外国選手名のカタカナ表記は難しい。Edbergはエドバーグなのかエドベリなのか。なぜSolskjaerはスールシャールなのに、Elkjaerはエルケーアなのか。ちなみにスールシャールはソルスケアと表記されることもあって、これではもう、完全な別人である。

 

 W杯ロシア大会で世界的スターとなったフランス代表のストライカーも、日本では表記が分かれている。ムバッペかエムバペか。本人に言わせると「エンバペ」が一番正しい発音だそうだが、いまのところ、日本での表記が統一される気配はない。

 

 正直、日本語にはない発音を強引にカタカナに変換すること自体に無理があるわけで、セビリアだろうがセビージャだろうが、カニーヒアだろうが、カニージャだろうが、大した問題ではない気もするが、専門誌の記者時代も、テレビのコメンテーターをさせていただくようになってからも、一定数のお叱りというか、クレームを受けることはあった。

 

 なので、またまた大変な選手が出てきたなと思う。

 

 Erling Haaland。昨年までザルツブルクで南野とチームメートだった、いまはドルトムントに所属する19歳のノルウェー人ストライカーである。メディアによってはハーランドと書くところもあれば、ホーランドとしているところもある。ちなみに、本人曰くオーランが一番正しい発音らしい。

 

 リーズでプレーした父親を持つこの選手、いまはちょっと手のつけられない状態にある。

 

 ドルトムントに移籍して最初の試合で、ブンデスリーガ史上初めて、交代出場でのデビュー戦ハットトリックを達成したかと思えば、わずか7試合で10ゴールを叩き出す。強敵パリSGと対戦した欧州CLの決勝トーナメント1回戦では、チームを勝利に導く2ゴール。

 

 特に、同点とされてから決めた2点目は「え、そこからその体勢でそのシュートですか」としか言いようのない驚愕の一撃で、チラホラと聞かれ始めていた「怪物」という声は、一気に定着するかもしれない。

 

 ここではひとまずハーランドと表記させてもらうが、確かにこの19歳、過去のどんな名選手ともタイプが違う。ファンバステンはもっとエレガントだったし、ブラジルの怪物ロナウドはストライカーであると同時に10番の仕事ができる選手でもあった。イメージ的に一番近いのはイブラヒモビッチなのだが、ハーランドはより単純に強化されたというか、点をとることのみに特化した感がある。

 

 特筆すべきは、そのリトルゴールの多さだろう。傍からみれば至って簡単なゴールを、しかし確実に量産していくタイプは、体格や運動能力に恵まれないストライカーが行き着く境地でもあるのだが、ハーランドは巨躯の持ち主でありながら、「シーフ(盗人)」と言われるタイプの選手と同じ嗅覚を持っている。言ってみれば、パワーと高さ、強さに恵まれたスキラッチ、佐藤寿人が出現したようなものである。

 

 歴史上、ノルウェーのサッカーが世界の主役となったことはないが、これまでの常識は覆るかもしれない。あまりにも楽しみな、若き怪物の出現である。

 

<この原稿は20年2月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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