川口和久×鈴木康友×原浩之(白寿生化学研究所)×二宮清純 第96回 スペシャル座談会前編「今季は事実上の前後期制」

facebook icon twitter icon

二宮清純: 「白球徒然 ~HAKUJUベースボールスペース~」は連載開始から4年が経ちました。ひとえに皆様のご愛読のおかげと感謝しております。今回はシーズンオフ恒例のスペシャルトークです。白寿生科学研究所副社長・原浩之さん、選手・コーチとして日本一に7度輝いた鈴木康友さん、そして広島、巨人で通算139勝をあげたサウスポーの川口和久さんにお集まりいただきました。みなさんよろしくお願いします。

 

一同:よろしくお願いします。

 

 五輪日程の影響

(写真:原浩之。白寿生化学研究所副社長。80年代からの熱心なプロ野球ウォッチャーである)

二宮: さて、今年のプロ野球が例年と異なるのは、東京オリンピックで中断期間があるということです。そのため開幕が3月20日と早くなり、中断期間は7月18日から8月13日まで約1カ月。調整方法やシーズンの戦い方も例年とは異なると思いますが、投手、野手への影響についてそれぞれ伺えますか。

鈴木康友: 野手の調整に関しては開幕が早まったことで自主トレから強度を上げたトレーニングをしていたから、キャンプ序盤から動けている選手が多かった。開幕が遅かろうが早かろうがそこに合わせていくものなので、開幕日の前倒しは野手にはそう影響はないでしょう。

 

二宮: 投手はどうでしょうか?

川口: 今年のキャンプを見ていると、どのピッチャーも例年の同じ時期よりも球が速い。開幕が前倒しになったことでオフの間も肩の筋肉を落とさないようにと過ごした投手が多かったんでしょう。皆、本当に球が速いですよ。

 

原浩之: 私も2月6日、7日に宮崎キャンプに行きましたが、そこで見た巨人・菅野智之投手のボールがすごかった。ピシーッと伸びも良くて、ブルペンで見ている全員の度肝を抜いてましたよ。まだキャンプ序盤なのにすごいな、って。あちこちで「こりゃあジャイアンツ、今年もいけるぞ」と声が上がってたくらいです。気が早いにもほどがありますけど(笑)、優勝を確信させるボールでした。

 

二宮: 菅野投手は昨季、腰痛の影響で3度も登録抹消されるなど不本意なシーズンでしたから、今季は期するものがあるでしょうね。
川口: 本当にみんな仕上がりが早いんですが、投手陣は開幕前に一度、落とさなきゃいけない。それをどこにするかが難しいでしょうね。

 

一同: 落とす、とは?
川口: キャンプインと同時に仕上げていって肩も万全ですという状態になって、そこから一度、疲れをとる意味もあって落とす、いわゆる体を緩める必要があるんです。一度落としてから、再び開幕に向け上げていくんです。

 

原: 落とすのは例年どれくらいの時期ですか?
川口: キャンプが終わるか終わらないか、オープン戦が始まるくらいの時期ですね。それが今年は開幕が10日くらい早いから、いつ落とすのかが難しい。その時期を間違ったら開幕で調子が出ず、開幕ダッシュに失敗することだってあります。

 

二宮: たかが10日、されど10日ですね。
鈴木: あと編成面でいえば、中断に入るのが7月ですから、まだ補強期間が残っています。それもキーになると思います。昔、パ・リーグでやっていた前後期制のように中断前の前期をバーッと突っ走って、中断に入ったところでトレードや外国人の獲得など新たな補強でチームの立て直しができる。後期もいいスタートを切れば、「あのチームが」というところが優勝する可能性もある。

 

二宮: なるほど。前後期制と考えれば、監督の手腕も含め、オリンピックイヤーならではのペナントレースが楽しめそうです。

 

 投手と二遊間

(写真:鈴木康友。天理高から巨人へ進み、西武、中日でバイプレーヤーとして活躍した)

