今月、日本サッカー界に様々なことが起きました。ACL(アジアチャンピオンズリーグ)、ルヴァンカップ、Jリーグが開幕しました。J1でのVAR導入、注目選手の爆発、心配なチーム、そして新型コロナウイルス感染拡大防止のための中断・延期……。この中から僕が気になったことを語ろうと思います。

 

 VARの好例

 

 21日、フライデーナイトJリーグ・湘南ベルマーレ対浦和レッズの一戦がShonan BMWスタジアム平塚で行われました。今季からJ1でVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が採用されます。早速、この試合でVARが役立ちましたね。後半24分、浦和のDF鈴木大輔がゴールラインを割りそうなボールを右手で触れ、ピッチ内に残しました。主審からは死角だったため、一旦は流されましたが、後にVARの介入が入り、フィールド・オン・レビューとなりました。会場のオーロラビジョンにも主審が確認しているものと同じ映像が映し出されました。

 

 この結果、PKになりましたが鈴木も判定を真摯に受け止めていました。ピッチ上のすべての選手、ファン・サポーターも納得の判定だったのではないでしょうか。この場面から僕は“VARの良い使い方だな”と感じました。鈴木は意図的ではなかったようですが、オーロラビジョンに映像が映ることで反則の抑止力になりますし、会場のみんなが納得しやすいでしょう。主審と同じ映像をファン・サポーターも確認できることでジャッジの透明性もあがると思います。

 

 翌日、三協フロンテア柏スタジアムで行われた柏レイソル対北海道コンサドーレ札幌の一戦。J2から昇格してきた柏が4対2で札幌を下しました。注目は柏のFWマイケル・オルンガ。昨季、J2最終戦で8得点と大暴れし、J1でも活躍できるか楽しみな逸材でした。札幌戦で2ゴールを決め、実力は“本物”であることを証明しましたね。かつてガンバ大阪に所属したパトリック・エムボマが出てきた感じに似ているのかなぁ。しなやかな体のバネ、高さ、速さ、ボールタッチの柔らかさと武器が多い。今後、J1のDFたちが仕掛けてくる駆け引きにイライラしないかが大事になってきますね。先にジャンプさせないように体を少し当ててくる、ポジショニングでも先に入れさせないといった駆け引きがオルンガを待ち受けています。こういった中でも精神面を安定させ試合に臨めたら、それこそ海外に行っても通用するでしょう。オルンガの今後がますます楽しみです。

 

 また、彼はケニア国籍の選手です。オルンガのおかげでサッカー市場におけるケニアという国にも注目ですよね。きっとケニアにはまだまだオルンガ級の逸材が眠っているはず。Jリーグの、ひいては世界のスカウトの眼をケニアに向かせたのではないでしょうか。

 

 心配なチームとは……

 

 そして、心配なのが鹿島アントラーズ。ACLプレーオフ、ルヴァンカップで敗れました。J開幕戦はアウェーでサンフレッチェ広島と戦い、0対3の敗戦。アントニオ・カルロス・ザーゴ新監督の「後方からのビルドアップ」というコンセプトを表現するにはまだまだ時間がかかる気がします。「監督の理想」→「それを選手が感じ取る」→「ピッチで表現する」というところまで行きつく要素があまり感じられない……。広島戦は開始早々にいきなり連続でシュートがポストに嫌われてしまった。いまいち乗り切れないですよね。

 

 後方、サイドからのビルドアップを強く意識するのはいいのですが、もっとゴール前に重きを置いた方がいいのかなと感じます。シンプルにシュートまで持っていく場面としっかりつなぐ場面とメリハリをつけるべきです。後方の選手がボールを持ったまま出しどころに迷う時間を少なくしてあげたいですね。前線がいい状態でポジションを取れておらず、出しどころがないときの対処法を考えた方がいい。そうしないと、ひとりひとりの判断が少しずつ遅れ、迷い、結局ボールを取られ、失点を喫してしまう……。場合によってはシンプルにターゲットとなるセンターフォワードにあずけるのも手段のひとつですよね。

 

 センターバックだった僕はボールを持ったらまず、トップを見る。ダメならサイドに開くMFを見る。そこもダメなら近くのボランチやサイドバックに預け、自分はルックアップしながら角度を変え、もう一度ボールを受ける。簡単なことですが、これを徹底すればボランチやサイドバックがボールを奪われても、必ずパスを出した選手(この場合センターバックの僕)が残っています。奪われてもいきなりGKとの1対1の場面を防げますよね。もちろん、一番いいのはセンターバックからセンターフォワードに一気にボールが渡り、シュートに持っていけることです。一番シンプルに得点を狙える形を模索するのがサッカーの根本的な考えですからね。

 

 今の鹿島にはゲームをコーディネートできる選手がいない。ここぞとばかりに素早くリスタートさせチャンスにつなげる、またはタメをつくって流れを落ち着かせる。緩急をつけられる選手がいないのが気がかりです。選手個々は非常に頑張っている。それがひとつの大きな力にならず、空回りしているのがOBとして歯がゆい。今季は苦労するかもしれませんが、時に厳しく時に温かく見守っていきたいと思います。

 

 最後になりますが近頃、新型コロナウイルス感染拡大のニュースを目にしない日はありません。まずは感染された方々の一刻も早い回復を切に願っております。そしてJリーグは25日、3月15日までの全公式戦(94試合)の延期を発表しました。少しでも早くこの事態が落ち着くことを願っています。新型コロナウイルスに感染しないよう、読者の皆様もお気を付けください。来月末の当コラムでも、サッカーのことを語れる状況になっていることを願うばかりです。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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