二宮清純: 「白球徒然 ~HAKUJUベースボールスペース~」、今回も引き続きシーズンオフ恒例のスペシャルトーク、その後編です。ゲストは白寿生科学研究所副社長・原浩之さん、広島、巨人で通算139勝をあげたサウスポーの川口和久さん、そして選手・コーチとして日本一に7度輝いた鈴木康友さんです。みなさんよろしくお願いします。
一同: よろしくお願いします。

 

 「DeNAは4番次第」

二宮: ここからはセ、パ両リーグの今シーズンの展望を中心に伺います。まずはセ・リーグから。巨人の連覇か、広島のV奪還か? はたまたダークホースの優勝があるのか。いかがでしょう。

 

(写真:原浩之。白寿生化学研究所副社長。20年予想・セ優勝/巨人、パ優勝/ソフトバンク)

原浩之; 私は横浜DeNAに注目しています。筒香嘉智選手がメジャーへ移籍しましたが、メジャーリーガーのタイラー・オースティン選手を補強し、打線の穴埋めは万全じゃないかと思います。
鈴木康友: 4番を誰にするか、でしょうね。アレックス・ラミレス監督は佐野恵太を4番候補にしています。4年目の佐野がシーズンを通して4番というポジションを全うできるかどうか……。

 

二宮: 宮﨑敏郎選手はどうでしょう。首位打者の実績もあります。
鈴木: 宮﨑は4番よりも3番や5番の方にいる方が怖いですね。4番・佐野にするならその前後がなおさら重要です。(ネフタリ・)ソト、(ホセ・)ロペスと強打者が揃っているから、それをどう配置するか注目ですね。

 

原: ロペス、ソト、オースティンを使うとなると、外国人投手は1人しか使えませんね。
川口和久: DeNAは守護神の山﨑康晃までどうつないでいくか、その継投策が生命線です。エドウィン・エスコバー、スペンサー・パットンなど外国人投手を中継ぎでどう使うのか。これもラミレス監督のお手並み拝見ですね。

 

二宮: 先発では東克樹投手がトミー・ジョン手術を受け、今季は絶望です。
川口: サウスポー王国のDeNAですが、東の離脱は痛いですね。ただ今永昇太が昨季、飛躍的に伸びたから彼を中心にローテを回していけば、大きく負け越すことはないと思います。

 

二宮: 今永は川口さんのアドバイスで良くなったんですよね。
原: 臨時コーチですか?
川口: いやいや。一昨年、18年シーズンに今永が投げている試合をテレビで解説したんです。そこで彼のピッチングはここが良くないというポイントを指摘したら、それを今永は録画していて見たらしく、そのとおりにフォームを変えたらピッチングが良くなった、と。後日、「本当にありがとうございました」と言われましたよ。

 

二宮: どういった指摘を?
川口: 一昨年までの今永は足の上げ方が固かった。それでフォームにアクセントがついちゃっていて、打者がタイミングを取りやすかったんです。もっと力を抜いて、柔らかく上げるようにすると良い、と。結果、非常に柔らかいフォームになって、リリースの最後の瞬間に「ピシッ!」とボールに力を伝えられるようになりました。

 

 「金本と矢野の違い」

原: それで昨季は13勝をあげ沢村賞の候補にもあがったんですね。今永投手は川口さんに足を向けて寝られませんね。
川口: かもしれません(笑)。

 

二宮: リーグ4連覇を逃した広島の巻き返しはどうでしょう。
鈴木: 鈴木誠也が4番にどっしりと座り、西川龍馬あたりも成長しているので、攻撃陣は問題なさそうです。

 

(写真:川口和久。広島、巨人で通算139勝をマーク。20年予想・セ優勝/広島、パ優勝/ソフトバンク)

川口: 投手陣もドラフト1位でとった森下暢仁は投げっぷりもいいし、即戦力として働いてくれそうです。新外国人のダニエル・ジョンソンが8回、ヒザの手術から戻ってくる中﨑翔太が9回という方程式も組めるので、V奪還、大いに期待できます。

 

二宮: 阪神はどうでしょうか。昨季は終盤6連勝でクライマックスシリーズ出場を果たしました。
鈴木: あのときの戦い方を見ていると、今季、優勝の可能性もあると見ています。矢野燿大監督はキャッチャー出身らしく、結構、細かい野球をやっている。あとは外国人がどこまで活躍してくれるかがポイントですね。

 

川口: 矢野監督は若手を使いながら育てる、という面でうまくやっています。金本知憲前監督は「使ってほしいなら、ここまで上がってこい!」というタイプでした。どちらかと言えばスパルタ式です。自分自身が広島時代にそうやって育てられたからでしょう。阪神の若手には矢野監督の方が合っているような気がします。

