第218回「ルールはスポーツを守るため!?」

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 世界陸連は1月31日、ナイキのスポーツシューズ「ヴェイパーフライ」の五輪などの国際大会での使用を認める声明を出した。と同時に、「最近のシューズの技術発達でスポーツの公正さが脅かされかねないとの懸念が生じる十分な兆候がある」として、シューズの構造で幾つかの新たな制限を公表。さらに制限が必要か研究を続けるとした。

 

 昨年末から続いてきた厚底シューズ制限騒動は、当面これで落ち着きを取り戻したが、様々な意見が多く飛び交った。ランナーに多かったのは「テクノロジーの進化も陸上の進化」「技術の開発を制限するものではない」「シューズを選ぶのも選手の力」というような禁止反対派だった。

 

 あるランナー出身の有名ライターは「アスリートのパフォーマンスUPはテクノロジーの進化とともにある。どんどん記録が塗り替えられれば、陸上界は盛り上がるし、ファンも拡大する。ワールドアスレチックスとしては喜ばしいサイクルのはず」と書かれていた。彼はいつも経験から基づくリアルな記事が興味深く、私も注目している方である。その彼の記述は反対派の意見を象徴しているようだった。

 

 さて、ほんとうにこれでいいのだろうか。私はこれまで何度か自身のSNSなどで意見を表明してきたが、スポーツというのはある一定のルールの中で選手たちが努力し、創意工夫を重ね戦うものだと思っている。その体力、戦略、技術の高さに我々は感心し拍手を送るのだ。

 

 しかし、ルールがないと公平な条件が整わず、戦っている選手も、見ている方もつまらない。つまりスポーツとして成立しない。それは球技においても陸上においても同じ。同じルールという土俵に乗っているから成立する。もちろん、そのルールの範囲内で創意工夫を重ね、新しいテクニックやテクノロジーが生まれる。そしてそれに対して競技団体が、ルールを見直すことを繰り返している。それはスポーツを、競技として崩れないように守っていくためでもある。

 

 たとえば、水泳においてバサロスタートというのがあった。現スポーツ庁長官の鈴木大地さんが編み出した泳法で、水中をバサロキックで進んでいくというもの。彼はこの泳法に磨きをかけ100mの競技中3割以上をこれでこなした。今までの常識になかったが、その当時のルールには違反していない。だから記録も成立するし、オリンピックの活躍もあるのだが、その後ルールは改正された。現在は15m以内に制限された。これを許していくと、背泳種目そのものが変わってしまうため、水連が規制をかけたのは当然だし、それまでのルールの範囲で技を磨いた鈴木さんも素晴らしい。

 

 競技そのものを変えてはいけない

 

 一時話題になったレーザーレーサーにしても、当時のルールには接触していない。ルールの範囲内で水着を開発し、画期的なギアを生み出した。しかし、水着があまりに効果を生み出し、水泳競技そのものを変えてしまう危惧から素材の制限が設けられた。この手の話はスキーや自転車など道具を使う競技にはたくさんあり、議題にあがるのは当然のことだ。なのでスキーと自転車競技に関係の深い私としては、なぜ制限をしないのか、また技術の進化とともにルール変更がないのか不思議なくらいだった。道具にルールがかからなければどんどん新しいテクノロジーで、スポーツそのものが変わってしまう可能性もある。

 

 シューズでいうなら反発性や厚さの制限がなければ、走るという技術は全く違うものになる恐れもある。極端な話だがバネが入ったシューズでもいいということになってしまうからだ。だからこそ今回、陸連がある程度の規則を作ったのは当然。ただ、まだ試行錯誤の段階で、次は素材や厚さはもちろん、「進入角度〇度に対し、反発係数はいくつまで」などと、はっきりとした基準値を設ける必要があるだろう。そこからは決められた範囲において、各メーカーがしのぎを削り、選手が取り入れていくというのが本来の流れではないだろうか。

 

 自転車競技の世界では、数多くのテクノロジーが投入され、新しいマテリアルが生まれては規制されて消えていった。だからこそ自転車は今の形を保っていると言えよう。メーカーの開発意欲を削ぐだけではいけないが、その競技とはどんなもので、どうあるべきか。そんな哲学が競技を司る競技団体には必要で、それをもって技や技術をルールと適合させていくことを論じていく。この作業が今後もすべてのスポーツにおいて続いていくのだろう。

 

 スポーツは進化する。その進化こそが魅力でもある。

 しかし、進化でそのスポーツの本質を変えてしまってはいけない。

 進化とルールのバランス。

 技術進化の目覚ましい時代だからこそ、大切なことではないだろうか。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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