新型コロナウイルス感染拡大により、2月29日から「無観客」となったオープン戦。テレビ局のプロデューサーによると、視聴者から「ベンチからのヤジがおもしろい」という思わぬ反響があったとか。

「たとえば、味方の選手の打球が、あと一歩伸びず、外野フライになった。ベンチからのヤジは“もっとメシくえ!”。満員のスタンドでは、こんなヤジは聞こえません。選手たちは普段、こんなヤジを飛ばしているのか、と話題になったそうです」
相手へのヤジはどうか。
「暴言のようなヤジが飛び出さないか心配したのですが、それはなかった。“変なヤジを拾われたらいけない”と選手たちも予防線を張っていたようです。胸元のボールにのけぞった打者に対し“大したことないよ”くらいは、ありましたけど……」
昔のヤジはキツかった。ベンチから「ドタマに行け!」と叫んだ監督もいた。ビーンボール指令である。ヤジを耳にしただけで打者は腰が引けたはずだ。
ヤジと言えば忘れられないのが福岡ソフトバンクの工藤公康監督から聞いた話。
工藤は西武のルーキー時代から気の強さに定評があった。南海戦に登板した工藤、主砲・門田博光に徹底した内角攻めを行った。ベンチからは「もっといったれ!」のヤジが飛ぶ。
内角球を要求したのはキャッチャーの黒田正宏。門田の南海時代の同僚だ。
しつこい内角攻めに業を煮やした門田、大阪球場の裏の通路を通って西武ベンチに怒鳴り込んできた。
「黒田出てこい! オマエがやらしたんじゃろう!」
「いや、僕じゃありません」
次の瞬間、門田の血走った視線は工藤に向けられた。
「ボウズ、おまえか!」
「いえ、わざとじゃありません」
頭を下げる工藤に、門田はこんな捨てゼリフを吐いたという。
「当たり前じゃ! わざとやったら殺しとるぞ!」
映画「仁義なき戦い」のテーマソングが流れてきそうな、昭和プロ野球のワンシーンである。
<この原稿は2020年4月6日号『週刊大衆』に掲載されたものです>
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