 

二宮: ディフェンディングチャンピオンの巨人は?
鈴木: 4番岡本和真が本当の4番になれるか、勝負の年になります。本当なら去年から彼をサードのレギュラーで使えば良かったんですよ。若手というのは1年の差で伸びが違ってきますからね。巨人の「4番サード」といえば看板です。でも、岡本は図太い方なのでプレッシャーに負けることはないでしょうね。

 

川口: 巨人は投手陣がちょっと不安ですね。「菅野智之以外に誰がいるの?」という感じでしょう。山口俊の穴は意外と大きいかもしれません。

 

二宮: 中日、東京ヤクルトは?
鈴木: 中日は新人キャッチャーの郡司裕也、ドラ1高校生の石川昂弥と楽しみな若手が揃っています。
川口: ヤクルトに関しては村上宗隆とイキのいい選手がいますが、総合力で見ると厳しい感じですね。

 

二宮: では、セ・リーグの順位予想をお願いします。

原: じゃあ、私がお先に発表させていただきます。1位・巨人、2位・広島、3位・DeNA、4位・阪神、5位・中日、6位・ヤクルトです。

 

鈴木: 私は、1位・巨人、2位・阪神、3位・広島、4位・中日、5位・DeNA、6位・ヤクルトです。

川口: ちょっと3位のチームで悩みましたが、1位・広島、2位・巨人、3位・阪神、4位・DeNA、5位・中日、6位・ヤクルトです。

 

 

 「楽天、ロッテが台風の目」

 

二宮: 続いてパ・リーグです。昨季は西武がリーグ2連覇を果たしたもののCSで敗れ、福岡ソフトバンクが3年連続で日本一に輝きました。今季はどうでしょうか。

原: 西武は秋山翔吾選手がメジャーに移籍し、大きな穴が空きましたね。

 

(写真:鈴木康友。天理高から巨人へ進み、西武、中日で活躍。20年予想・セ優勝/巨人、パ優勝/ソフトバンク)

鈴木: ここのところ西武は菊池雄星、浅村栄斗が抜けて、今度は秋山ですからね。この穴は大きいですよ。昨季、西武が優勝できたのは何よりもおかわり(中村剛也)の活躍によるところが大きい。30本塁打で123打点。しかもあの歳(36歳)で。これをもう1年、2年と期待するのはちょっと酷です。さらに首位打者に輝いた森友哉ですが、キャッチャーというポジションはいつ打てなくなるかわからない。ファウルチップひとつ当たれば、ガクンと調子が落ちますから。不安要素の方が多い気がしますね。

川口: しかも西武は投手陣に不安がある。逆にこれでリーグ3連覇したら、それこそ辻発彦監督に"あっぱれ"ですよ。

 

二宮: 辻監督は現役時代は守備の名手と呼ばれました。監督になっても細かい野球をするのかと思ったら、良い意味で自由にやらせていますね。
鈴木: そのあたりすごく考えて指揮を執っているのがわかります。

 

原: 東北楽天は石井一久GMがかなり大幅な補強を実施しています。パ・リーグをかき回す存在になるんじゃないかと思っていますが、どうでしょうか。
鈴木: 楽天はソフトバンク戦の対戦成績がどうなるか、それがポイントです。というのも昨季、楽天の監督を務めていた平石洋介がソフトバンクのコーチに就任しました。これ、楽天の選手はすごくやりにくいと思いますよ。

 

二宮: というと?
鈴木: 平石は2軍監督もやっていたから、楽天の選手としては「すべてを知られている」と感じるわけですよ。2年前、ソフトバンクでコーチをしていた鳥越裕介、清水将海が千葉ロッテに移籍したでしょう。ロッテが昨季、6年ぶりにソフトバンクに17勝8敗と勝ち越したのは、両コーチの存在もあると思いますよ。

 

二宮: 育ての親の前ではやりにくい、と。
鈴木: はい、そういうことです。キャンプで平石と話をしましたがニヤリとして、「楽天戦、楽しみにしてますよ」と言っていましたからね。

 

原: それは楽しみです。オリックスは新外国人のアダム・ジョーンズが話題ですね。
鈴木: 楽天にいたAJことアンドリュー・ジョーンズと比べると少々小粒ですが、マジメな性格はプロ野球にもフィットしそうです。オリックスは山本由伸、山岡泰輔と投手力が良く、意外と侮れない存在です。

