2017年11月にNPB(日本野球機構)コミッショナーに就任して以来、最大の危機到来である。

 

 

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により開幕が延び延びになっているプロ野球は、未だに開幕日が設定できない状況が続いている。

 

 4月3日、NPBがJリーグと合同で設立した「新型コロナウイルス対策連絡会議」の第5回会議後、斉藤惇コミッショナーは次の談話を発表した。

 

「どこに感染のピークが来るのかはっきりしない。状況が流動的であり、本日、開幕日をいつにするか決定することは困難である」

 

 新型コロナウイルスに生殺与奪の権を握られた今、誰が責任者でも、そう口にするしかあるまい。

 

 その4日後、日本政府は新型コロナウイルス感染拡大に備える改正特別措置法に基づき、緊急事態宣言を発令した。対象地域は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県(後に全国に拡大)。12球団のうち、巨人、東京ヤクルト、横浜DeNA、埼玉西武、千葉ロッテ、オリックス、阪神、福岡ソフトバンクの8球団の本拠地が、この中に含まれている。

 

 これを受け、斉藤コミッショナーは次のメッセージを発表した。

 

<残念ながら事態は楽観できる状況にはありません。先生方からも厳しい予見を頂いて先般開催時期を再延長させていただきました。(中略)緊急事態宣言を受け、我々プロ野球12球団と日本野球機構は、専門家の先生方の力を引き続きお借りしながら、ファンの皆様と一体となって艱難を乗り切り、国民的スポーツであるプロ野球として、歓喜に満ちたパフォーマンスを披露できる日を再び実現すべく努力して参ります>

 

 球団幹部の中には「年内の開幕は難しいのではないか」と悲観的な見方をする者もいる。「7月24日開幕予定だった東京五輪が1年延期に追い込まれた今、正直言って夏に開幕するのは難しい。無観客試合を願う声もファンの一部にはあるが、それでは赤字の垂れ流しになってしまう恐れがある。今はコロナの嵐が過ぎ去るのを待つしかない」

 

 過去、プロ野球の公式戦が実施されなかったのは太平洋戦争の戦局が悪化した1945年の1回だけである(非公式な大会としては阪神が中心となり同年1月に「正月野球大会」を実施)。

 

 新型コロナウイルスとの戦いを「戦争」にたとえる国家指導者が相次いでいる。最初は大袈裟な気もしたが、爆弾を投下し合うだけが戦争ではない。見えない敵は、ある意味、ミサイル以上に手強い。人類は今回、そのことを身をもって知ったのではないか。

 

 プロ野球に話を戻せば、米国ではメジャーリーグベースボールを「ナショナル・パスタイム」(国民的娯楽)と呼ぶ。それは日本も同様だ。それにしても、球音の響かない春が、これほど寂しいものだとは想像もつかなかった。プロ野球に限った話ではない。ショービジネス全てにおいて言えよう。

 

 ともあれ娯楽のない日常は、砂を噛むように味気がない。「人はパンのみに生きるにあらず」とは、なるほどよく言ったものである。

 

<この原稿は2020年5月3日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

 


◎バックナンバーはこちらから