監督就任1年目の昨季は西地区優勝を果たし、地元の皆さんの期待に応えることができました。ただチャンピオンシップでは敗れ、リーグ優勝はなりませんでした。今シーズンは改めてリーグ優勝、そしてその先にある独立リーグ日本一を目指します。

 

 開幕連敗も焦りなし

 昨季の開幕を振り返れば3連敗という最悪のスタートでした。原因は戦力の把握や相手チームの分析がうまくいかなかったことですが、焦りはありませんでした。試合を消化する中で戦力、そしてリーグのレベルを把握することができ、最初は浮足立っていた選手たちもひとつ勝って落ち着いてきました。

 

 その後、前期は最後までもつれる形で優勝争いとなりましたが、選手たちは「ひとつずつ勝っていこう」と目の前の試合に集中してくれました。後期は開幕から連勝スタートで、さらに大型連勝もありました。接戦をものにしたゲームも多く、本当にこの1シーズンで選手たちは逞しくなりました。

 

 自分自身は監督という立場は初めてでしたが、バッテリーコーチの経験があったのでゲームの流れをつかむことは難しくありませんでした。1シーズンを戦い終え、ホッとしました。

 

 選手で成長したのはキャッチャーの松井聖です。四国アイランドリーグplus・香川時代は外野手だったので捕手は学生時代以来とブランクがありましたが、そういう苦労の中でチームを盛り立て、送球も捕球も日々成長していきました。彼の成長がチーム全体に相乗効果をもたらしチーム力もアップしていったのだと思います。

 

 あとは田島光もキーマンでしたね。55試合連続出塁というリーグ記録を達成するなど、リードオフマンとして大活躍でした。彼はもともとバットに当てるうまさを持っていました。これまでは「積極的にいけ」と指導されていたようですが、昨季は「打てる球を待てばいい」と伝えました。4打席のうちに勝負できる球は必ず来るから焦るな、と。田島は選球眼も良く、粘れる選手なので本当に良い働きをしてくれました。

 

 今季は彼らに加えて内野手では赤羽由紘、投手では2年目の宮野結希の活躍に期待しています。また四国IL・愛媛から移籍の長距離砲、バン・ヘイドーンは、BCリーグの投手にどう対応するのかが楽しみですね。あと新人捕手の會田雄大も好調なので、松井へのいい刺激になってくれたら面白いと思っています。

 

 いずれにしても今季も守備からリズムをつくっていくのが信濃の野球になります。昨季、チーム防御率がリーグトップだったことは誇りであり、今季も目指すのはそこです。攻撃は足の速い選手も多く、今季は長打力も期待できるメンバーが揃いました。誰をどう使うのか、チーム内の競争も激しく、監督としては嬉しい悲鳴です。

 

 地区優勝を果たしたことで、今季は当然、マークされて厳しい戦いになるでしょう。地区再編によって西地区に編入された新潟アルビレックスBCは完成されたチームで手強い存在です。他のチームも昨季後半同様にうちにはエース級をぶつけてくる。そういう厳しさの中でリーグ優勝と独立日本一を目指します。新型コロナウイルスの影響で開幕が延期されていますが、早く皆さんが野球を楽しめる環境になってほしいと願っています。

 

 BCリーグの監督の仕事は勝つことと選手育成のふたつがあります。NPBへ輩出する選手を育てるという面では、今季も有望株が数多くいます。先に名前をあげた松井、宮野、赤羽に加えて投手の佐渡俊太など。彼らをスカウトにぜひ見てもらえるように我々首脳陣も頑張らないといけない。何よりドラフトの中継で「信濃グランセローズ」の名前が出ることは長野県の方々にとって喜ばしいことですからね。そういう面でもファンを喜ばせたい。

 

 そして育成にはもうひとつの意味があり、私は選手たちの「人間形成」も重視しています。昨年、就任早々に「野球人の前に社会人であれ」と、挨拶の徹底など4つの約束を選手たちと交わしました。「挨拶はしっかりする」「返事もきちんとする」「言い訳はしない」「不平不満を態度に出さない」と、どれも社会人なら当たり前のことですが、野球漬け過ごしてきて、こうしたことができない選手もいます。野球選手でいられるのは人生でほんのわずかの期間であり、野球を辞めた後の方が長い。そのときに「挨拶ひとつできないのか」となれば、社会人として苦労する。そうならないために、野球以外の部分でも成長してほしいですね。

 

 あと、そういう面できちんとしているチームはやはり強いんですよ。野球は個々の力が優れていれば勝てますが、でも本当の強さはチームとしてまとまらないと出てこない。そのためにも4つの約束を守ることは大切です。「楽して野球をやりたいなら別のチームへ行ってくれ」と、契約前に選手と話をしているくらいです。

 

 最近は大学との練習試合で向こうの監督さんに「良い選手たちですね、良いチームですね」と言っていただける。学生相手に社会人として規範を示すことはもちろんですが、球場には子供たちも大勢見に来るので、子供たちにも信濃の選手が良いお手本になってもらいたいと思っています。

 

 昨季も感じたことですが、BCリーグも信濃もまだまだ知名度が低い。県内の野球熱を考えたら、もっと知られていて良いし、知られてほしい。信濃をはじめBCリーグには夢を持って頑張っている選手がたくさんいるので、それを見てもらいたい。また夢破れて野球を辞めていく選手もいます。そうした選手たちの「今」を見ることができるのもBCリーグの魅力でしょう。

 

 監督2年目の今季、責任も大きくなりますが、昨季以上のやりがいを感じています。地元の皆さんの声援に応えるためにも勝利を目指して頑張りますので応援をよろしくお願いいたします。

 

<柳澤裕一(やなぎさわ・ゆういち)プロフィール>信濃グランセローズ監督
1971年8月2日、長野県出身。松商学園高では甲子園出場は果たせなかったもののレギュラー捕手として活躍し、卒業後は明治大に進学。日米大学野球選手権の日本代表にも選ばれ、東京六大学リーグでは通算55試合に出場し、ベストナインに3回選出された。94年、ドラフト2位で巨人に入団。95年4月にプロ初出場、97年は57試合に出場(うちスタメン捕手41試合)した。99年、トレードでオリックスへ移籍。01年は中日に移籍し、04年、正捕手・谷繁元信の控えとしてチームを支えた。06年限りで中日を退団、07年、福岡ソフトバンクのテスト生として春季キャンプに参加も不合格に終わり現役引退。16年から18年まで東北楽天の二軍バッテリーコーチを務めた。19年から信濃グランセローズの指揮を執り、就任1年目で前後期優勝、西地区優勝を果たした。

 

(取材・文/SC編集部・西崎)


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