止まっていた世界のサッカーが、ようやく動き出そうとしている。

 

 新型コロナウイルスの封じ込めに成功しつつある韓国ではKリーグが5月8日に開幕する。しばらくは無観客で実施され、試合数自体も減らしてシーズン成立を目指していくことになる。感染拡大によって中断、または打ち切りを余儀なくされた欧州に目を移すと、ドイツは5月15日から再開するという(ブンデスリーガ1部、2部)。衛生管理を徹底するガイドラインに沿い、無観客で開催予定だ。ドイツでは感染拡大のピークが過ぎたと判断して各種制限の緩和に出ており、ブンデスリーガ再開もこの一環だと言える。

 

 Kリーグやブンデスリーガが順調に日程を進めていくことができれば、世界各国にとっても参考になるはずだ。

 

 そんな折、国際サッカー連盟(FIFA)が1試合の交代枠を「3」から「5」に増やすルール変更を提案したというニュースが流れた。国際サッカー評議会(IFAB)が承認すれば、各国に判断が委ねられることになる。

 

 数カ月に及ぶ中断の影響により選手のコンディションが落ちてしまっている状況で、どのリーグも過密日程を組まなければならない。かつ欧州はこれまで避けていた夏に試合を組み込まなければならなくなる。選手層の厚いチームが有利になることは確かだが、選手の健康面を考えれば反対する理由は見当たらない。よりフレッシュな状態の選手が入ることによってサッカー自体もエネルギッシュになる効果が出てくるかもしれない。

 

 Jリーグにとっても、これは歓迎すべきことではないだろうか。現時点でいつ再開できるか見通しは立っていない。もし夏に再開となれば猛暑のなかで過密日程をこなしていかなくてはいけなくなる。5人交代を採用すべきだと考える。

 

 交代のタイミングは従来どおり3回のため、「試合が止まる時間が長くなる」ということもない。1回の交代で2人入れ替える場面が増えるため、監督の手腕がこれまで以上に問われることにもなる。

 

 5人交代制は今回の特例措置ではあるものの、そもそもこの動きは新型コロナウイルスの問題が起こる前からあった。昨年11月、イタリアサッカー連盟(FIGC)がIFABに対して5人交代案を提起している。実際、IFABでも検討されてきたと思われる。

 

 サッカーの高速化が進み、選手によりハードワークが求められている現代サッカーにおいて交代枠の増加は、時代の要請でもあるような気がしている。延長戦において4人目の交代を認めるルールは欧州チャンピオンズリーグ(CL)、ヨーロッパリーグ(EL)でも導入されている。日本でも2018年のYBCルヴァンカップで初めて採用した。

 

 ちなみに2018年のロシアワールドカップでも導入され、決勝トーナメント1回戦のロシア―スペイン戦で初めて「4人目交代」が実現している。

 

 筆者もモスクワのルジニキスタジアムでこの試合を取材したが、スペイン相手にハードワークを続けるロシアが延長に入って4人目を投入できたのは大きかった。結局、PK戦の末にスペインを破るアップセットを起こし、8万人を収容するスタジアムが揺れるほどの「ロシア! ロシア!」の大合唱は今なお記憶に強く焼きついている。

 

 働き方や生活スタイルまで変わろうとしている今。サッカーの世界でも、ルールを含めてもう一度見直すいい機会なのかもしれない。

 

 交代枠をいきなり「5人」にするのではなく、まずは「4人」にすべきだという意見もあるだろう。しかし過密日程や選手のコンディションを考えても、一気に2人増やす大胆案のほうが魅力的に映る。

 

 導入後に「こっちのほうがサッカーが面白くなった」という評価が広まれば、5人交代制が来シーズン以降も継続となる可能性は十分にあるだろう。


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