(写真:一昨年9月、カネロは宿敵ゴロフキンを小さながらついに撃破。2年の時を経て、第3戦は実現するのか Photo By Tom Hogan-Hoganphotos/Golden Boy Promotions)

9月12日 テキサス AT & Tスタジアム予定

12回戦(ウェイト、かけられるタイトルは未定)

 

サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/53勝(36KO)1敗2分)

vs.

ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/40勝(35KO)1敗1分)

 

 

 米スポーツ全体が新型コロナウイルスの脅威にさらされている真最中、少々意外なタイミングでビッグファイト合意の報が届いた。3月17日、カネロ、ゴロフキンというライバル同士がラバーマッチを行う方向で金銭的に合意したとのこと。両者ともその前に1戦ずつを挟むのが基本線で、9月の挙行を目指すという。

 

 カネロ寄りのジャッジに嫌悪感を持ったゴロフキン側の希望もあって、今回はベガスではなくテキサス開催になることが濃厚。約10万人を収容できるダラス・カウボーインズの本拠地は、現代最高のライバルの決着戦には相応しい会場に思える。

 

 過去2戦はともに好ファイトになり、カネロの1勝1分。しかし、どちらもゴロフキンが勝っていたと見る関係者は少なくなく、両雄の間にも本物の敵対心が存在する。

 

(写真:昨年10月、ゴロフキンはデレビャンチェンコを何とか下したが、不当判定の声も出るほどの苦戦だった Photo By Ed Mulholland/Matchroom Boxing USA)

 カネロ、ゴロフキンの両方と長期契約を結ぶDAZNとしては、本来であれば昨年中に実現させてしまいたかった第3戦。ラバーマッチの条項がゴロフキンとの契約には含まれていたが、カネロとの契約書にはなかったという致命的なミステイクゆえに、合意までに必要以上に時間はかかった。おかげで報酬の上積みを余儀なくされたが、それでも本当に9月に挙行できるとすればDAZNにとっては起死回生と言える。

 

 4月以降、DAZNは下記のように実に魅力的なラインナップを用意していた。時を同じくして、3月上旬、新たに200以上の国と地域でサービス展開すると発表。米国内では依然として伸び悩む加入者を増やすため、これから数カ月が大勝負のはずだった。

 

4月17日 レジス・プログレイス(アメリカ)vs.モーリス・フッカー(アメリカ)

5月2日  アルバレスvs.ビリー・ジョー・サンダース(イギリス) 

6月6日  ゴロフキンvs.カミル・シェルメタ(ポーランド)

6月20日 アンソニー・ジョシュア(イギリス)vs.クブラト・プーレフ(ブルガリア)

7月11日 マニー・パッキャオ(フィリピン)vs.マイキー・ガルシア(アメリカ) 注・この試合の交渉は暗礁に乗りあげたという話もある   

8月予定  ハイメ・ムンギア(メキシコ)対戦相手未定、デビン・ヘイニー(アメリカ)対戦相手未定

9月12日 アルバレスvs.ゴロフキン

 

 

 その矢先に勃発したコロナウイルスによる騒ぎは、格闘技以外に主だったコンテンツを持たないDAZNにとって痛恨。すべては今後のコロナ対策の推移次第だが、現在までに企画されたファイトのうちの半分以上は中止、延期が有力だろう。

 

 リング外の戦いも注目

 

 そんな厳しい状況だからこそ、スポーツイベントの本格的な再開が期待できる今年後半、カネロ対ゴロフキンという人気カードが組める意味は余計に大きいのだ。

 

(写真:2017年9月の第1戦はゴロフキンが勝っていたという声が断然多く、カネロ相手に1敗1分という結果は気の毒という同情的な見方もある Photo By Tom Hogan-Hoganphotos/Golden Boy Promotions)

 一部のマニアの中には「もうこのカードは不要」という声も少なくないが、一般的なスポーツファンへのインパクトは依然として大きい。そもそもDAZNがゴロフキンに6年100万ドル以上という契約を与えたのは、カネロとの第3戦を行うためだった。いまだにDAZNを知らない人も数多いアメリカにおいて、急激な知名度アップのためには両者の決着戦は絶対必須だった。

 

 もちろん金銭面で口頭合意したからといって、予定通り9月に行われるのかに疑問の声もある。コロナウイルスの収束に時間がかかり、このレベルの大イベント挙行はしばらく難しくなったとしても誰も驚くべきではない。

 

 両者の直接対決の前に、カネロはWBO世界スーパーミドル級王者サンダースとの対戦、ゴロフキンはシェルメタとIBF指名戦を予定していることも話をややこしくしかねない。コロナの猛威を考えれば、これらの前哨戦は中止の可能性が高そうだが、挙行された場合、どちらかのケガ、敗戦などによって状況が変わることは考えられる。

 

 ただ、それらをすべて考慮に入れた上でも、これまでゴロフキンとの第3戦に拒絶反応を示していたカネロがついに合意したことはやはりポジティブなニュースに違いない。どちらも他に有力な対戦相手候補がいるわけではない。全米的にスポーツが壊滅状態の中で、先々の楽しみが増えたと感じている人は少なくないはずだ。

 

 最後に簡単に試合予想に触れておくと、今回はカネロ有利の見方が圧倒的に多い。前述通り、過去2戦ではゴロフキンが互角かそれ以上に戦ったが、カザフスタンの雄も4月には38歳になる。最近は全盛期の強さは感じられず、昨年10月にはセルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ)に敗北寸前の大苦戦。現在29歳(試合予定日には30歳)で脂の乗ったカネロとは、時の勢いに大きな違いがある。デレビャンチェンコ戦ではボディを効かされたゴロフキンが、今が旬のカネロに今度はストップされてしまっても驚くべきではないのだろう。

 

(写真:ゴロフキンの壁を乗り越えて以降、カネロは見違えるように笑顔が多くなった Photo By Tom Hogan-Hoganphotos/Golden Boy Promotions)

 ただ、個人的に1つ気になっているのが、この試合がどのウェイトで行われるかという点だ。関係者の話を聞くと、カネロは意外にもミドル級での戦いにとりあえず合意しているが、後で変更する権利を持っているのだという。

 

 昨年11月の前戦はライトヘビー級で行ったカネロが、本当に再びミドル級の体重を作れるのか。今春、一時は決定寸前まで進んだ村田諒太(帝拳)戦の交渉時も、一度は160パウンドのミドル級戦を承諾しながら、トレーニング開始後すぐにスーパーミドル級への変更を申し出たというエピソードもある。そんな経緯を聞けば、ゴロフキン戦も結局はスーパーミドル級になるのではないか。

 

 逆に言えば、交渉の結果、ゴロフキン側が今のカネロには厳しいミドル級か、あるいは164パウンドあたりのキャッチウェイトを強いることができれば、少なからず勝機が出てくるかもしれない。もちろん最終的には断然のAサイドであるカネロの希望通りに落ち着く公算が強い。それでも実際に試合が正式決定するまで、両者のリング外の戦いにも注目が必要なのは確かだろう。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
>>公式twitter


◎バックナンバーはこちらから