まさかこんな事態を数カ月前まで誰が想像しただろう。
 そう、新型コロナウイルス感染拡大による「東京2020オリンピック・パラリンピック大会」への影響だ。

 

 あっという間に世界を不安とパニックに追い込んだウイルスは、世界最大のスポーツの祭典をも脅かしている。果たして予想通り開催できるのか、それとも延期、中止なのか? 非常に難しい判断に迫られている。

 

 正直、私も1月に中国で広がり始めた時は、対岸の火事を眺めているような感覚だった。それがクルーズ船以降、日本に入ってきてからの騒ぎは言うまでもない。未知なるものへの恐怖や不安が、人間をここまでパニックに追いやるのかと驚きでもあった。紙製品の買い占めや、免疫能力を上げるという噂でスーパーから商品がなくなる。そんな情報操作なんて昔のことと思っていたが、世界のこの状況を見ると、人間なんて弱いものであるというのが身に染みて分かった。

 

 そして、オリンピック・パラリンピック。延期、中止論が出始めて2週間で、むしろ開催しないというのがマジョリティになってしまう加速ぶり。もちろん、事態が厳しいことは理解しているが、メディア報道の加速ぶりは、冷静に見ていても恐ろしいほどだ。この勢いは白いものでも黒に変えてしまうほど一方的で、「これだけ言い聞かせられると皆はそう考えるよね」という刷り込みに近いものを感じた。今回の議論内容はともかく、こうした時にいかに冷静に報道と距離を取ってみることが大切なのかというのも、改めて感じさせてくれた。

 

 さて、肝心の大会だが、日本の動向だけ見ると6月頃までにある程度収まっている可能性はある。ただ、オリンピック・パラリンピックは世界の大会だ。そのころに世界的な流行がどうなっているかを慎重に検討する必要がある。これがIOCの頭を悩ませるのだ。

 

 そもそもこの種の話は、「日本は感染大国だから行きたくない、そんなところでやるな」ということから始まった。当時は日本での感染拡大が顕著で、世界からは危険な国だと思われていた。ところが現在では、その日本を通り越して、欧州各国が大変なことになり、今後はアフリカや南米大陸で拡大するのではと恐れられている。つまり心配されるステージが変わったのである。

 

 ちなみに残念なことであるが、「日本はいまだに感染大国で、クルーズ船が停泊した横浜などは壊滅的なダメージを追っている」と思っている海外の方はいまだに多く、このイメージを早く払拭すべく正しい情報発信を急ぐべきであろう。

 

 選手たちの不安解消を

 

 開催においてポイントは、開催地の問題だけではなく、選手たちの環境もある。世界の選手たちは今現在練習さえまともにできない状態にあり、「そんなタイミングでレースをするなんて!」との声が多い。本来この時期は、どの競技も代表の最終選考に関わる大会が続く。それが開催できない、また開催するとしても、練習がまともにできていないコンディションで臨ませるのかという問題である。

 

 また決められていた選考基準が大会の中止・延期により、ずれてしまうことになる。たとえばトライアスロンなどは、5月中旬までのポイントで決まり、そこから調整して本番を迎えるという流れだった。だが、代表決定が6月に延びると、その後の調整期間が短くなる。その上、今はいつ選考大会が開かれるか、どこが基準になるかもわからない中途半端な状態。選手たちの心理的負担は相当なものになっている。

 

 一般の方が考えるより、選手たちは体のコンディションも、心のコンディションも厳しい状態にあると言ってもいいだろう。

ある選手が「今は見えないものに向かって走らなければいけない状態でつらいです。とにかくまず見えるものが欲しい」と言っていたが、その気持ちは痛いほどわかる。

 

 IOCや組織委員会、東京都からすれば、もちろん通常開催したい。ここまでの準備にかけてきたエネルギーは相当なものである。しかし、通常開催に向けて進めるならば、まず選手にいつを目安に、どの程度の判断をするというのを示してあげて欲しい。選手はいきなり「はい本番!」と言われてもできるものではない。それはこれまでの地道な積み上げがあってこそ。そして目標がリアルに見えてこそ積み上げられるものだ。

 

「僕たちは決められたらそれに向かって頑張ります。それだけです。だからこそ決めて欲しい」と言う選手もいた。選手たちはふわふわと雲の中を歩いているような状況で不安になっている。

 イベントという側面も大切だが、スポーツ競技会として考えるのであれば、もう少しアスリートに寄り添った情報提供、進め方をしていくべきではないのだろうか。

 

 私もオリンピック・パラリンピックを心から楽しみにしている。
だからこそ、そう思わずにはいられない……。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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