齊藤義照(多摩市くらしと文化部オリンピック・パラリンピック推進室長)<後編>「ボッチャは共生社会の象徴」

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二宮清純: 多摩市はボッチャの普及・啓発に力を入れているそうですね。

齊藤義照: はい。ボッチャは年齢、障がいの有無を問わず楽しめるスポーツです。多摩市では「障がい者理解」をレガシーとすることを目的に、ボッチャの普及・啓発に市の教育部が中心となって取り組んでいます。

 

二宮: なぜ教育部が?

齋藤: 多摩市聖ケ丘にある特別支援学校の都立多摩桜の丘学園と、市内の公立小・中学校や地域の青少年問題協議会がボッチャを通じて交流を始めていたことがきっかけだったからです。

 

伊藤数子: 特別支援学校と小学校の交流から広がっていくとは、理想的なかたちと言えますね。

齊藤: そうなんです。桜の丘学園と連携し、体験会を実施することから始めました。そこから地域に広がり、どんどん規模が大きくなっていったんです。共生社会の実現に向けて盛り上げていくため「2020年に大会を開催しよう」と地域や大学、福祉団体等からなる実行委員会を立ち上げました。企業からもボッチャセットの提供など積極的にご支援いただき、昨年10月に「ボッチャ2020TAMAカッププレ大会」を行うことができました。会場は桜の丘学園の体育館などを使用させていただいたので、バリアフリーも万全でした。ありがたいことに29チーム、約140名にのぼる参加があり、障がいのある方を含む小学生から高齢者まで幅広い世代の方々に楽しんでいただきました。

 

二宮: プレ大会後には桜の丘学園の校長が「何気なく会話や交流が進む。それが本当の共生社会」とコメントしていました。

齊藤: 我々も障がいの有無を問わず老若男女が楽しめたプレ大会だったと自負しています。また、1位から3位までのチームには桜の丘学園の生徒がつくったメダルを授与しました。大会には出られない重度障がいの生徒もメダルの作成を通して参加することができ、これもひとつの共生の形だと考えています。これからもボッチャを知り、楽しみ、交流する機会を設けていきたいと思います。現在、「ボッチャ2020TAMAカップ」の準備を6月開催に向けて実行委員会を中心に進めていただいており、地域から多くの参加が見込まれ、また多くの企業が支援してくれる動きとなっています。

 

二宮: 多摩ニュータウンに代表されるように多摩市にはいろいろなところから人が集まってきた歴史があるため、街自体に共生のカルチャーがあるんでしょうね。

齊藤: それもあるかもしれません。ニュータウン開発が始まる前は人口が1万人ほどの町でした。それが市になり人口が増えていきました。新たなコミュニティをつくっていくことがニュータウンの創成期でした。お祭りを開いたり、自治会を興したり、スポーツのチームを立ち上げたりしてきました。そういった共生の歴史が現在に繋がっているのだと思います。

 

二宮: 高度成長期とともに成長していった街ということですね。昔、企業戦士と呼ばれた人たちが第一線から退き、今度はボランティアとして活躍しているという話を聞きます。

齊藤: そうですね。ボッチャのプレ大会当日は地域や大学、企業の方々のボランティアで運営しました。また、東京2020オリンピック競技大会の自転車競技ロードレースの運営ボランティアである「コースサポーター」の中には元気なご高齢の方もいらっしゃいます。人生の知識と経験が豊富な方が多いので、昨年開催した東京2020テストイベント「READY STEADY TOKYO-自転車競技(ロード)」では、ただ指示を待つのではなく、先を読み動いてくださり非常に助かりました。

 

 暮らしやすいまちづくり

 

伊藤: 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の成功には、ボランティアの方々の活躍も重要な要素です。

齊藤: 多摩市としてはスポーツ推進計画を策定し、スポーツボランティアの取り組みにも力を入れていきます。「コースサポーター」や聖火リレーのボランティアの皆さんに、東京2020大会後はぜひスポーツボランティアにもエントリーしていただきたいと思っています。

 

伊藤: スポーツボランティアはボランティア参加のきっかけにもなりやすいと聞きます。その後、福祉や災害のボランティアへと活動の場が広がることは素晴らしいですね。

二宮: スポーツとの繋がりという点では、サッカーJリーグの東京ヴェルディとホームタウン協定を結んでいますね。

齊藤: そうなんです。スポーツを通じた連携で、豊かなまちづくりの実現を目指しています。ヴェルディと日テレ・東京ヴェルディベレーザは多摩市立陸上競技場を練習や試合の会場として使用していただいています。その他、市内の廃校になった小学校を整備してオープンした東京多摩フットボールセンター・南豊ヶ丘フィールドも練習場のひとつです。また同センターは市民の方々も使用できるグラウンドとなっています。

 

伊藤: ヴェルディは障がい者スポーツ体験教室にも取りまれているそうですね。

齊藤: 市内の体育館を使って、ヴェルディと協力し、ボッチャに限らず様々な種目で定期的に体験教室を行っています。障がい者スポーツ指導員の資格を持つヴェルディのコーチに指導していただいています。

 

伊藤: 今後はどのようなことに取り組んでいきたいですか?

齊藤: 現在、多摩市では、障がいのある人もない人も暮らしやすいまちづくりを目指して、「(仮称)多摩市障がい者差別解消条例」の制定に向けて取り組みを進めているところです。

 

二宮: それは差別をした人や企業、団体にペナルティーを与えるような仕組みということでしょうか?

齊藤: 条例には、不当な差別的取り扱いの禁止や、障がい者から社会にあるバリアの除去を求められた時には、それを取り除くために必要な合理的配慮をしなければならない、としていく予定です。これらが行われない時には、市に申し立てできる仕組みも設ける予定ですが、心のバリアや差別は、障がいや障がい者に対する誤解や偏見、理解の不足があると考えているので、障がいや障がい者に対する理解を促進していくことに力を入れていきたいと考えています。それが障がいのある人もない人も暮らしやすいまちづくりを目指すために必要なことだと思いますし、共生社会実現への大きな一歩になると考えています。

 

(おわり)

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齊藤義照(さいとう・よしてる)プロフィール>

多摩市くらしと文化部オリンピック・パラリンピック推進室長。1991年、中央大学商学部経営学科卒業、同年入庁。契約、開発、建設、環境、産業、福祉、児童、男女平等、市民活動、教育の各部署を経て2018年から現職。市内にあるサンリオピューロランドのキャラクターを活用した「ハローキティにあえる街」や、多摩センターのイルミネーションに関わり、地域の活性化に尽力した。福祉施設の永山福祉亭、権利擁護センターなどの立ち上げにも携わった。

 

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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