100歳を超えている人でなければスペイン風邪の恐ろしさはわからないだろう。

 

 

 米国が感染源とされるこのインフルエンザは世界中で猛威を振るい、当時の人口の4分の1にあたる約5億人が感染したと言われている。大流行したのは第1次世界大戦の最中だった。

 

 死者は、世界で5000万人~1億人。国内で約39万人(当時の人口約5500万人)。

 

 ちなみに第1次世界大戦の戦死者は約1600万人。インフルエンザの方が、人類にとってははるかに恐ろしい災厄であることを数字は証明している。

 

 約100年前のインフルエンザは、大相撲をも直撃した。

<力士仲間にたちの悪い風邪がはやり始めた。太刀山部屋などは18人が枕を並べて寝ていた。友綱部屋では10人くらいがゴロゴロしている>(朝日新聞1918年5月8日付)

 

 部屋での集団生活を基本とする相撲社会は、必然的に集団感染のリスクも高い。そのため、国内では「相撲風邪」と呼ばれたという。

 

 スペイン風邪のパンデミック(1918~19年)から約100年後の今年、世界は新型コロナウイルスの猛威の前になす術がない。

 

 これを受け、今年7月24日に開幕が予定されていた東京五輪は来年7月に延期された。

 

 開催都市のトップである小池百合子都知事は「クリアになってゴールが具体的になった」と語ったが、ゴールポストが後ろに下がることはないのか。

 

 悲観論を述べれば、1年後、世界中からコロナが消えている保証はどこにもない。五輪マークはヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカ、オセア二アの5大陸の団結や友好を表しているが、ひとつの大陸でも「完全な形」(安倍晋三首相)に戻っていなければ、それはもはや五輪ではない。

 

 ビル・ゲイツが人類の最大の敵を「ミサイルではなく微生物(ウイルス)なのだ」と喝破したのは5年前だが、不幸にも予言は的中してしまった。コロナの霧は、いつ晴れるのか……。

 

<この原稿は『週刊大衆』2020年4月20日号に掲載されたものです>

 


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