愛媛FCレディース大矢歩、感謝を胸になでしこ1部への挑戦
今季の愛媛FCレディースは、チーム創設10年目にして初の1部挑戦だ。昨季プレナスなでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)2部で7得点と活躍し、2部優勝&1部昇格に貢献した大矢歩には攻撃の柱としての期待がかかる。伊予トータルサービス株式会社で働きながらサッカーを続ける彼女に、今季の意気込みを訊いた。
「“サッカーができるのは当たり前じゃない”と思いました。今まで何不自由なく生活していた中で、当たり前のように思っていたことが当たり前じゃないとすごく感じましたね」
当初3月21日に開幕予定だったなでしこリーグは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、延期になった。日本政府から緊急事態宣言が5月に解除され、リーグは6月にシーズン開幕日を発表した。新たに設定された開幕日は7月18日だ。
約4カ月遅れのスタートである。「やっと試合ができる喜びと、ようやく1部で戦えるという気持ちでした」と大矢。リーグカップが中止となり、国民体育大会の今年中の開催はなくなったが、リーグ戦18試合を消化するためには、毎週のように試合が組まれることになりそうだ。特に開幕からは真夏の連戦が続き、選手たちには例年以上にタフさが求められる。
今季の愛媛FCレディースは10人の選手が新たに加わった。ようやくチーム練習は再開したばかり。ここから徐々に強度を上げていくことなるだろう。それまではランニングなどの個人練習が中心だった大矢もホッと胸を撫で下ろしている。「仲間とパスできるのが本当にうれしいし、楽しいです」。自粛期間はいつも以上に本を読み、自分自身を見つめ直す時間になったという。
昨季、大矢はなでしこリーグ2部で17試合7得点、シュート成功率は35%を記録した。18本以上のシュートを打った選手の中で2部リーグNo.1だった。3本シュートを打てば1本はゴールになる計算である。
「今季は全試合出たい。得点は去年を上回り、2桁獲りたいと思っています」
初の1部挑戦。昨季の皇后杯3回戦は格好の腕試しの機会となった。しかし1部7位のノジマステラ神奈川相模原に0-3で敗れた。シュートは前半の1本のみと圧倒された。「そこまで圧倒的な差は感じませんでしたが、通用するところしないところ、自分たちの弱さを明確に把握できた一戦でした」と大矢。この試合で、チームが持ち味とするパスサッカーを極めていけば通用するとの手応えと、90分を通してのフィジカルの強さや勝負どころの決定力などに課題を感じたという。
7月18日の開幕戦はアウェイで同じく昇格組のセレッソ大阪堺レディースと対戦する。第2節はホームにニンジニアスタジアムで昨季3位のINAC神戸レオネッサを迎え撃つ。
「どのチームも簡単に勝たせてくれないとは思いますが、1部のレベルで自分がどれほど通用するのか、いかに点を獲って活躍できるかが楽しみです」
群馬県出身の25歳の大矢は現在松山で暮らしている。愛媛には環太平洋短期大(宇和島市)に入学してから7年生活している。
「宇和島、松山でも皆さん声をかけてくれて本当に優しい。住みやすく今もやっていけているのは、まわりの人に支えてもらっているからだと思います」
伊予トータルサービスに勤めて5年目になる。
「コロナの影響で、自粛期間は出勤する人数を減らしていました。今までやっていなかった業務を新たに任されることもありました。まだまだできないこともたくさんありますが、力を尽くしていきたいです」
サッカーも、職場でも全力を尽くすことが彼女の信条だ。
徐々に日常を取り戻しつつあるが、開幕2試合はいずれもリモートマッチ(無観客試合)で行われる。チーム練習は非公開が多く、愛媛FCレディースの選手たちはファンやサポーターと触れ合う機会もまだ少ない。
「応援してくださる方の思いや、サポーターの掛け声が自分たちの力になっている。それは昨年の最終節でも感じました。応援に来ていただけることも、“当たり前じゃない”と改めて感じています」
まずはプレーで、ファンやサポーターに力を――。それが日頃の感謝を示すことになるだろう。
昨季の2部優勝&1部昇格で、メディアに取り上げられることも増えたという。大矢もそれは実感している。
「2部を優勝したことで、いろいろと取り上げていただき、多くの人に知ってもらえたと思います。もっとたくさんの方に知ってもらい、会場へ足を運んでいただけるように頑張ります」
来年は延期となった東京オリンピック・パラリンピックが開催予定だ。秋には日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」がスタートする。スポーツ界、女子サッカー界が大きな盛り上がりを見せる年である。まずは愛媛FCレディースが1部での戦いを通じ、県内のスポーツを活気付ける。来年に弾みをつけるため、オレンジの9番の活躍に注目したい。