原: キャンプを見ていて巨人の野手陣、特にセカンド争いが気になりました。吉川尚輝選手、田中俊太選手、増田大輝選手、若林晃弘選手など候補はいっぱいいますが、誰が正解なんでしょう。

 

二宮: 巨人のセカンドはここ何年も課題のままですよね。いかがですか、康友さん。
鈴木: まあ、一番手は吉川でしょう。昨季は腰を負傷して離脱しましたが、候補選手の中ではひとつ抜けています。今年もケガだけが心配ですが、それさえなければ……。巨人の内野陣でショートは坂本勇人が盤石で、サードは今年から岡本和真を固定すると原辰徳監督も明言しています。あれだけの選手をあっちこっちで使うのはデメリットしかないから、いい判断だと思います。

 

二宮: 康友さんの目から見て岡本選手の守備はどうですか。
鈴木: 問題ないですよ。球際も強いし、捕球してからのスローイングもいい。弱点としては三塁前に転がるセーフティバントの処理で、内野安打にしてしまうことが多い。まあ、それも守備位置を前にしてバントできないようなところにいれば問題ありません。

 

二宮: となると、セカンドだけが流動的だと……。
鈴木: やはり昔から強いチームというのは二遊間がしっかりしています。V9時代の巨人もそうだし、最近では落合中日のアライバ(荒木雅博・井端弘和)コンビとか。

 

原: ショートの坂本選手としても、セカンドがころころ変わったらやりにくいでしょうね。
川口: 坂本はね、そのあたりやっぱりすごいんですよ。誰がセカンドに入っても、自分の方で合わせているんですよ。ゲッツーなどの連係にしても自分の方からセカンドに合わせている。それだけのセンスを、去年見ていて感じましたね。

 

二宮: 坂本のようなショートがいると、ピッチャーとしても安心して投げられますか。
川口: 守備力はもちろんですが、ピッチャーとショート、セカンドは牽制のサインの交換がある。だから慣れていない若い選手だと、タイミングが合わないんですよ。サインを出すのが遅いとか、見てないときに出しちゃうとかがあるんです。坂本なんかはパパパッと同じリズム、同じ動きで出しているからピッチャーはやりやすいでしょうね。

 

鈴木: 私も現役時代、西本聖さんが投げているときに牽制で何度かランナーを刺したことがあります。パパッてサインを出したり、西本さんからアイコンタクトがあってベースに入るんですけど、うまくいくと試合後、「ヤス、サンキュー」と言って小遣いくれましたよ。
川口: いや、それはピッチャーは嬉しいよ。阿吽の呼吸というかね。そういう意味でも二遊間ってのはかなりピッチャーに影響のあるポジションです。

 

 

 佐々木朗希と千葉マリン

(写真:川口和久。広島、巨人で通算139勝をマーク。巨人で投手コーチの経験も持つ)

二宮: さて、今年話題のルーキーといえば千葉ロッテに入った佐々木朗希投手です。大船渡高校時代に高校生史上最速の163キロをマークするなど素材は一級品です。
川口: いいフォームしてますよね。体のバランスや筋力が優れているから、あれだけ足を高く上げられるんだろうし、何よりも下半身が柔らかくて、しかも使い方がいい気がします。

 

原: 下半身ですか?
川口: 昔の好投手はうまく下半身を使っていました。その証拠にみんな軸足に土がつくくらいだったでしょう。今、そういう投手はほとんどいない。股関節が固いんでしょうね。生活様式が畳に座る日本風から椅子にテーブルという西洋式に変化したのも要因だと思います。

 

鈴木: 少年野球の指導に行っても、しゃがめない子供が増えている、という話は聞きますね。
川口: でしょう。股関節が固いから下半身を上手に使うことができなくなっている。もしかすると佐々木君は岩手だから、まだ日本式の文化で育ったのかもしれない。トイレも洋式じゃなくて和式だったんじゃないかなぁ。

