9月の日本女子ソフトボールリーグ開幕に向け、調整中の伊予銀行VERTZ。今季は7人の新戦力が加わった。そのうちの1人が日本体育大学の正捕手で、全日本大学選手権大会(インカレ)2連覇に貢献した安川裕美だ。

 

 

 

 

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、日本リーグは前半戦中止となったため、安川が実戦で実力を披露する機会はまだない。この春から彼女を指導している伊予銀行・秋元理紗監督の見立てはこうだ。

「バッターとして能力が高い。配球を読み、飛ばす力もある。状況に応じたバッティングができ、打席での対応力は高いと思っています」

 

 2連覇を果たしたインカレ決勝で、いずれも先発マスクを被った。3年時も4年時も長打を放ったパンチ力は魅力のひとつだが、安川自身がこだわるのはバッターボックスに立つことよりも、キャッチャーミットを構える時である。

「配球、試合を運ぶことが好きなんです。キャッチャーの魅力は自分で背負えること。勝っても負けても配球が重要です。例えばピッチャーが構えたところに投げられず打たれたとしても、投げられないところを要求したキャッチャーが悪いかもしれない。だから負けた時は自分のせいにしていい。全部背負えるところにやりがいを感じます」

 

 ソフトボールマガジン2020年6月号で伊予銀行が特集された際、チームメイトから<いかにも捕手って感じで人をよく見ています>と紹介されている。その点は秋元監督も同意する。

「よく周りを見て、いろいろなことに気付くという印象がありますね。バランスの取れた感覚でモノを言える。キャッチャーらしい性格だと思います」

 

 兵庫県出身の安川は、小学2年でソフトボールを始めた。2歳上の兄がワールドというチームに所属していたことがきっかけだった。男子に交じってプレーしていたが、6年時に女子で選抜チームをつくった際にはキャッチャーを務めた。以降は捕手一筋だ。

「最初はただキャッチャーが単に楽しかった。中学、高校と続けていくうちに配球が好きになりました」

 

 中学はソフトボール部がなかったため、明石Pクラブに在籍した。高校は兵庫の強豪・須磨ノ浦に進んだ。2年時に全国高校総合体育会(インターハイ)でのベスト4入りに貢献した。大学は名門・日体大に入り、3年時からレギュラーの座を掴んだ。インカレ2連覇を経験し、4年時にはキャプテンを務めた。

 

 早くから伊予銀行への入団が決まっていたわけではない。実は安川、大学卒業後は教師になるつもりだったからだ。ソフトボールを続けると決めた同期たちのように実業団チームのセレクションは受けなかった。ところが4年時の6月頃、教育実習を終えても、安川のソフトボールに対する熱は冷めなかった。それどころか“日本リーグの1部でソフトボールを続けたい”との思いが込み上げてきたのだ。

「教職課程を履修していたので、先生になると考えていました。でも教育実習を終えた頃には“知識や経験が足りない。まだ先生になるのは早いかな”とも思ったんです」

 周囲に相談すると、ほとんどの人がその決断に背中を押してくれたという。

 

 とはいえ各チームのセレクションは既に締め切られていた。日体大の監督を通じ、伊予銀行からはチャンスをもらえる運びとなった。昨季の日本リーグ中断期間中、松山市で行われたセレクションには安川を含め数名が参加した。「自信は全然なかった」という安川だが、伊予銀行側は彼女を高く評価した。「いいスイングする。技術以外の雰囲気も良かった」と秋元監督。セレクションには同じポジションの選手もいたが、入団が決まったのは安川だった。

 

 この春、大学4年間を過ごした東京から愛媛へと環境はガラリと変わった。安川にとって環境の変化にも戸惑いはなかったという。「チームはとても明るく、先輩方が優しくしてくれています」。チームの雰囲気の良さにも助けられているのだろう。

 

 今季は前半戦が中止となる異例のシーズンだ。現在は政府から全国47都道府県に発令されていた緊急事態宣言も解け、チームは後半戦に向けて汗を流している。ルーキーの安川も1部リーグデビューを目指し、トレーニングに励んでいる。

 

 ポジション争いは容易ではない。伊予銀行の正捕手候補にはキャプテンの二宮はながおり、二番手の若林舞は昨季2本塁打と打力でもアピールしている。

「もちろん正捕手は狙っています。試合に出れたり、出られなかったりはあると思いますが、どんな状況でもチームが勝つために、自分のできることを果たしたいです」

 大事なのはチームが勝つこと。昔から、その姿勢はブレていない。

 

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