メンバー間でイメージの共有ができる組織は強い。スポーツでもビジネスでも同じだろう。

 

 綺麗な青空に恵まれた2月中旬。今季、アマチュアリーグからJ3に舞台を移すFC今治のオーナー・岡田武史が横浜市内で中学生を指導すると聞き、グラウンドに足を運んだ。

 

 そこにはマイクを使い、笑顔を絶やさずハツラツと指導する岡田の姿があった。

「ポジションとサポート、両方意識してー! “何のサポート”だ? 声だしてー!」

 

 何のサポート?

 彼の発言は非常に興味深かった。サッカーにおけるサポートとは、相手からプレッシャーを受けているボール保持者に対し、パスコースを作ってあげる動きだと思っていた。

 

 ただ、これはぼんやりとしたイメージでしかなかった。岡田が約4年前から築き上げている「岡田メソッド」におけるサポートは細分化されている。岡田の解説。

 

「岡田メソッドには3種類のサポートがある。

 ①は緊急のサポート。ボール保持者が困っている時はとにかく助けに行く。近寄って顔を出してあげること。

 ②は展開のサポート。ボール保持者がフリーの時、近寄る必要はない。スペースを見つけ、広がる動きをすること。

 ③は相手DFを超えるサポート。相手DFの裏を狙い、スペースを突く動きをすること。

 状況により3種類のサポートを使い分けることで、ボールが回るようになるんです」

 

 私見だが岡田メソッドの肝は“細分化とイメージの共有”だと思う。サポート以外にも、縦パスでもどういう縦パスなのか、ワンツーパスでもどういうワンツーパスなのかが、細かく分かれている。

 

 一口に“クサビのパス”と言っても、個々それぞれイメージが違った。これに気付いた時は「驚いた。共通のイメージを持てる言葉を作らないと」と岡田。この共通イメージを原則と呼び16歳までに徹底して刷り込ませる。そして、それから自由を与えるという。

 

 こんな指導法でうまくいくのか? と疑問に思う人もいるかもしれない。私は成功する可能性は高いと思う。

 

 最高の具体例がある。ここ数年のラグビー日本代表のあゆみがその典型だ。2015年、ラグビーW杯イングランド大会。日本代表は強豪・南アフリカを撃破するなど3勝を挙げた。当時のヘッドコーチ(HC)、エディー・ジョーンズは選手に規律を植え付け、指示を守ることを徹底させた。更なるレベルアップのため、選手の自主性を重んじるジェイミー・ジョセフにHCを替えた。ジェイミー体制発足当初、確かに成績は芳しくなかった。それでも、専門家は見抜いていた。

 

 ラグビー元日本代表・大畑大介はこう語った。

「ジェイミーに替わった当初は結果が出ていなかったけど、このラグビーはすごい! 面白いラグビーをやっているな、と思いました」

 

 昨秋の結果はご存知の通り。日本代表は初となるベスト8進出を果たし、国民に大きな感動を与えた。エディー体制時に指示を叩き込まれ、ジェイミー体制時に自由を与えられた。大人のラグビーで結果を残した。

 

 岡田メソッドに話を戻そう。

 

 子供たちは元気よく「①、②、③」と自分は何のサポートをしているのか声に出す。はじめは交通渋滞のようだったのに、次第に見ているこちらの目が回るほどスムーズにボールが動いた。たった1時間ちょっとのトレーニングで見違えるほど変わったのだ。

 

 岡田は言う。

「何か縛りがある。それを破るために驚くような発想が生まれる。サッカーの原則を作り、それを16歳までに落とし込む。そのあとに自由を与える。こんなクラブを作れたら、ひょっとしたら世界と伍する選手が誕生するんじゃないか」

 

 細分化とイメージの共有――。日本サッカーの未来は明るいのではないか。そう期待した晴れた日のことだった。

 

(文/大木雄貴)