 

原: アハハハ。下半身を使うには和式がいい、と。
川口: 大谷翔平や佐々木君、岩手から好投手が出るのはそういう秘密もあるのかもしれません(笑)。ただ佐々木君は千葉マリンでどれだけ活躍できるか、それが気がかりですね。

 

二宮: というと?
川口: 風ですよ、風。
原: ああ、マリン名物の海風ですね。ピッチャーも野手も慣れないと大変だと言いますね。レフトが「オーライ!」って声をかけた打球がショートフライになったり、そういうシーンを良く見ました。

 

鈴木: あそこは海沿いの立地だからいつも東京湾からの風が外野方向からグラウンドに吹いている。それがバックネット裏の壁に跳ね返って巻いているから守る方は大変です。楽天のコーチ時代、随分泣かされましたよ。
川口: オープン戦で投げたことがありますが、マウンドに立っているのもきついくらいですからね。で、あの風の中で投げるとどうなるか。ストレートの球筋がイメージと違って、ピッチングが狂うんですよ。

 

二宮: 逆に渡辺俊介投手などは「変化球を風に当てて落としていた」と、風を利用していました。
川口: 変化球投手はいいんですよ。でも佐々木君は最速163キロという本格派です。風の影響を受けてピッチングが変わってしまわないか、そこが心配ですね。

 

原: 外野に防風壁を作るとか?
川口: いや、それくらいやってもいいでしょう。佐々木君でどれだけお客を呼べるかを考えれば安いもんですよ。

 

 「ノーサインで勝負じゃ」

二宮: メジャーリーグではこのオフ、サイン盗みが大騒動になりましたが、お二人はどう思われますか。
鈴木: 人間の目でクセやサインを見破るのはいいと思うんですよ。ただ今回は機械を使ってサインを盗んでいた。それはNGですね。

 

川口: ヤス(康友)のように良いコーチというのはピッチャーのクセ、キャッチャーのサインを「どうにかしてやろう」と、ずーっと見てますからね。

 

原: 現役時代、相手のクセやサインを見破っていましたか?
鈴木: コーチャーズボックスやベンチでずーっと見て、観察していましたよ。いてまえ打線の頃の近鉄は出すサインがほぼわかりました。まあ、あそこはサインがバレたところで、その分打ってましたけど(笑)。

 

川口: 私が思うのは、最近のサインが簡単すぎるというのもあるんじゃないですかね。フラッシュサインといって指でパパパッて感じですから、盗まれたら簡単に球種が分かってしまうんじゃないかと。

 

(写真:進行役は編集長・二宮が務めた)

二宮: 川口さんの現役時代は複雑でしたよね。
川口: 乱数表が禁止になった後ですから、まあ複雑でしたよ。投手によっては奇数イニングは足し算、偶数は引き算とか、頭が良くないとピッチャーはできなかったんじゃないかな(笑)。でも、すごかったのはそれを全員分覚えていたキャチャーの達川光男さんですよね。

 

原: 投手ごとに異なるサインを全部?
川口: そうですよ。で、達川さんがすごいのはある試合でマウンドに来て、「こりゃサイン盗まれとるな」と。それで「このイニングだけはノーサインじゃ」って。

 

原: エーッ! それで捕れるんですか?
川口: 同じことをマウンドで言いましたよ(笑)。「捕れるんですか?」って。達川さんは「なんとかなるじゃろう。任せいや」って、涼しい顔してパンパンパンって捕ってましたよ。
原: めちゃくちゃカッコイイですね、それ。

 

二宮: さて、お話は尽きませんが、今季の順位を含めた予想などより具体的なお話は後編にて。
原: 川口さんと康友さんの因縁の日本シリーズのお話も!
二宮: 1991年、西武対広島の第6戦ですね! では、後編もお楽しみに!

(つづく)

 

(取材・文・写真/SC編集部・西崎)

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP