勝ったチームはいじるな、という格言がある。誰が、いつ言い出したかは定かではないが、「Never change a winning team」という英語の表現もあるようだから、全世界に広く行き渡った格言ではあるらしい。

 

 だが、20世紀の最終盤に入ったあたりから、この格言が少しずつ通用しない状況が生まれてきた気がする。

 

 1試合単位で見るならば、格言は依然健在である。だが、欧州サッカーを1シーズンというスパンで捉えると、見方が変わってくる。

 

 近年の欧州をリードしてきたジャイアントクラブたちは、勝ったチーム、タイトルを獲ったチームを当たり前のように改造する。超大物を引っこ抜くこともあれば、期待の若手を抜擢することもある。

 

 かつて欧州チャンピオンズカップを3連覇したアヤックスやバイエルンは、主力にほとんど変動のないまま結果を残したが、いまやそんなチームは存在しない。こと欧州のクラブに関する限り、勝ったチームはいじらなければ勝てない時代になっている。

 

 理由はわからないでもない。飛び交う情報の量が激増し、どんなチームであっても丸裸にされる時代である。昨年は通用したやり方が、今年は封じられることも考えられる。勝ったチームが勝ち続けるためには、昨年はなかった新しい何かを加えるしかない。

 

 まして、勝ったチームとの対戦は、勝てなかったチームのモチベーションを大いに刺激する。リーグの優勝などハナから考えていないチームであっても、勝ったチームには目の色を変えて向かってくる。追われる側からすると、相当に激しい戦いが続く。

 

 9人連続でPK失敗という大椿事ばかりが注目を集めてしまったが、先週のゼロックス杯は素晴らしい試合だった。3度追いつかれても崩れなかった神戸には天皇杯制覇による自信を感じたし、3度追いついた横浜の攻撃力には、正直、舌を巻いた。前年度のリーグ覇者は、今年も強い。

 

 ただし、連覇への道は簡単なものではない。

 

 昨年の今頃、横浜を優勝候補とみる専門家はほとんどいなかった。戦う相手からしても、2連覇中だった川崎Fや、スーパースターを揃えた神戸とやる時ほどには、モチベーションを刺激される存在ではなかったはずだ。

 

 今年は違う。すべての対戦相手が、最大限の敬意と闘争心を胸にぶつかってくる。負けないことを前提に挑んでくる相手もいるだろう。マスコミは、横浜が勝ったこと以上に負けたことを大きく報じるようにもなる。待ち受けているのは、昨年以上に厳しい戦いだ。

 

 ちなみに昨年、横浜と対戦したチームは、その翌節、17勝4分け12敗という成績だった。これが神戸戦の翌節となると12勝6分け14敗。サッカーでは「大一番のあとには落とし穴がある」という格言もあるが、より大きな穴を与えていたのは神戸の方だった。

 

 横浜にとっては昨年とはまったく違う状況で迎える今年の開幕だが、求められるのは同じ結果。果たして、ポステコグルー監督は勝ったチームをいじるのか否か。シーズン序盤の注目点のひとつになる。

 

<この原稿は20年2月13日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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