ブンデス再開 アジアマネーの勢力図変わるか
朝の山手線の乗客が35%しか減らなかったことを受け、「出勤しちゃうんだ」と為末大さんがつぶやいたのは4月7日のことだった。待ち受けていたのは結構なバッシング。
それがどうだろう。1カ月ほどがたったこの国では、自粛警察が幅を利かせている。自粛を促すニュアンスに対する袋叩きから、自粛に抗う人たちへの袋叩きへ。世論が一変するには、普通、結構な時間がかかるものだが、今回の振れ幅の大きさと、方向転換の速さといったらない。良くも悪くも変わる国、変われる国ってことですか。
さて、ドレスデンの選手に感染者発覚だの、食肉工場でクラスター発生だのと気になるニュースも聞こえてくるが、いまのところ、ブンデスリーガは今週末に再開されることになっている。どうやら、「大丈夫だからやる」というより「やらなければ潰れる」という色合いが強いようだが、今後の推移如何では、欧州の勢力図が塗り替えられるきっかけになるかもしれない。
限られたメガクラブを除き、リーグ全体の収益や選手のギャランティーを考えた場合、プレミアがずぬけた存在であることに異論をはさむ人はいまい。何しろ、ブンデスリーガの大半のクラブが得ている収入は、プレミアの最下位チームのそれにも及ばないのだ。
では、英国とドイツ。どちらの経済力が上かといえば、これは答えがわかれるところ。にもかかわらず、両国のクラブに衝撃的なまでの経済格差が存在している理由のひとつは、ユニホームの胸スポンサーを見ればわかる。
プレミアは20チーム中13チーム。ブンデスは18チーム中わずかに1チーム。これ、アジア系スポンサーの数である。
ちなみに、ブンデスで唯一のアジア系となるスポンサーはハンブルクについているエミレーツ航空(UAE)なのだが、そもそも、ブンデスの場合は18チーム中12チームがドイツ企業。自国の企業スポンサーがひとつしかないプレミアとの違いは歴然としている。
だが、もしブンデスが順調にスケジュールを消化し、プレミアが大きく後れを取るようなことがあると、資金の流れに変化が出てくる可能性がある。
米国の野球ファンの中には、いままでは見向きもしなかった台湾や韓国に目を向ける人が現れているという。ライブで試合を観戦したいと思えばそこしかないのだから仕方がない。そして、ブンデスとプレミアの間にある格差は、巨大ではあるものの、メジャーと韓国、台湾との間にあるものに比べればなきに等しい。
しかも、プレミアで胸スポンサーをしているアジア系企業の多くはオンライン・カジノであり、試合が行われなければ、彼らの商売はあがったりだからだ。
プレミアとドイツの経済格差は、世界経済とドイツ経済の格差、でもあった。ちなみに、まだ両者の経済力が拮抗していた20年前、プレミアで胸スポンサーをしていたアジア系企業は、エミレーツ航空とドリームキャスト(セガ=日本)の2社だけだった。
蛇足ながら、今季のJリーグにおける日本企業を除くアジア系胸スポンサー企業の数は……ゼロである。これもバーンと変わらんかなあ。
<この原稿は20年5月14日付「スポーツニッポン」に掲載されています>