川口: 山本は最優秀防御率、山岡は最高勝率とタイトルも獲り、素晴らしい投手です。あとは後ろ(リリーフ)がしっかりすれば浮上の目はありますね。

 

二宮: 楽天同様にオフの間、積極補強に動いた千葉ロッテも戦力アップでしょう。
鈴木: 鈴木大地の移籍はありましたが、ソフトバンクからFAで福田秀平を獲得し、平沢大河、安田尚憲、藤岡裕大などの若い選手も育っています。

 

 「開き直って勝ち越し打」

(写真:進行役のSC編集長・二宮)

二宮: では、パ・リーグの順位予想をお願いします。まずは原さんから。

原: 1位・ソフトバンク、2位・西武、3位・オリックス、4位・ロッテ、5位・楽天、6位・日本ハムです。ひとつ付け加えるとオリックス、ロッテ、楽天のAクラス争いはかなり混戦になると予想します。

 

二宮: 続いて、康友さん。
鈴木: 1位・ソフトバンク。2位・楽天、3位・オリックス、4位・ロッテ、5位・西武、6位・日本ハムです。ソフトバンクはケガ人が出てもそれを埋める選手層の分厚さが抜きん出ていますよ。

 

二宮: 最後に川口さん。
川口: 1位・ソフトバンク、2位・ロッテ。3位・楽天、4位・西武、5位・日本ハム、6位・オリックス。特にロッテに注目しています。井口資仁監督は今季が勝負の年だと思っているでしょう。ロッテは井口監督になってから盗塁も増えたし、野球が変わりました。期待しています。

 

二宮: さて、最後に川口さんと康友さんがいらっしゃるので1991年の西武対広島の日本シリーズについて伺いましょう。
原: おっ、第6戦に康友さんの勝ち越しタイムリーが飛び出した年ですね。

 

二宮: この年の日本シリーズ、広島の3勝2敗で迎えた第6戦は1対1の同点のまま6回まで進みました。6回裏、広島の三番手・金石昭人投手が2死満塁のピンチを招き、バッターは左の安部理選手。ここで広島の山本浩二監督はサウスポーの川口さんをマウンドに送り、西武・森祇晶監督は代打・鈴木康友を告げました。

 

川口: あの場面、ブルペンにいた自分がビックリしました。2日前の第5戦で投げて次は第7戦に先発と言われていたから、ブルペンで試合を見守っていたんですよ。そうしたらコーチから「川口、行くぞ」と。「エッ!」と声が出ましたよ。

 

二宮: 山本浩二さんはあのときのことを「あれはオレが悪い。あそこは大野(豊)だった」と反省していました。「悔やんでも悔やみきれん」と。

 

鈴木: あの打席、私は初球のインコースのストレートを仕留めそこねてファウル。次もストレート。2球で追い込まれたんですよ。
原: 絶体絶命じゃないですか。

 

鈴木: ところが、追い込まれたことで逆に開き直れました。"この場面、この緊張感を味わえるのはオレだけなんや"と。

二宮: 後年、取材した際、康友さんは次の球をこう読んでいたといいます。「満塁で守っていて一番イヤなのは変化球をひっかけた内野ゴロ。一番いいのは三振で、次はポップフライ。となればキャッチャーのサインはインハイのストレートだろう」と。

 

鈴木: 「打てなかったら野球やめればええわ」と吹っ切れて、迷いはなくなったんです。それで読みどおりインハイのストレート。やや詰まりながらもレフト前へ運びました。

原: 3対1で勝ち越した西武が結局、6対1で勝利。第7戦も西武がものにして日本一に輝きました。たられば、じゃないですけど、川口さんが第7戦に先発していれば……。

 

二宮: 森監督は言っていましたよ。「第7戦、川口が(先発で)来ていたら負けていたかもな。なんで第6戦のあそこで投げさしたんだろう」と。

川口: うちは王手をかけていたけど、第6戦で優勝しないと7戦目はやられるだろうという感覚だったんですよ。いずれにしても、ひとつの采配で勝負の行方は大きく変わるということです。

 

鈴木: 私はあそこで打ったおかげで現役生活が1年延びました。広島様さま、川口様さまです(笑)。
川口: ヤス、こっちに足を向けて寝てないだろうな(笑)。

一同: アハハハ。

 

二宮: さて、スペシャル座談会もここまでとなります。早く安心して野球が楽しめる日が来ることを願いたいものです。シーズン終了後には順位予想の答え合わせをやりましょうか。
一同: 望むところです!
二宮: 本日はありがとうございました。

 

 

(取材・文・写真/SC編集部・西崎)


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