尾安志さん、野村さん、(マーティー)ブラウンさん、星野仙一さんと、多くの監督の下でプレーしてきました。どの監督にもカラーがあって、「誰々のような野球をする」と一言ではとても言えません。
緻密な野球といえば野村さんだし、梨田さんは選手を乗せるムード作りがとてもうまかった。そして星野さんは気持ちの面で、一喝でチームの雰囲気を変える力がありました。それを踏まえて、じゃあ吉田豊彦カラーはどうなるのか? 負けず嫌いな面があるので、時には厳しく鬼にもなって選手を育てるのが目標です。
高知はここ10年近く、NPBのドラフト指名なしの状況が続いています。それも変えていきたいし、そのためには選手本人の思っていることと、外からの見てのギャップを埋める必要があります。個々のイメージする理想と実像とのズレをどう修正するか。そうやってひとりでも多くNPBへ輩出したい。選手には「失敗してもいいから自分の良いところをアピールしろ」とアドバイスします。「高知に行けばNPBに行ける」となるように、今季は高知が新しくなるきっかけ、そういうシーズンにしたいと考えています。
ずっと応援していただいているファンのためにも、強いファイティングドッグスをお見せしたいですね。新監督の下、頑張る選手たちに今季も熱い声援をお願いいたします。
<吉田豊彦(よしだ・とよひこ)プロフィール>高知ファイティングドッグス監督
1966年9月4日、大分県出身。国東高(大分)のエースとして活躍し、卒業後は社会人野球の本田技研熊本に進んだ。都市対抗には補強選手(ニコニコドー)として87年に出場。同年秋、南海(現福岡ソフトバンク)からドラフト1位指名を受け入団。89年、92年、94年と二桁勝利をあげチームに貢献。98年途中に金銭トレードで阪神へ移籍し、先発と中継ぎを務めた。01年オフ、戦力外通告を受け、近鉄にテストを経て入団。02年、42試合に登板し、キャリアハイの防御率2.10をマーク。04年11月、新球団・東北楽天へ分配ドラフトで移籍。07年9月に引退表明。引退後は楽天で2軍コーチを務め、12年から高知ファイティングドッグスの投手コーチに就任。20年から監督として高知の指揮を執る。プロ通算20年で619試合に登板、通算81勝102敗17セーブ、23ホールド。左投左打。オールスター出場3回。
(取材・文/SC編集部・西崎)