(写真:因縁のリマッチではフューリーが無敗のワイルダーを圧倒した Photo By Mikey Williams/Top Rank)

10月3日(日程は暫定的) ラスベガス

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ 12回戦

 

王者

タイソン・フューリー(イギリス/31歳/30勝(21KO)1分)

vs.

挑戦者/前王者

デオンテイ・ワイルダー(アメリカ/34歳/42勝(41KO)1敗1分)

 

 

 ヘビー級のラバーマッチは秋に持ち越し――。コロナ渦の中ではもう驚きではないが、早ければ7月中にも挙行が予定されたフューリーとワイルダーの第3戦は10月に繰り越される方向だという。第2戦同様、この試合はFOXとESPNが共同PPVで中継予定。会場は未定だが、これも前戦と同じく契約が残ったMGMグランドガーデン・アリーナが有力とされる。

 

 今戦のリマッチは2月22日に行われ、元王者で挑戦者のフューリーが7回TKOで圧勝。無敗で突っ走ってきたワイルダーに初黒星をつけるとともに、英国の雄は現代の最重量級でも最強との評価を享受するようになった。

 

(写真:人気シリーズの第3戦は10月に再セットされたが…… Photo By Mikey Williams/Top Rank)

 試合内容が一方的だっただけに、本来であれば両者の勝負づけは終わったと目されそうなところではある。ただ、第2戦の契約には敗者がラバーマッチのオプションを持つという条項が含まれていた(報酬分配はリマッチでは50/50だったのが、第3戦では第2戦の勝者の60/40)。完敗を喫したばかりのワイルダーはこれを迷わず行使すると発表し、一時は7月中にも第3戦挙行と伝えられたのだった。

 

 ところが、そんな最中、世界中を震撼させているコロナショックが勃発。アメリカのスポーツは完全に動きを止めており、ボクシングも例外ではない。トップランク、PBC、マッチルームといった大手プロモーターは軒並み興行キャンセルを発表し、まだ再開の見通しが立っていないのが実情だ。

 

 興行を主宰するトップランク、PBCが、フューリー対ワイルダー第3戦を現時点で半年以上先まで延期したのは理解できる。この規模のビッグファイトを開催するには、少なくとも2~3カ月の事前プロモーションが必要。アメリカ国内のコロナショックを見る限り、試合挙行以前に、プロモーション活動が可能になるのは早くて7月以降だという判断なのだろう。

 

 無観客から再開か

 

(写真:アメリカのボクシング興行の灯が消えて久しい)

 スポーツイベント挙行が現実的ではない現時点でも、いずれ興行が可能になる時期に向けて、ボクシング関係者の話し合いは続けられている。最近の被害の広まりを見ると、安全面が確保されるまでにはまだまだ長い時間がかかりそう。たとえそうだとしても、準備を進めるに越したことはないはずである。

 

 まずは無観客興行が基本線だが、一般的にボクシングは団体競技よりも一足先にイベント開催が可能になると考えられている。もともと格闘技は挙行に必要な人数が少ないのに加え、主要プロモーターにはテレビ局から巨額の放映権料が保障されていること、おかげでチケット売り上げに依存しないこと、ゲート収入の有無はテレビ局には無関係なことなどから、無観客でも興行自体は成り立つ。

 

 夏以降にメジャースポーツが一斉に再開されるとすれば(それも希望的観測だが)、放送枠は必然的に限定されるだけに、ボクシングのようにニッチなスポーツはできれば早めに始めて欲しいというのがテレビ側の希望でもある。選手の調整、準備の難しさという大きなハードルはあるものの、小規模シリーズはすでに考慮されており、水面下での話し合いは継続されるはずだ。

 

 もっとも、そうはいっても、フューリー対ワイルダー戦のようなメガイベントは早期再開の対象には含まれない。

 

「ボクシングはまずはスタジオ(小会場)での無観客試合から再開されそうだ。それはつまり大イベントの挙行には時間がかかるということ」

 ESPN.comのスティーブ・キム記者がそう記している通り、当初は無観客興行シリーズから徐々にリスタートとなりそうだ。

 

(写真:現在、ラスベガスも活動停止中。再び動き出すのはいつになるか)

 ゲート収入も莫大なヘビー級戦、サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)のような人気選手の試合がアメリカで可能になるのはしばらく先。小規模興行が現実的になるのは7~8月頃だとして、大イベントはやはり9、10月くらいではないか。閑散とした現在のアメリカ大都市の雰囲気を見る限り、それらすらも楽観的に過ぎるように思えてくるのも事実ではあるが。

 

 今はただ、9月挙行で合意とされたアルバレス対ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、10月のフューリー対ワイルダーといったメガイベントがプラン通りに行われることを願いたい。それらにゴーサインが出るということは、事態が好転しているということ。誰にとってもつらい年になった2020年の終盤に、せめてボクシングファンの救いになるようなファイトが実現して欲しいものである。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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