プロ野球が危機に直面した時、「大丈夫か?」と真っ先に球界関係者の口の端に上るのが、広島カープである。12球団で唯一親会社を持たない独立採算制の球団だからだ。

 

 しかし、広島に関する財務状況を調べると、底堅さが浮かび上がる。イソップ寓話の「アリとキリギリス」にたとえていえば、典型的な“アリ型経営”。ぜいたくすることなく、せっせと貯め込んだおカネ、すなわち利益剰余金は、第63期決算公告(2018年12月決算)によると82億6200万円に上る。また経営の短期的な安定性を示す指標として用いられる流動比率は211%で12球団トップ。知り合いの税理士に聞くと「超の字のつく優良会社」ということだった。

 

 これも決算公告のデータだが、18年の広島の売上高は189億4230万円。球界の縮小再編に抗議するかたちで選手会がストライキを打った04年の前年、すなわち03年の売上高が65億4300万円だったことを考えると、実に3倍近い数字だ。この伸びは入場者数の増加と比例している。03年に94万6000人だった入場者数は09年、マツダスタジアムの開業と同時に187万3046人にまで増えた。15年には200万人を突破し、18年には223万2100人と過去最多を記録した。

 

 人が集まれば、入場料はもちろん、飲食やグッズ収入も増えていく。とりわけ好調なのがグッズ収入だ。かつて3億円にも満たなかった売上は14年25億円、15年35億円、16年53億円、17年54億円と右肩上がりで推移している。

 

 カネを貯め込んでも、投資を惜しみ、弱ければ意味がない。しかし、広島は16年から18年にかけてリーグ3連覇を達成している。人件費を概ね総売上の20%程度に抑制しながらの3連覇だけに価値がある。

 

 プロ野球は典型的なキャッシュ・イズ・キング、すなわち「現金商売」の世界である。堅実経営の広島といえども「無観客試合」が長く続けば、バランスシートが痛む。いや、それは広島に限った話ではない。来年はキャンプを縮小するなど固定費の見直しを迫られるかもしれない。長期に及ぶ集団生活は第二波が予想される新型ウイルスに狙われやすい。ニューノーマル(新常態)という言葉が流行っているが、プロ野球もコロナ後の在り方を模索しなければならない。気の重いストレステストの先には希望が待っていると信じたい。

 

<この原稿は20年5月27日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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