STAY HOME生活が続くと、読書をする時間も増える。

 もう一度じっくり読み直してみる本もある。昨年12月に出版された『岡田メソッド』(英治出版刊)もそのひとつ。FC今治の岡田武史会長が4年掛かりで構築したメソッドをもとに、完成させたサッカー学術書は約300ページにも及ぶ。

 

 岡田は2014年にバルセロナのメソッド部長であったジョアン・ビラと出会い、「16歳までに身につけさせるプレーモデルをつくる」ことを決心。バルセロナの“コピー”に走るのではなく、ヒントを得たうえで日本人に合ったものを目指そうとした。

 

 指導者向けではあるものの、FC今治のオーナーに就任してメソッドをつくり上げるまでの苦悩なども描かれている。強い意志と浪漫には、岡田の熱を感じることができる書でもある。

 

 本書の内容は専門的な話が多くなるので割愛したい。ただこの本はサッカーというフィールドに収まらず、他のスポーツの育成においても参考になるのではないかと感じる。というのも選手たちに届ける言葉、表現が非常に明確化されているのだ。

 

 一例を出したい。岡田がFC今治U-15の紅白戦の際に指示を出すエピソードがつづられている。相手にプレッシャーを掛けられて何も攻撃ができなかったチームへ、こう伝えたそうだ。

 

「アンカーが2人とも“第2エリア”にいるからトップへのパスコースが閉じられている。センターバックが持ったらアンカーの一人は怖がらずに“第1エリア”に入って“①のサポート”をしろ。センターバックはパスを出したら、すぐに“ブラッシング”でボールを受けて前にフィードをしろ」

 

 部外者ならばサンドウィッチマンじゃないが「ちょっと何言っているのか分からないんですけど」と言いたくもなる。ただ、FC今治の育成選手たちはこれらの専門用語をしっかりと頭に叩き込んでいる。“第1エリア”とは直接ボールに関与する範囲、“第2エリア”とは直接かつ間接的にも関与する範囲などと区分されており、“①のサポート”とはボール保持者が相手のプレスを受けていて助けてやらなければならない緊急のサポートと定義づけている。“ブラッシング”とはパスを出した方向に動くパス交換のことだ。

 

 こうやって「岡田メソッド」の用語を当てはめていくと指示がはっきりとしていて個々の選手に伝わりやすく、チーム全体でも共有しやすい。

 

 以前だったら、岡田はこう伝えていたそうだ。

「センターバックがボールを持ったら、みんなそんなに怖がらないでサポートしてやれ。それからしっかり動いて、トップへのパスコースもつくらないと」

 

 イメージは伝わっても、具体的にどう動いていいかまでは伝わらない。それぞれやろうとすることがバラバラになってうまくいかない恐れがある。

 

 機械的ではあるものの、これは思考の放棄ではない。16歳までに身につけさせておいて、そのうえで「解放」の段階に入るのだ。立ち戻れる場所=基本があるから、応用の発展につながるという考え方のように思う。

 

 本書はあくまで育成年代にあたる子供たちの自立を促すことを目的としている。

 

 以前、岡田にこの本についてインタビューしたことがある。何を伝えたかったのかと問うと、彼はこう応じた。

 

「日本のスポーツ界はパワハラ問題が取り上げられたりしたこともあったけど、コーチの言うことをそのまま『はいっ!』と聞いて、それで勝ってきたという側面もある。でもね、それだとどうしても限界にぶつかる。これは主体的にプレーする自立した選手を生むためのメソッドだと思っている」

 

 子供たちへの言葉は明確に、分かりやすく。それが正しく自立を促す“第一歩”だと言えるのかもしれない。


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